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他所の世、語り  作者: 寝癖
1/7

何処かの街のある日の旅人

楽しげな場所、陰鬱な場所、恐ろしい場所

この世界にはいろんな場所がある、そしてそのどれも一つ一つが誰かの居場所だ

人は必ず一つは居場所を持っている、そしてその居場所を探すためさすらい、世を巡る

それが人の性であり人生そのもの

かくいう私もその一人、居場所を求め世を巡る旅人だ。


うっそうと生い茂った森を抜けた先に見えた建物の群れ、と言っても王国のような大層なものではなくごくごく普通の町

しかし、今の私にとっては砂漠のオアシス

待ち望んでいた町があった、などと洒落た事を思わず言ってしまうほどに嬉しかった、なんといってもここ2日暗い森の中で獣に怯えながら夜も眠れなかったのだ、原因は私のテントだ、これには深い事情があり、まぁ話せば長くなるので、端的に言えば落として壊してしまった、

といえばわかりやすいだろうか

テントは旅の必需品だ、獣の闊歩する森や吹雪の夜なんかで野宿する時は特に

寒さや獣からある程度守ってくれるだけでなく食事を作ることもできるそんな大事な物だ、全く安物は使うべきではない、いくら安くても使えなければ意味がないからな、まあいくら高いテントでも空を飛びながら落とせば壊れるだろうが。

そんなことはどうでもよく、目前のオアシス改め街の門を意気揚々と通り真っ先に店に向かった、

「よお、兄ちゃん旅人か?うちのテントは一級品だぜ?その分値も張るがな」

「安いので良いですよ」

なんて他愛もない会話なのか

『前の街では何も稼いでないがまあ何かしらのテントは買えるだろう』

ハイドロテント(ドーム式)-120000ロウ

ログハウステント(ボックス式)-118500ロウ

ローズテント(ドーム式)-358000ロウ

セーフテント(ボックス式)-25000ロウ


所持金-10519ロウ


甘かった

…なんて事だ、どうやら私は労働をしなくてはならないらしい、空なんて飛ぶんじゃなかった、後悔してももう遅いとわかりながらも後悔をする、気が進まないが今後のためには金を稼がなくては。

金を稼ぐといってもさまざまな手段があるが何か売って稼ぐのが基本だ、物を売る、労働力を売る、知識を売る…etc、まぁ一番手っ取り早いのは、物を売る事だ、店で品物を渡し金を受け取る

しかし売れるものなんてのはすぐに売ってしまうしあんな森に売れるものなんてのはある筈がない、よって面倒だが労働力を売ろう

具体的には何かの魔物を追い払ったり獣を倒したり警護をしたり、まぁ総じて面倒であまりしたくはない、大体そういうのは猟師だとか戦士騎士とかそう言う職業の人がすることであって私のような、か弱い私がやる事では云々

まぁ愚痴を言ってもしょうがない、ギルドに入り依頼書が乱雑に貼ってある依頼書を見る

出来るだけ楽で金払いの良い依頼が良いのだが…

「おいおいそこのか弱そうな兄ちゃん、まさか魔物退治の依頼受けるんじゃねぇだろうなぁ?」

と、グリーンベアー退治の依頼書を手に取る私を男は笑う

この私をか弱いだと?馬鹿にするのも大概にしろ、なんて啖呵を切っても仕方がない

私は大人で、イケメンで、強いのだ、そんな戯言に付き合っている暇はない

「すいません、この依頼、良いですか?」

「かしこまりました、ランクを拝見いたします」

ランク、ギルドの依頼を受けるにはまずギルドメンバーになる必要がある、ギルドメンバーにはS、A、B、Cランクの順にランクがついている、Aランクあたりは結構すごくてCは入りたてくらいの感覚だ

ちなみに私はB、グリーンベアー退治もB

「Bランクですね、依頼承りました」

依頼を承諾されればあとはグリーンベアーを倒しグリーンベアーの死体を持ってくれば良い、面倒だがシンプルで報酬も20000ロウと金払いが良い、満足だ

笑ってきた男のバッグにさりげなくあの森の虫を入れながらギルドを去る、良い風だ

グリーンベアーとは、熊のような姿でそこそこの強さの魔物だ。

依頼の期間は三日間、焦らずとも良い

ゆっくり昼飯を食べながら優雅に過ごし、宿屋に行こう、この街の宿屋はどんな部屋か淡い期待を寄せながら思う

明日の昼にでも森に向かおうじゃないか


次の日、森に出たグリーンベアーを私の華麗な魔法捌きで圧倒する、言い忘れていたが私は魔術師、魔術を操る天才魔術師だ、空を飛ぶなんてのもお茶の子さいさいだ

…大事な物を持ちながら飛ぶのは、オススメしないが

ともかく魔術師というのはジョブという資格の一つのような物で他に、戦士、技工士、あと少数だが魔法使いが居る、この4つのジョブになるには試験を合格し、見習いとなってから研鑽を積み、自分と同じジョブの者に認められようやくなれる代物であり基本的には強い

そうこうしてるあいだにグリーンベアーを倒すと2体目が出てきた、2体目を倒すのはわけないが面倒なのでグリーンベアーの死体を持ちすぐさま退散

しかし楽な依頼だ、こんな魔物一体で20000ロウなんて、得したな


2日目の朝

今日という日は、私の恐らくこの人生で最悪な1日だろう

最悪だ、グリーンベアー5体が条件だとはまさか夢にも思わなかった、1体倒し満足しながら帰ってくれば

『この調子で残り4体頑張ってくださいね』だなんて想定外だ、面倒な依頼をうけやがって昨日の俺、日も暮れてきた、流石に夜に狩るのは面倒だし危険、明日は早起きして4体倒すのか、考えるだけで嫌になってきたが、明日寝坊して無理でしたなんてエンディングだけはごめんだ、寝よう


翌朝、薄く青く彩られた空を見上げ顔を洗い服を着替える、優雅にパンを食べ宿屋のドアを通る、少し肌寒いがこれもまた良いだろうなんて考えながら町の門をくぐる、現実逃避は辞めだ、グリーンベアーを探し始める

と、探し始めてものの二分で

「お?グリーンベアーだ、しかも2体!」

なんて幸運な自分を喜びながら攻撃を仕掛けると

「ライトニング!」

命中、やはり天才か

なんて考えていると2体目もこっちに気づいた、が何かおかしい

なんかデカい、それになんかゴツい、さらに周りからゴロゴログリーンベアーが出てきた

どうやらグリーンベアーの群れに突っ込んでしまったようだ、そしてグリーンベアーだと思っていたゴツいやつはグリーンベアー達の首領らしい、偉そうに肩に鎧を付けてやがる

肩パッドなら世紀末で間に合ってる、なんて下らない事を考えてる場合じゃない、逃げるか、戦うか、戦って私が勝つ保証はないが町の近くだし、ここで街に逃げ込んで追ってこられても困る、仕方がない

「っしゃぁ!かかってこい畜生ども!」

勢いよくゴング代わりに喉で啖呵を鳴らす、

「サークルライトニング」

円形に雷の魔法を使い吹き飛ばすがグリーンベアーのドンは構わずこっちに向かってくる

足元に土の弾丸を撃ち体制を崩したところで眉間に電気をプレゼントしてやったら、あまりの嬉しさからか眉間を抑えながら悶えている

少しは電流が流れてまともな思考になって欲しかったが、相変わらず獣らしく飛び上がりこちらに爪を向けながら飛んでくるヤツに向かってはお仕置きと言わんばかりに

「ライトニングサンダー‼︎」

電撃を喰らわしてやっと大人しくなった

達成感、そして辺りにはさっきまで凶悪な顔で襲いかかってきたはずのグリーンベアーが丸く可愛らしい尻尾を振って逃げていく、優越感に浸りながら…浸っている場合ではない

そもそもこのグリーンベアーのドン、正しくはボスグリーンベアーはその名の通りグリーンベアーのボス、ボスを倒した事で討伐対象の群れが逃げていく

「待てコラァァ!」

グリーンベアーを追う姿は獣より獣らしかったのは内緒だ


なんとか3体倒してきたがあと一体足りない

どうしたもんか、なんて考えていたその時

私に電流走る

ボスグリーンベアーを見つめて思う

(こいつって肩パッドつけてツノが生やしたグリーンベアーだよな、全部外せば…)




『依頼完了しました。報酬です』

なんとかなった、一時はどうなるかと思ったがこれでテント代もなんとかなるし食事もしばらくは困らないだろう、多少心苦しいが、まあボスグリーンベアーの方が強いしまあいいだろう


翌朝、私は昨日より早く起き街を足早に去っていった、別に逃げているわけではない、次の街が待ち遠しいだけだ、土の道を歩いて行く

静かな早朝、次の街を目指して歩いてく

しばらく歩いているとその少年は居た、普通の旅人のようにローブを羽織り、少し冷たい風に灰色の髪を靡かせ緑色に光るその瞳は、間違いなくこちらを見つめていた

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