「俺、賢者になる!」
初投稿です!
よろしくお願いします!
「俺、賢者になる!」
レイア・ジルキッダがそんな突拍子のない事を言い出したのは、突然だった。
「はぁ? 何言ってるのよ、レイア」
レイアの幼馴染みのクレア・ヴィルハットはいつものレイアの突拍子の無い提案に、呆れたようにため息をついて返事をする。
それぐらい、レイアは突拍子の無い事を言って実行する少年だった。
「俺、賢者って最強だって知ったんだ! だから俺も賢者になりたいんだ!」
「いや、この間まで勇者になるって息巻いていたのに、なんで急に賢者なのよ」
「クレア、勇者って神様に選ばれた人間しかなれないんだったよな」
勇者と言うのは生まれながらにして超常的な能力を持つ人間を指す。
神の声を聞き、悪と戦う最強の人間兵器だ。
だから、生まれついてその人格以外平凡なレイアには絶対になれない職業だった。
なんと言っても神様に選ばれなければどうしようもないのだ。
「そうね。ようやくわかってもらえたのね……」
「ああ、だが、勇者が無理なら、賢者になれば強くなれるはずだ!」
「……」
クレアはレイアを舐め回すように見る。
勇者に憧れていたおかげか、村のお手伝いを積極的にやっていたおかげか体格はガッチリ筋肉がついている。同い年の村の少年たちに比べれば、十分すぎるほどだ。
だが、レイアの顔に、知性を感じさせるものはないように見えた。
確かに、容姿は整っているが、言動も行動もなんだかバカっぽいのだ。
「……諦めたら?」
「なんでだよ!」
「ねぇ、レイア。賢者ってどう言う字で書くかわかるかしら?」
クレアは『賢者』と紙に書き記す。
この国は、村と言っても識字率が高いようだった。
レイアはうなづいて答える。
「もちろんだ。『賢い者』だろう?最強になれそうじゃん!」
「だぁーかぁーら! レイアのおバカさんの脳筋がなれるわけないじゃ無い! そもそもどうやってなるか知っているの?」
「あいたぁ!」
ぽこんと頭を叩かれるレイア。
この村ではよくある光景であった。
「それに、そろそろ学校にも通う準備をしなきゃだし、そんな時間はないんじゃ無いの?」
クレアの言う学校とは、王立聖都学園の事を指す。
ある一定年齢に達した若者を教育して、優れた人材を育成する教育機関だ。
多くのものは1年で故郷へと戻るが、優秀なものは3年通うらしい。
「ああ、そうだったな。でも、学校じゃ賢者にはなれないじゃ無いか?」
「勇者にもなれないわよ! ってそうじゃなくって、最低1年は寮生活になるんだから、準備しておかなきゃいけないんじゃ無いの?」
「そうだな。たぶんお父さんとお母さんが準備してくれてるから大丈夫だと思うぞ!」
「親任せじゃない!」
「そりゃまあそうだろ。兄さんの分もお父さんお母さんがやってくれたんだしな」
実際、クレアも私物に関しては自分で用意しているが、多くは両親に任せていた。
村では学校を卒業した16歳で一人前とされているがそれでも、親が心配して準備を手伝ってくれるのは当然のことだろう。
「……まあ、そりゃそうよね」
クレアはため息をついて、話題を変える。
「で、アンタなんで賢者になりたいなんて思ったのよ?」
「ああ、なんか俺に賢者になり方を教えてくれる人がいたんだ」
「え、どう言う事?」
「森で剣の稽古をしていたら、フードを被った爺さんが『お前には賢者の素質がある』と言って、賢者の凄さを教えてくれたんだ!」
「怪し! ちょっ! そんなあからさまに怪しい人の話を鵜呑みにするんじゃないわよ!」
「そうか? 爺さんは大賢者のマーベル・ティーエススキーって言う有名な人らしいぞ?」
「誰よその危なそうな名前! ますます危なっかしいわ!」
「そうか? 気さくないい爺さんだったぞ」
レイアはニコニコしながらクレアに素直に話す。
裏表が無いのがレイアの良いところだった。
だが、クレアはこの騙されやすそうな友人に対してひどく心配だった。
「ああもう! そんな怪しい人に変なことされる前にさよならしてきなさいよ!」
「ええっ! それじゃあ最強の賢者になれないじゃ無いか!」
「ええっ! じゃないわ! 逆にこっちが『ええっ!』よ! もう!」
「だが、俺はもうマーベル爺さんに倣うと決めたぞ」
「早いわよ! 即決即断はレイアの良いところだけど、少しは考えて!」
そんなやりとりをした数日後だった。
ニコニコしながらクレアに報告する美少女を、女体化したレイアを見て卒倒するクレアを見ることになる。
「クレア、俺、女の子になっちゃった!」