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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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 ブラウニーの黒い宝石

ブラウニーっておいしいよね★

◤ストロー◢


 俺はベッドの上でまさに人形そのものように美しい姿で寝息を立てるチーピィ姫を見て安堵する。…にしても他の連中がキノコ頭なのに姫さんだけはセイヨウギク?あの真ん中が黄色くて白い花弁の丸い可愛い花だった。もうホント桃じゃなくて菊の方なんだが、この世界では誰も理解してくれなくて悲しい。


「ふう。もうこれで大丈夫そうだなあ、それにしてもアンタ達いったいどうしてそんな目に遭ったのかね?」


 ブラウニー達には文字の文化が無いらしいので宿帳の記入欄には単なる落書きをされただけではあったが、俺にしか今のところは見えないウインドウ画面に入力の反応はあった。けど、どうやらステータスは解析不能らしかった…。コレがキチンと名前を書いてなかったなのか、それとも妖精という存在にはステータスというものが存在しないのか…う~んミステリー。と考えてるその前でだ。俺が出したレモン水をがぶ飲みし、ピラニアか肉食昆虫の大群のように豆腐のようなもの(冷たい)を貪るブラウニー達が嫌でも目に入ったので、俺は余計な詮索をすることを止めた。つーか、食うことに夢中になり過ぎてよお。俺の質問に答える素振りが未だないんだが?


「にしてもお前らね、遠慮はすんなとは俺も言ったがどんだけだよ?」


 俺の言葉に腹を膨らませた倒れている者を跳ねのけてひとりのブラウニーが飛び出して来た。おい、もうちょっと優しく扱ってやれよ…破裂すんぞ?


「常世の食べ物はとっても貴重な乃!」

「そうだ乃!外で僕達が食べられるものはとっても少ない乃!でもこのトーフ?とやらはメチャンコウマイ乃!」

「己の限界を超えるまで飲んで食べる乃!」

「イヤ超えたら破裂しちゃうだろ。それとも妖精は破裂しても大丈夫なのか?」

「みッ!流石に破裂したら痛い乃!」

「元の姿に戻れるまで3分は掛かってしまう乃!」

「ラーメンかよ。…しかも死なんのかよ。流石はファンタジー…」

「みげッ。違う乃、僕達はブラウニーな乃!」

「わかったわかった…」


 そんな会話のやり取りをしてる内にひとり、ふたりと腹をボーリングの球くらいまで膨らませて床に転がっていびきをかき始めやがった。まあ、その形状じゃあその辺に転がる以外のアクションは取れないと言っておこう。


「ハハハ。面白い奴らだぜ…ん?」


 チーピィ姫が眠るベッドの前で俺にペコリと頭を下げる推定20センチほどの少女がいた。この連中の中では唯一マトモそうな子で、チーピィ姫の近くで様子を伺っていた。同じベッドに置いてやりたいがベッドにはどうやらサイズに関係なくひとひとりしかエントリーすることしかできないようだ。そんなルールを決めた覚えはないが、きっとファンタジーの仕様なんだろう。可愛そうだが我慢して貰うしかないな。


 俺は部屋の奥にある椅子をベッドの側まで引きずってきてその子を上に乗せてあげた。嬉しそうに俺に何度もペコペコと礼をしてくれる姿が身悶えするくらい愛らしい。もし、イキナリこの宿屋の中にモンスターが出現しても、彼女だけは守ってやってもいい。他の連中は知らん。


 俺は藁を1本口に咥えると、床でグースカ寝るブラウニー達と椅子の上からチーピィ姫を見守る娘を眺めながらカウンターで大きな欠伸をかいた。



 テテテテテテテ~ン♪ そして、夜が明けた…。



「ん…ここは? どこです乃」


 ブラウニー達が心配そうに見つめる中、チーピィ姫がベッドの上で目覚めて起き上がる。


「やった乃!姫様が元気になった乃!」

「うう…!一番力を失っておられたから心配だった乃!」


 ブラウニー達が天井近くまで飛び跳ねて喜びを爆発させていやがる。いやぁ~それにしても朝っぱらからうっせえのなんの。コイツら俺がカウンターで船漕いでたらいきなり「みみげッ!力が漲る乃!」だら「元気爆発な乃!果て無きチカラの脈動が俺の身体を駆け巡るぜえ!な乃!」とか言って部屋の中でドタバタ騒ぎやがって。お前らの大事な姫様がまだ寝てるだろーがよ!…それでも全然起きないからちょいと俺も心配になったが、ウインドウ画面には":起床まであと、0:15。"と表記されていたので多分だが朝になるまで起きられないのだろう。…ってコレ火事とかなったらヤバイんじゃあねえか? ちょっと対策を考えるか実験をしよう。それにだ、実験と言えば…チーピィ姫以外の連中の回復も気になるところである。コイツらピョンピョン飛び跳ねちゃあいたが最初は存外ボロボロだったしな。いくら飯食って寝た。といっても限界があると思うんだよな~まあ、コイツらに限っては妖精?というか半生物みたいな感じもあって確証はない。まあ。その内に誰かわかりやすい奴を床に転がして様子を見よう。もちろんこれらの実験は善意によって行われるものである。まる。


「精霊様。この度は我らブラウニーの一族を救って頂き感謝します乃」

「いいってことよ。コレも商売だかんなぁ」


 椅子に腰かけた俺にテーブルの上でチーピィ姫が頭を下げている。でだ、なんであんな所にいたんだ?と俺が聞くとだ。チーピィ姫だ説明してくれればいいのに周りの連中が乃!乃!と横やりいれてきやがって話が進まないことこの上ない。俺がまるっと纏めちまうと、コイツらブラウニーって妖精の住処はここからまた離れた小さな山の地下だったそうだ。だが、そんな平和に暮らしていた所をワームとかいうモンスターの群れに襲われちまったんだと。懸命に戦ったが排除できずにそこを追い出されちまった訳だ。そこで、ここからもう姿が見えるヨーグって山を治める大地の精霊ノームを頼ってここまで旅をしてきたらしい。なんでも元々はそのノーム様って精霊の側で暮らしていた種族なんだそうな。


「ワームは地中を潜る手足の無い竜種です乃。同じ土の種族である私達よりも強く、私達には逃げ出す他ありませんでした乃…」

「そうか。そりゃあ…苦労なさった、ってそれ何喰ってんだ? それに、この匂いは…」


 チーピィ姫はずっと彼女を見守っていた侍女らしい女の子からサイコロくらいの大きさの黒いものを受け取り、口に運んでいた。黒砂糖か? いや、でもこの匂いはどこかで嗅いだ記憶が…!


「そ、それは僕達ブラウニーにとって大事な食べ物な乃!」

「精霊のお願いでも簡単にはあげられない乃!」

「………構いません乃。精霊様は私達の命の恩人です乃。残念ながら残りはこれだけですが…」


 そう言ってチーピィ姫は隣にいる女の子からその塊をふたつ受け取ると、俺の掌の上にコロンと乗せてくれた。俺はそれをしげしげと観察する。


「それは私達ブラウニー族に伝わる秘伝の薬草を調合した妙薬です乃。私達は"黒い宝石"と呼びます乃、つまり宝石よりも貴重な食べ物ということです乃」

「ほお、黒い宝石。ねえ…」


 俺はヒョイと口に放り込むと、足元のブラウニー達から「ああっ…」という失意の悲鳴が上がる。何か悪いことしちまったなあ…うん、甘い…でも、コレって…食ったことあるぞ? 粉っぽくて…シットリしてて、黒くて…甘い…!


 俺はガバリと席を立った。


「ちょ!ちょっと待っててくれ!」

「は、はいです乃!」


 俺はダッシュでカウンター奥のドアに突進する。勢いで何人か轢いたかもしらんが、物事には犠牲がつきものなんだ!


「これなら…材料じゃあないが、それでも何かレシピができるかもしれんぞ…!」


 俺は厨房のチンするやつ、改め無限フードプロセッサーの前に来ていた。蓋を開き、トレイの上に恐る恐る小さな黒い塊を乗せ、ようとしたら俺の手からまるで引っ手繰るかのように勝手に蓋が閉まった。


「痛てぇ!? しかし、この反応なら…いけるぞ!」


 俺はボーゲンが来てくれるまで、それはそれは暇だった。だからせめてレシピを増やせないかとその辺の草や木の実を採集してきて無限フードプロセッサーで解析させまくったのだが…

(:食材に適していません。あなたの常識を疑います。)

などと表記されてしまった。50回ほどチャレンジしたくらいで蓋が開かなくなってしまったので、恐らくコイツにも何らかの意思のようなものがある疑いがある。


(チーン♪)


 お!成功だ。やったぜ!タ●ちゃん!レシピが増えるよ!


 (:無限フードプロセッサー。解析完了。新レシピ・ブラウニーモドキがアンロックされました。※材料の提示解析とスキルレベルによってレシピが増加します。現在可能なレシピ………豆腐のようなもの/温or冷。ブラウニーモドキ/生クリームor業務用。)


「やっぱり食った事があるはずだ。にしてもモドキかい!まあ微妙に風味も違ったし、実はチョコレートとか使ってない可能性もあるしなあ。う~ん…やっぱりちゃんとした材料(無限フードプロセッサーが受け付けるものに限る)を手に入れる必要があるから文明との接触は必須だな!そこんとこ考えるとボーゲンから貰った金はありがたいな。ホント今度会ったら礼をしなきゃあならんなあ~」


 …それにしても選べるのが生クリームor業務用? って何だよそのチョイス。というか生クリームどっから来た。恐らくコイツの好みが反映されてるのは間違いねえな。まあ、いいや。どっちも試してみればええねん。きっとアイツら、喜ぶぞお。



 ◆◆◆◆



 数分後、奥へと去っていったストローがブラウニーの下へと戻ってきた。不思議そうな彼らにストローは気味が悪いほどニコニコしながら、背の後ろに何か隠しながら近づくと口を開いた。


「いやあ~さっき貰ったもの、どっかで食った記憶がったんだよなあ~そいで思い出したんだよさっきさあ」


 彼の言葉に困惑と期待が混じった表情を浮かべるブラウニー達、そんな彼らにストローが満面の笑みで放った次の言葉がいけなかった。


「実は俺、ブラウニー喰ったことあるんだあ~」



 狭い宿屋の中でブラウニー(・・・・・)達の悲鳴が沸き上がった。



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