雷の精霊①
い、生きてます…(起死回生)
何とか今週から週末の更新だけでも復帰します(^_^;)
集中力が続かず一度に書きたい量の半分も書けてないんですが…
こんなペースでしばらく行きますんでよろ死苦お願いします<(_ _)>
今日はゴブリンの方も更新予定ですので、よろしければw
聖暦203年。季節は太陽節へと入り、本格的に春から夏へと移り変わっていた。
その夜も熱気が徐々に収まらなくなってきた夕暮れ時だった。
「何をするっ! このアデクの腐れ傭兵共っ」
「おいおい、あんまり舐めた口聞いてんじゃあねえぞ~」
「心配しなくてもよ、払いはちゃあんと中央の連中がしてくれるさ?」
「はん!お前らみたいなゴロツキ共を連れて好き勝手してるあの馬鹿王子にそんな保障ありっこあるもんかい!」
「ガハハッ!ちげえねえやあ!言うじゃねえか…流石に王都から一番離れた町の連中はマトモだわな」
北ルディア中央の王都ウエンディから伸びる街道の末端に位置する紡績の職人街であるブラウンソックスの防具取り扱いの大店の前で複数人が言い争っていた。店の中ではだいぶ争ったのかかなり散らかってしまっていた。
「……もうよせ。俺はこの店のナルカンだ。アンタ達が勝手に店から持ち出したもんはキチンとアンタ達の大将に請求書を送らせて貰うとする。これ以上争って俺の店の職人達に怪我人でも出たら死んだ親父に申し訳が立たないんでな」
「「若ぁ…」」
「フン。わかりゃいいんだ」
「俺達をゴロツキだと? 違うね、俺達の雇い主である王子様に付き従う立派な正義の兵達だぜ。だから道中、俺らが飯や装備を国の民であるお前らから頂くのは当り前だろ~?」
「…まあ、ちょいとサイズは小さいがこんな辺境側の街にしちゃ良い防具だったぜ。俺達がこれからの戦にちゃあんと役に立ててやるから安心しな!あばよ!」
店の者達と争っていたのは灰色の肌に4本の腕を持った異形の戦士達、多腕族と呼ばれる親亜人達だった。親亜人とはアデクの身勝手な分類でしかないが、アデクに敵対せず協力的な種族を指す言葉だ。大腕族は恵まれた体躯を生かして古来から傭兵稼業をしている生粋の戦争屋だった。
「でも若旦那…あんな連中にオイラ達の鎧やブーツが…!」
「どうせアイツらまた性懲りもなくどっかの亜人か獣人の村を襲いに行くに決まってますぜ!」
「…噂じゃあ、アイツらヨーグの山を目指してるとか?」
「ま、まさか…それじゃあ奴らの標的はアンダーマイン!いや、ケフィアか!?」
「………わかっている。だが、これはいずれ起こると想定されていたことだ。…そう心配するな。この前、俺と一緒に春の祭りで行った者なら知っているだろう? あそこにはこの北ルディアでも指折りの精霊信仰者の実力者も集まっている。それに村を慕う獣人の戦士達にあの司祭マリアード様までおられるんだぞ? そもそもあそこには……」
ナルカンはこれ以上は余計だと口を閉じてパンパンと手を鳴らした。
「無駄話はここまでにしよう。それと、今日はもう戸締りをして終わろう! アデク共は明日にはもうこの街を出立するらしいが、今夜はまだ街の中にさっきみたいにアデクの傭兵共がうろつき回っている。皆も変な難癖をつけられないよう気を付けてくれ。あの愚か者共…んんっ。あの傭兵達共に奪われたしまった品については残念だったが…明日からまた補填の作業を行っていこう!」
「「わかりましたっ!若旦那!」」
ナルカンの声で憤慨していた従業員や職人達も散らかった店の前の片付けをしつつ、店内の清掃や明日からの準備へ工房にと戻っていく。
だが、それを見送ったナルカンは店の中へとは入らず静かに扉を閉めて振り返る。
そこには、かつてケフィアで共にストローの妻となったウリイとダムダに履かせる靴を手掛けた仕立て屋の女であるボスミオが暗闇にひとり立っていた。
彼女のその表情は睨むだけで人が殺せそうな憤怒に染まっていた。
「……気持ちは解るが、先ずは抑えろシスター・メラ。 簡易の人避けの魔術を事前に施しておいて良かった…とてもじゃないが俺の職人達が卒倒してしまう」
「…悪かったわね。でも無理よ…腸が煮えくり返りそうなの…。私達の作品を受け取って下さったばかりか…!名を覚えて頂けた上に祭りの席にお呼びになって下さった精霊様…ストロー様の居るあのケフィア…を…! ア、アデク共が…あの薄汚い、傭兵の糞共が…っ!!」
瞳を見開き、ブルブルと震える声で激昂するボスミオの足元に闇が徐々に広がり地面がジリジリと暗く燃え立つ。
「止せ! 俺の店まで燃やす気か…?」
「……ねえ、ブラザー・タボ。あの糞共を此処で始末してはダメなの?」
「駄目だと言っただろ。これはマリアード様と大司祭のドリキャス様とでお決めになったことだ。奴らを後悔させる場はこのブラウンソックスとアンダーマインとの丁度中間地点で、だと。それに今回は軍勢の中にアデクの“六色魔導士”のひとりが随行している。ここで争えば罪の無いこの街の住民に被害が出てしまう。…特にお前の能力なら尚更だ。…冷静になれ」
「………チッ」
ナルカンはボスミオの足元から広がっていく焦げがやっと鎮火する様を見て思わず溜め息を吐き出す。
「ところで、今のところの被害は? 兄弟姉妹から聞いた話だと途中寄った村や町でもいつも通り好き勝手やったようだが…今回は運良くまだ死者は出ていないと聞くが」
「…他の場所の情報は少し正確さに欠けるけど。この街だと食糧と嗜好品…それと武器の扱いは殆ど無いから貴方のお店みたいに防具品が強奪される被害が結構出てるみたい」
「君の所は? 大丈夫だったのか」
「残念ながら。来てないわ……ボソッ(私の所にノコノコやってきていたら証拠が残らない方法で何人かは…)」
「…………。という事はブラザー・ダースが表向きの姿で居るあの酒場あたりが一番の被害か」
「そう。…あ、でも聞いて? あの人ったら我慢できずに傭兵共を5、6人吹っ飛ばしたそうなの!まったく胸がすくような思いだったわ!」
「……いやそこは駄目だろ。マリアード様の片腕ともあろう方が大事の前にそんな事を起こしては」
ナルカンは顔をヒクつかせながら額を掻いた。
「もっと残念なのはその傭兵共が死なかったことね。店の親父さんに大目玉喰らって地下に閉じ込められちゃったから恐らく明後日の洗礼には参加できないわ。その分、私が頑張るから問題ないわ!」
「まあ、今回はシスター・ベスもこの街に残ってアデクの監視だったからな…まあ、あの方の事は彼女に任せておけば大丈夫だろう」
ナルカンは気を引き締め直して前髪を撫でつけると店の扉に手を掛ける。
「…ところで、念の為に聞いておくけど。仕込みはしたの?」
「ああ、問題はない。まあ、どうせ身に着けるのはあの雇われの多腕族だろうが…もし、逃げおおせてアンダーマインに近付いたら発動するようにしてある…」
「逃がさないで皆殺しにでもしちゃえば面倒も掛からないのにね?」
「シスター・メラ。怒りで発言が過激になっているぞ? だが今回は脅しの意味合いも強い。逃がした傭兵が古巣に戻れば流石に今後おいそれとはアデクに手を貸しあぐねるようになる狙いがあってこそなんだからな…さあ、明日も早い。夜明け前の闇に紛れて他の兄弟姉妹と共に奴らをつける」
「わかってるわ…兄弟よ、精霊と共にあれ」
「ああ、姉妹もな。精霊と共にあれ…」
夕闇が降りた路地でガイアの印を結んで腕をクロスさせ互いに深く頭を下げる。
そして、二人はそれぞれ姿を消した。