ケフィア村の宿屋さん
なんか具体的な規模を表せる文章力が欲しい…
◤ストロー◢
「はあ、こんなところで宿屋、ねえ。裏の麓ならまだしも、何もこんなところで…」
「いやあ、でもよう。忘れた頃にフラっと来る冒険者とか行商人がちょうど中継地点のここに泊まれる場所が無いって文句ばかり垂れるじゃあないか?」
「いやいやそりゃあよう。たまに来るような連中はいいだろうが、冬になったら半分が麓に下りちまうようなとこだぞココはよう? なあ、旦那よう。商売にゃあなりっこないと思うんだがなあ。本当にここで宿屋なんてやるつもりなのかい?」
村の入り口にあれよこれよと村人が集まってくる。暇なんだなあ。でも、地元の人間の言う事には一家言あるだろう。聞いておいて損はない。
「おい!よそ者!オイラ達に断りも無しに宿?店を出すつもりかあ~?」
「そうだそうだ!俺達が認めなきゃあこの村に住めないんだぞう!」
村人たちの間を縫って二回り小さい者達が俺の前に転がり出てくる。どうやらこのケフィアの村の子供達のようだ。はは、元気な悪ガキ共だ。
「コラ。お前らが旦那に向って偉そうな口聞くんじゃあねえ!それに決めんのはお前らの爺さんや親父達だろうが」
村の子供達に向って俺の後ろにいたデスルーラがすごむが、悪ガキ共はどこ吹く風だ。
「へへん。ジジ様はまだ帰って来ないから、孫の孫のオイラがこの村で一番偉いんだぞ!」
「そうだそうだ!俺達が長老の代理なんだい!」
「孫の孫…ってすげえな。玄孫ってヤツか? よし、じゃあよお。長老代理殿、どうかこれでひとつ納めてくれないかね」
俺はそう言ってニヤニヤしながらあるモノを取り出して見せる。
「おお!? あんちゃん良いモンもってんじゃん! くれるのか?」
「"そでのした"ってヤツだな!なかなかわかってるんじゃんか!認める!住んでいいぞ」
「わーい!」
ガキ共が俺の差し出した袋に殺到して中身を両手につかみ取って早速口に運んで嬉しそうに咀嚼している。俺が出したのは道中で運良く採れた赤いコケモモのような木の実とスパイスベリーという、なんか黄色い色の…何と言ったかな、そうジュニパーベリーってヤツみたいなのだ。確か有名な蒸留酒の香りづけとかに使われたたんじゃあなかったっけ? 俺も口にしたが胡椒みたいなピリッとした風味がして結構美味かった。リレミッタの奴が逃げた岩場の後ろにたまたま群生地があったんだよなあ。そういやあ、その礼をアイツに言い忘れてな。まあ、どうせ近い内に会えるだろうさ。…その時がちょっと怖いが。
「村のガキ共がすまないなあ…まったく、生意気盛りでなあ」
「いいさ。子供が元気なのは良い村の証拠だろ? そうだ、もうひと袋あるんだ。今は手元にこんなもんしかないが、挨拶の品と思って受け取ってくれないか」
「いいのかい?」
「…麓で売れば銀貨くらいにはなったろうに。旦那は人が好過ぎるぜ」
人の良さそうな村人達で良かった。大した量じゃあないが、皆で仲良く食ってくれよ。あ、そういえば…
「そうだ。そこの長老代理殿、この村には"ドラゴンホール"ってドデカイ穴があるんだろう? どこに行けば見れるんだ?」
「モグモグ……ん。あんちゃん、あんなのが見たいのか? いいぞ。案内してやるよ!」
「ついて来てよ!」
ベリーをリスのように頬張った子供達が村の中に駆けていく。俺もデスもそれに続いて村に入る。
「若旦那、あんな陰気な場所に行っても面白いことはないと思うぞ? まあ、見に行くんなら長老がいない今だろうなあ」
「あ。くれぐれも柵の先には行かないでくれよ? 穴に落っこちたらもう助からないからよ。下手したら穴の底の連中を怒らしちまうからな…」
穴の底の連中? そのドラゴンホールって穴に何か住んでんのか? まあいいや行けばわかるだろう。村の中は広いようで狭い、端に目をやればまだ手付かずの岩肌がいくらでも目に入るし、整地した平らな地面が少ないというか道幅ほどしかない。その周囲まばらにテントかと思ったが布張りの建物が見える。遊牧民とかのヤツのややでっかい版と言ってところかね。木の部分はドアや節々といったところで他は石を組んだようなものだ。なるほどね、こんな山の上だ家を作れるほどの木材なんてそうそう手に入らないか。そんな建物が大小10と少し。村の中央あたりに石造りの結構立派な建物がある。
「なあ、デス。あの石の建物はなんだ?」
「ああ、ありゃあこの村の聖堂だぞ。司祭様は普段あそこに居るんだ」
「ふーん。じゃあ、その横にある鎌を持った死神みたいな像は?」
「はあ。オイオイ…流石にミノミス像くらいは知ってるだろう。どんな村や都にもあるもんだろ?」
「知らんな」
デスの奴が呆れてやがるが、知らないものは知らん。ミノミス、ね…女神っぽくはないな。別の神様か何かなのか? よくみりゃあ優しい顔にも見えなくもない。 まあ、その司祭様とやらに会ったら聞いてみよう。実はウーンド様くらい偉い神様かもしらんしな。
その聖堂を通り過ぎてむらの端にある下り坂を降りていくと、横に長く、先から先まで2キロくらいの地面が干しレンガで舗装された三日月型の広場とその前方に巨大な穴があった。その仕切りに俺の腰の高さくらいの軟な枝の柵があったが…想像してたよりも穴はデカくて広くて深い。大パノラマだ。もしコレが某ゲームならこの穴の底に別の世界が見えてもおかしくはないと思える。山に囲まれている大穴は一瞬、死んだ噴火口にも見える。思わず吸い込まれそうな感覚すら感じたぜ。
「ここがそうだよ。まあ、オイラ達もジジ様の言いつけで年に1回ここに集まってお祈りするくらいだし。本当に何もないよ? 石投げこんだり、悪戯したら大人達がもの凄い怒るしさあ~」
「そうそう!」
怒る…まあ子供が間違えて落ちたら危ないってのもあるんだろうが。なんか引っ掛かるんだよなあ。
「なあ、お前らさあ。なんでここでそのお祈りするのか知ってる?」
「え? 確かジジ様、この村の長老だけど。"どらごんすれいやあ"の一族の生き残りなんだって聞いたよ。大昔にすんごく悪いドラゴンがいてさ。それをジジ様の家族がこの穴まで追い詰めて倒したんだって。でも、その悪いドラゴンの手下がまだこの穴の底で生きてるんだってさ。でもホントにいるのかな~?」
「「ねぇ~」」
「……ドラゴンスレイヤー。また、とんでもないパワーワードが出やがったなあ」
「旦那、俺もその話は何度も聞いたことはあるが。本当かどうかは…なんせ悠に百年以上前の話らしいからな」
デスの奴も鼻を鳴らしてボーっと穴の底を眺めてる。まあ、そうだわなあ。田舎あるある伝説とかかもしれないしなあ。まあ、迷信深いってのもあるんだろうが、この話は覚えておこう。
しかしだ…このロケーションは結構良いぞ。気に入った!
「よっしゃ!ここで宿屋を出す!」
「…出す?ここに宿屋小屋を建てるってのか? いやあ~もうチョット場所を選んだ方が良いぞ? 流石にこんな陰気な場所でやらなくても…」
デスの奴が渋っているが、俺はここに決めたぞ!フィーリングってヤツだな。
「あ。そういや、ここってさあ。そのお祈り?以外で何かに使ってる?」
「ううん。何もないぞ? 半年に何度か皆で掃除しに来るくらいかな」
じゃあいいじゃん。こんな良い場所使わなきゃあ勿体無いぜ!俺は早速、宿屋を出すべくウインドウ画面を出現させるが…ん?
(:現在のスキル使用状況では以下の機能が使用不可能です。………設備………宿泊設備全般。宿泊者鑑定。プライベートルーム及びキッチン。………行動及び効果………悪質な来訪者の締め出し。宿泊者の全快。※建造物の中に最低1台以上のベッドの設置と利用料の徴収が必要です。:現在のスキルレベルはLV0。ベッド設置数1。現在、建物LV0が設置可能です。レベルアップが可能、利用者10/10達成。)
「やった!ブラウニー達を泊めたからスキルのレベルが上げられるじゃないか!?」
「おわっ!? 旦那、いきなり何を叫んでるんだ…?」
俺はデスの奴を無視してウインドウ画面を操作する。
(:レベルアップ完了、スキルレベルがLV1になりました。おめでとうございます。)
(:現在のスキル使用状況では以下の機能が使用不可能です。………設備………宿泊設備全般。宿泊者鑑定。プライベートルーム及びキッチン。………行動及び効果………悪質な来訪者の締め出し。宿泊者の全快。※建造物の中に最低1台以上のベッドの設置と利用料の徴収が必要です。:現在のスキルレベルはLV1。ベッド設置数4。現在、建物LV1が設置可能です。次のレベルまで、利用者0/20。)
おおやったぜ!設置できるベッド数がいきなり4台に増えたぞ。建物のレベルも上がってる。よし、早速出してやろっと。
「おい、お前ら…俺の前に出てくるなよ? 最悪死ぬぞ」
「「え?」」
俺はこの広場への出入り口の横目掛けて握りこぶしを突き出す。
「イエアアアアアアァァァァッ!!(特に意味は無い)」
「「ぎゃあああ!?」」
俺達の前には立派な木造の平屋が佇んでいる。しかも、今度はちゃんと宿屋たるベッドの絵の看板が軒先に揺れている。うん!間違いなく宿屋だな。
「お~結構良い感じじゃあないのよ。さあ、入ろうぜ?」
俺は宿屋のドアを開いて振り向いた。
「だ、旦那…!? やっぱりアンタ本当にたったひとりでブルガの森を抜けて!ま、魔術師だったのか…」
「あんちゃんスゲエエエ!? 魔術師なのかあ~!オイラ、初めて魔術見たぜ!?」
「「スゲエエエ!?」」
子供達の叫びが眼前の大穴に響いて木霊した。