ストロー・ミーツ・キャッツ
いいか皆!この小説は健全なんだからね!(大嘘)
◤ストロー◢
「あ!動くんじゃないって言っただろう!」
俺は再度、掛けられた警告に身を縮める。そりゃあ、愛と勇気だけが友達みたいな俺でも流石に弓矢は怖い。俺はハングアップの意味も込めて両手を上にあげようとしただけなんだが?
「…お前、魔術師だニャ? さっきもなんか魔術を使うとしてたんだリャ!」
おう、勝気なお嬢さんもいたようだな。剣がひとり、弓がふたり…3人組の紅一点といったところかね。結構可愛い顔をしてるじゃねえか…そそるねえ、って何かコッチが山賊みたいなこと考えるみたいだな。しかし、…獣人かあ。最初に俺にあの土間声を掛けてきたのはサーベルを光らせている隻腕の男か。かなり気合の入った面構えだ。そいで追加で俺にフリーズしてきたのは右隣の弓を番えた同じくらいの男だろうか…ってもアンソロ獣人の年齢なんかそう簡単にわかる訳がない。して、件の語尾が可愛い過ぎるのがもうひとり弓を番えて近づいてきてるのは恐らく女だな。まあ、唯一胸にサラシみたいなの巻いてるからな。フム…複乳とやらではないようだな。男女差もあるんだろうがケモ成分が低い、顔はうっすら毛がある程度で人間の女と大差ないようだな。
「ちょっと待ってくれよ。俺が魔術師だって?」
「ニャ!手を動かすんじゃないニャ!」
「リレー、迂闊に近づくな。俺達は魔力の感知には疎いんだ。単なる旅人の類じゃあねえのは明白。ろくに荷物も持ってねえどころか丸腰そのものだ。そんな奴がモンスターがウジャウジャいるはずのブルガの方から山に上がってこれる訳がない…」
隻腕に男の言葉で女獣人の足が止まる。おっと残念だ。もっと顔を近くで見たかったのだが…やっぱりかなり可愛いな? もしかしたら、女に飢えているのかもしれんな…気を付けよう。
「俺は魔術師じゃあないよ。ただの宿屋だ」
「…宿屋? 宿も無いのにこんな山肌でか?」
一定距離を保ちながら警戒を解かないもうひとりの弓を番えた男が顔を顰める。やべえ、余計に怪しまれたか?
「だから、この山の上の方に村があるんだろう? そこで宿屋を開いて商売したいと思ってんだ」
俺は懐からその支度金と思わせる為にボーゲンから押し付けれた金袋を獣人達の足元に投げる。器用にサーベルを逆手に持ち替えた男が拾い上げて中身を改める。
「…正気か? 俺達のような獣人が世話になってる手前、こんな事は言いたくはないが寂れた陰気な村だぞ。今でこそ遠征する冒険者とか商隊の通り道としても使われることもあるが、下手すりゃあ冬の通行者なんざ両手の指で足りちまうんだぞ。何処の世間知らずの坊ちゃんかは知らんが、若旦那。悪いことは言わない、ここから立ち去れ。金も返してやる」
「ニャ。デスルーラ、その銀貨…ニャア!?金貨も入ってるニャ!返しちゃうのニャ…」
ふうと溜息を吐いた男がもうひとりの男に袋を渡すと、腰の鞘にサーベルを納めた。どうやら見た目に反して理知的な人物らしい。つーか、デスルーラって凄い名前だな。
「いいか?リレー、俺達は山賊になるほど落ちぶれちゃあいねえ。それじゃあアデクのクソッタレ共と変わらねえだろうが。俺達の一族が身を寄せるこの山と、世話してくれたケフィアの村の連中に問題を起こさねえってんならそれでいいんだ」
「ニャア…」
尻尾を下げる女獣人を尻目にもうひとりの男が弓を外し、俺の方へ袋を持ってにじり寄ってきた。そうか、まだ俺がその魔術とやらを使えると思ってんのか。男が俺に袋を差し出したが、俺はあえて受け取らなかった。
「…? どうした」
「悪いがもう少し預かってくれないか。俺がそのケフィア村に着くまでな」
俺はニヤリと笑った。
(数分後)
俺達はデスルーラ達の複数ある見張り小屋まで移動していた。
「今日中に村まで行くのは無理だ。もう日が落ちる、暗闇を見渡せない人間の脚じゃあ危険だ」
そう隻腕の獣人、デスルーラが言うので素直に従った。それに銀貨の入った袋をはもうひとりの男にまだ預けている。俺が途中で変な気を起こして逃げ出さない担保としてだ、と半ば強引に言いくるめた。
暫く山道らしき路を歩くとその見張り小屋、と言うよりはテントが見晴らしの良い斜面に張られているだけのようなものだったが、俺達は無事到着した。もう周囲は薄闇に包まれて足元がおぼつかないくらいだ。獣人達はテントの周囲をあらためると焚火を起こした。
「呆れたニャア!じゃあアンタ、あのブルガの森からたったひとりで!しかもケフィア村までの道筋も知らずに山を登ってたのリャ!そんなの身投げと一緒だリャ!?」
「まあそうだよね」
何ともないかのように笑う俺を見る視線が何故か冷たい。
「ハハハ…ハ…ううんッ。改めて、村までの案内を受けてくれてありがとう。俺はストローってんだ。アンタ達は?」
「藁?人間にしては変わった名前だな。…フン。旦那を村に受け入れてくれるかどうかは、村の長老達の判断だ。まああの司祭様もいることだし、アデクの息がかかった者じゃあなきゃ放り出されることもないだろうさ」
そうぶっきらぼうに言ったのはこの獣人3人組のリーダー、デスルーラだ。名前はアレだが、思ったより悪い男とは思えない。隻腕の剣士のようだが、どうやらその腕もアデクとやらとの戦いで失ったようだ。アデクねえ~? まあ、村に着いたら聞いてみよう。あ、そうだ。
「なあ、デスルーラ。お前…もしかして、死んだら最後にセーブした場所に戻ってこれる能力とか持ってない?」
「はあ? せえぶ、って何だ。それに死んじまったらそれまでだろ。死なんと分からんような異能は要らん」
「ハハハッ!面白い男だな!それに、俺達に前払いとか言って銀貨十枚をホイと寄越すんだからなあ」
同じく焚火を囲む獣人の男、レミラーオだ。優れた弓使いだそうで、一族の中でもその腕は指折りなんだとか。ちなみに山の奥集落に嫁さんと子供もいるそうだ。今現在は出稼ぎ中のことらしい。
「そんなに大金かなあ~村に着いたら約束通りもう十枚出すぞ?」
「人間の街じゃあどうだか知らないが、それだけあれば俺達はひと冬越せるよ。…旦那のお陰で近い内に美味いものか薬を買って嫁子供のとこに寄れるよ」
そう言って、レミラーオは軽く頭を下げる。…いい奴じゃん。ゴメンな?最初、山賊とか思っちゃってさあ…それに引き換え。
「…怪しいニャ」
「何がだよ?」
「こんな場所までひとりで来たこともおかしいニャ。それと私達獣人に対して親し気過ぎて気持ち悪いリャ!そもそも獣人の命なんかより金の方が大事な人間なんキャがこんなに何ともなしに金を預けること自体が普通じゃあないニャ!やっぱりコイツはアデクの回し者か狂人魔術師リャ!」
そう言って胸元のダガーを引き抜き、隣に座ってネコ耳に夢中になって隙だらけの俺の喉元に押し付ける。
「止めろ!リレミッタ! 俺達はもう金を貰って仕事を引き受けた。お前は戦士としての誇りを捨ててまで金を奪い、獣にでもなる気か?」
「で、でもニャ!こんな奴が持ってる金なんてきっとアデクの悪い金に違いないリャ!それに、金貨さえあれば…仲間を取りもど」
「いい加減にしろ!…リレー、お前だって人間が皆、アデクみたいな連中じゃあないのは知ってるはずだろ…受けた恩に泥を掛ける気か」
デスルーラとレミラーオに強く窘められた女獣人は歯を食いしばった。腕をブラリと力なく下げ、無骨なダガーをやっとしまってくれた。はあ~ちびるかと思ったわ。危なくない? このメスケモ。ちょっと顔と耳がチャーミングしてるからってそこまで俺は甘くないんだかね!
「…旦那、悪かったな。今夜はそこのテントを使ってくれや。まあ大して居心地が良いわけはないだろうが、毛皮の無いのがこの山肌で寝転がるよりましだろ。俺達が番をする。レミー、悪いが近くをひとまわりしてきてくれ」
「わかった」
レミラーオが頷くと弓矢を担いで闇の中へと消えていった。すげえ~俺、もう焚火から半径10メートルでも離れられない自身があるぞ。まずこけるな。
「…それと、リレー。お前は旦那と一緒にいてやれ」
「ニャア!?」
「え゛。…ええ~」
「なんリャ!アタイに文句でもあるのリャ!」
そらそうやろ。なんたってさっき、この罪も無い宿屋の俺を殺そうとしたでしょアンタ?そりゃああの狭いテントでネコミミガールと御一緒できるのは本来有料ものだが…しかし、トラブル不可避としか思えんが、デスルーラの奴…何を考えてやがる。まあ、丸腰の人間の俺じゃあ強フィジカルな獣人娘には手出しできないと踏んだか。…正解だ、デスルーラ。力じゃあかなう気ゼロだわ。
「リレー、何も戦士のお前に娼婦の真似事をしろと言ってるんじゃあない。夜は冷える…旦那の側にいてやるだけでいい」
「ん、ニャ…」
「カ●ロか!? まあ、別にそこまでサービスしなくてもいいぞ?なんかこの人、おっかないし…」
何なら宿屋を出せばいい…とも思ったが、ちょいと場所が悪い。下手な場所に出すと建物が転がり落ちていく可能性がある。だが、俺の言葉に以外にも反応する者がいた。
「なんリャ!?アタイのようなオトコ女じゃあ不満リャ!」
「ちょ!なにをする!乱暴はよせ!?」
俺はテントの中へと無理矢理に女獣人に引きずり込まれる。このままじゃあ…レイ●されるぅ!?まさかの異世界レイ●!? …まあ、そうなったら甘んじて受けよう。うん、ケモ相手ならシカタナイネ!
(数分後)
外からはパチパチと焚火が爆ぜる音が聞こえる。静かだ。俺はテントの中に無理矢理寝転がされていた。というよりも狭すぎて立ち上がるほどの高さもスペースもないのが実情だが。それにしても…
「……なあ。ええと、獣人の女戦士、さん? 何故にずっと俺を見つめてらっしゃるのですか? それとこの暗闇の中で眼が爛々と光って、正直怖いんですけどマジで」
「……リレミッタ」
「はい?」
「リレミッタでいいニャ。…ねえ、藁男。さっきのこと聞かないのリャ?」
さっきの事?ああ、俺の喉にダガーで穴あけようとしてくれたことか。うん?イヤ違うな多分、アデクだとか仲間を取り戻すこと、とかなんとか言ってたっけか?
「別に。部外者に聞かれたいような話なのか? それに、俺はそのアデクとか、むしろ獣人のことについても何も知らねんだわ。それだのにいきなり難しそうな話に突っ込めるほど俺のクチバシは長くないんだわなぁ~。っとコレで納得したか?」
「………フ。面白い人間だニャア? 本当にどこの箱入り坊ちゃんなんだリャ」
リレミッタの雰囲気が変わった気がした俺は寝返りをうって奥に居る彼女を眺める。
「な、なんリャ? アタイに相手して欲しくなったのかニャ。……さっきは悪かったニャア。埋め合わせとして、今夜だけはアンタの女になってやってもいい…けどニャ、アタイも里に許嫁を残してきてるリャ。それに月の昇る日も近いから最後までは勘弁して欲しい、ニャ…」
そう言って暗闇の中で衣擦れのような音とともにファサリと床に何かが落ちる。恐らく彼女が巻いていたサラシだろうか。俺は無意識に体を起こし彼女に近づく、彼女は動かないが抵抗する素振りもないようだ。彼女の手からそっと鞘に収まったダガーが隅に置かれるのがわかった。
「…悪いが獣人を相手するのは初めてなんだ。……もし、嫌だったら、断っても構わないんだが。…体を触ってもいいかな?」
「………触れもせずに相手ができるのリャ? …好きにするといいニャ。フフ、毛無しにはアタイの毛皮が羨ましいんだニャア」
その俺を挑発するかのようなリレミッタの声に我慢できずに俺は手を伸ばす。……そう、ケモ耳に!
「ニャアァ!?」
「…うおぉ!ふわっふわあやんけ…堪らない!こりゃあ堪らねえぜ…!」
「ニャッ! ニャア!?」
俺は一心不乱に彼女の柔らかい耳とその周辺をまさぐる。
「ニャ!だ、ダメッ…!駄目だリャ!? そんな敏感なトコロばっかり…ニャッ!ニィ!…んなぁ!なあぁ~!なあぁ~~~~~ッなあああぁああ~~~~~~ぁあ~~~~~…………」
彼女の矯正がヨーグの闇夜に覆われた山々に響き渡った。……ふう。やってやったぜ!(ツヤツヤ) 俺ってば結構ケモナーの素質があるやもしれんな。
(翌日)
俺がグッタリしたリレミッタを抱っこしながらテントから出てくると、そこには呆れ顔のデスルーラとレミラーオの姿があった。
「…何事かとひと山先から戻ってきてしまったよ」
「旦那よお。頼むぜ、リレーだって女なんだ。里に戻る前にあんまり傷物にされちまうと、俺達も帰るに帰れなくなっちまうよ」
ちょっとやり過ぎたらしい。(テヘペロ)