雷の精霊②
最近ただでさえ書く時間も体力も少ないのに…
何気に話を練り直す機会が増えてる気がしてならない(^_^;)
※意外と前に書いたチャートだと個人的にバットエンドなキャラクターが多かったので…なるべく救済したいと思ってしまいましたw
◤ストロー◢
う~ん…困った。
『ボクは強そうな名前がいいかな! なんたって将来この宿とケフィアを守っていくんだからね! …え? 女の子だったらどうする? なんだ。簡単だよ!その時はもっとボクが鍛えるから大丈夫だよ! ちなみにボクの名前って東の方じゃ普通に男の名前だしね。それに最初に生まれる子供は絶対男だってブラド家では決まってそうなんだよ!』
コレがウリイからの意見な。
『俺ぃは…そのぉ…あ。生まれて来るこの子がその変異種かもしれないってのはもう心配してなぁよ? 旦那様も居るし、腕っぷしならウリイやリレーもいますがら。……ちょっとだけヤンチャな子が生まれるくらいしか考えてません。でもぉ…どうせこの子に付けるなら、できるだけ賢くなるような名前がいいがなあ~って。俺ぃはテバの山しか知らなかったし、ウリイやリレーみたいに学も無いがらぁ…。別にこの子に学者様になって欲しいわけじゃなっけど…できれば力だけじゃない物事に興味を持ってくれたらなあって……フフ。旦那様。難しいかなぁ~?』
そしてダムダのリクエスト。
そう、俺はPゾーンのリビングでひとり。絶賛名付け思案中だ。
……。
…………。
……全く、思いつかねえ。
「はあ。最低でもウリイとダムダの子供に1個以上提案できる名前がなきゃダメだって言われたし。それまで宿の仕事は自分達とメレン達とでやるからって…。それまで出てくるな、だもんなあ~…」
確かに。もう緑が真っ青に生えそろって暖かくなってきた。というか、外の世界は太陽節。ウリイとダムダの予定日は主治医のマリアードによれば次の節である嵐の節か……早ければ今の節の終わりくらいに産まれてもおかしくはないそうだ。
つまり、ウリイとダムダはもう臨月。いつ産気づいてもおかしくないかもなのだ。
だのに父親である俺と言えば、数日前まで「まあ、生まれてから考えればいっか」なーんて思ってたら3人の嫁にメチャクチャ怒られてしまった。何でも父親は初めての子供には事前に名を考えて、出産に立ち会ったその時に名を付けて祝福してやらなばならないとの事だった。
ちなみに父親に名付けの拒否権は無い。しかも死んでも無い。もし既に死にそうか、戦などに赴く際はキチンと事前に命名したものを書き綴って妻に遺しておかなばならないと決まっているらしい。これが成り立たないと男は父親として認められないどころか、女は急いで寡婦となり新しい夫を探さねばならないとのこと。場合によっては夫の義父や村長などといった立場のある人間が代わりに遺された女を娶ることになる事も多いんだとか。
「だが、問題は相も変わらず俺のネーミングセンスによるものだ。…こんな時に限ってマリアードは最近、俺が尋ねても不在なんだよなあ~。あんなに分厚い紙束に名前を書き貯めててくれてたのに…どうしよ?」
だが俺としても自分の子供に変な名前を付けて一生背負わせたくわないわけで。
「しかも、多少の相談は合っても当日付けて名前を変えようがないってのは……プレッシャーだなあ~」
そう。男の価値が低いこの世界では我が子の名前を決めるのは男親の最大の仕事でもある。
「うう~ん…っ! ウリイの子供には強そうな名前か… キング…とか? てかキングってなんの王なんだよ? アハハ…いや、悪くない。俺の前世の記憶に残ってる世界の偉人にちなんだ名前ってのはどうだ? 例えば中世の王様とか軍人とか。ダムダには学者とか芸術家の名前なんていいかもしれん…あ。なんかメモするものは…!」
自信の灰色の脳細胞に煌めいた電撃に慌てて目の前のローテーブルに俺はしがみついてペンを探す。
ふと、視界の先に宿のフロントに続く出入り口が目に入る。
……一応、メモったらウリイとダムダにさり気なく言って反応を見てみよう。この世界じゃ変な単語や意味になってしまう場合もありそうだからな。
◆◆◆◆
「ストロー様は奥の御部屋ですか?」
「ニャ」
「うん。ボク達の子供の名前を決めるまでは部屋からでちゃダメって言ってあるよ!」
「……やっぱりぃ、俺ぃ…旦那様に隠しごとはぁ~」
「…ダムダ様達の気持ちはお察しします。ですが、今回はできるだけ内密に済ませたく存じます」
「「…………」」
ガランと静まり返った宿のフロントにはケフィアの司祭マリアードとストローの3人の妻であるウリイ・ダムダ・リレミッタの姿があった。実はストローには内緒でこれから明日まで宿は臨時休業としている。
だが、4名いずれも眉間に皺を寄せ、決して楽しい世間話に花を咲かせているわけではないのは明らかであった。
ウリイとダムダは臨月ということもあり、マリアードの薦めもあったロングソファにそれぞれ腰を降ろしている。剣呑な表情で尾を揺らして腕を組んでいるはリレミッタだ。
「…ニャア、どっちにしろいずれはストローにもこのケフィアにアデク共が攻めてきた事はバレるんだリャ。いっそのこと打ち明けてこの村を守って貰えばいいんだニャ~」
「………不敬ですが。ストロー様は精霊としては余りにもお優しい。それ故に悪しき心を持った者の仕打ちに、まるで人であるかのように憤られる…。現に細君両名を此処で御救いした際にも…」
「「…………」」
マリアードの言葉にウリイとダムダが互いに顔を見合わせる。
フンと鼻を鳴らしてリレミッタが顔を俯けるマリアードを睨む。
「ウリイとダムダも分かってて口に出さニャいからアタイが代わりに言うが、……司祭達が畏れているのはストローの怒りの矛先が人間族そのものに向くことだリャ?」
「……っ!」
「大破壊の前にドリアードが起こした樹海の津波でいくつも中央や西方の村や街が飲み込まれて消えた…。獣人がかつて戦で使った毒を流し、海を穢したと怒り狂って島を沈めたウンディーネ…。もしくは遥か前にノームを裏切り神に喧嘩を売った馬鹿共が、神罰でガイアの血…燃える海で焼かれて滅ぼされた…ようにかニャ? 司祭も元は中央の人間なんだリャ? 今回アデクを率いる馬鹿王子も中央…。精霊にとって怒りを買った愚かな種族の村や街や城のひとつやふたつ。…消し去るなんてきっと朝飯前だニャア」
「…否定はしません。 故に!此度は我らガイアの徒の全力を以ってして迎え撃ちます。無論、戦場はこのケフィアではなく、麓のアンダーマインからも離れた場所で、ですが。人間族の愚かさは、同じ人間族で掃わねばなりません。…我らは精霊様に…いいえ、ストロー様にこのケフィアでただ平穏に細君様達と共にお過ごしになって頂けばそれだけで良いのです!我らにどのような犠牲が出ようとも。此度の事で御心を害することは何としても断固阻止せねばっ!これが我らガイアに縋る者達の総意なのです…」
マリアードは頬を伝う一筋の光を隠すようにリレミッタ達に頭を深く下げる。
「「…………」」
「それではウリイ様。ダムダ様。そしてリレミッタ様。これにて御前を失礼させて頂きます。私はこれから出立し今日の夕暮れに我らが予想する地で開戦となるでしょう。他の兄弟姉妹は既にその場に集まりつつあるでしょう…どうか努々、ストロー様にはご内密に…」
マリアードがガイアの正式礼を行って立ち去ろうとした時だった。
「旦那ぁ大変だ! ああ!司祭様もコチラでしたかいっ」
「スンジ? どうしました、そんなに慌てて…」
「それが…口で言うよりも見た方が早いぜ!外に出ておくんなさいや!」
急に回転ドアから宿の中に飛び込んできたのはケフィアの門番であるスンジだった。
「それが最近ゴッボの奴が家に籠るんで俺が代わり今日はブルガの方に立ってたんでいち早く気付いたんだが…いやいや!兎に角急いで!?」
「一体何が起こって…!」
「アタイも見に出るニャ!」
「ボク達も行くよ!」
「う、うん…!」
そうしてマリアード達は正面の回転ドアを押して外へと走っていった。
◆◆◆◆
「お~い……って誰も居ないじゃねえかよ」
ストローがその一時間後…と言っても外と奥の部屋とでは時間の流れが違うので、この男は丸2日以上部屋に籠ってあーでもないこうでもないとやっていたのだが。
ストローが紙切れを握りしめ腹を括って宿に出てきたというのに宿はガランとして人の気も無かった。
「アレ? 今日は休みにしたのか。メレンもクリーもリンも居やしない。ウリイ達は奥には一度も戻ってきてないしな。外か?」
ストローはひとりポツンと自身の頬を掻いていた。
「……にしても静か過ぎる。部屋は完全に防音だが、ロビーには普段少なからず村から人の声なり入ってくるはずだろう。…嫌な予感がする」
ストローは野良着のポケットの中にメモを大事にしまい込むと、外へと続く回転ドアへと歩いて行く。