8話 月への扉
相手が逃げて戦いが終わり、燃えた地面をどうするかレイルが迷っていると
「あの2人が乗ってた馬がおきっぱなしになってたけどどうする~?」
と言いながら、叶が馬をひいてやってきた。
「あ~うん、売ろう。馬の装備は外しといて。」
流石に王国軍の紋章入ってるものがあると不都合だしね。あとで適当に鞍つけとこ。
「は~い。」
あの眠らせた兵士?とりあえず身ぐるみ剥いで草むらに投げ込みましたがなにか?
「よし、燃えた後は適当に土かけてごまかそう。どうせここにはもうほぼ用事はないし。ついてきて。」
レイルは、そう言うと、町とは違う方向へと歩きだした
「どこいくの?」
叶は当然の疑問を口にする。
「もうちょっと待ってね……着いたよ。」
レイルが叶を連れてきたのは池だった。水は比較的綺麗で、透き通っている。そして辺りを蛍のような虫が飛んでいて、どこか落ち着く雰囲気だ。
「ここでなにするの?」
叶が問いかけると、左目が光を帯びたレイルが、
「まぁ見てて、 水鏡、映るは月への小さな扉。我ら歩むは夢の旅路、月の女神の住まいし世界へ。月女神の奇跡をここに、世界を繋げよ。」
抑揚をつけてレイルが謳い終わると、それに反応するかのように水面の月が光を増し始めた。
「行こう。」
「まってまって!行こう。じゃないよ!何?今の説明してよ!」
今の魔法、詠唱のなかみで大体わかると思うんだけどなぁ。そんなことを考えながら答える。
「分類は概念系魔法の夜魔法、性質は補助、及び特殊。発動は詠唱式及び条件発動式の複合型。月女神の神話の一節に、月に住む女神が水面に映る月よりこの地に降り立ち、人々の暮らしを見守り、また水面の月から戻っていく。大まかに言えばそういう内容のものがある。それを利用した擬似的にぼくだけの世界を作り出す魔法だよ。」
「……じぶんだけのせかい?」
どうやら叶は今の魔法で頭が限界に達したようだ。何故か完全に固まってしまっている。
「ていうか早く、この魔法維持するのきついからさ。」
「ご、ごめん。でもどうやってあそこまで行くの?全力ジャンプ?」
「まぁいまならそれでも届くけどその場合はただ水に落ちるだけだよ。ちゃんと歩かなきゃ行けないんだよ。」
そう言うと、レイルは池へと歩きだした。叶はとっさに止めようとしたが、目の前の光景に驚き、再度固まってしまった。そう、レイルは水の上に立っているのだ。
レイルの足がついているところからは波紋が広がり、水月の放つ光に照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「…すごい。きれい。」
「早くおいで、怖いなら手を繋ぎましょうか?お嬢様。」
叶をからかうように笑顔で、しかし、優しげにてをさしのべながらそう告げる。
「…ええ、よろしくお願いします。騎士様?」
冗談のつもりでさしのべた手を優しく握られ、レイルは少し驚きつつ、
「ええ、お任せください。」
と笑顔で告げるのだった。
その後、2人はゆっくりと歩みを進めた。叶は最初こそ周りを見て目を輝かせていたが、途中から段々と下を見るようにっていった。
2人が水面に映る月へとたどり着くと、その光が更に大きくなり、光が消えると、2人の姿も同じくして消えた。
光の眩しさから閉じた目を開けると、そこは先ほどの光景に勝るとも劣らない美しい場所だった。
叶が上を見上げると、果てしない闇が広がっている。
そのなかにキラキラと輝く星がちりばめられている。では逆はどうかと下をみると、地面が淡く金色の光を放っていた。それはみている者を癒す効果でもあるのか、先ほどまでうるさいほどに鳴っていた鼓動はなんだったのかというほどに静かになっている。
「すごいでしょ?」
レイルは得意気に叶に話しかける。
それはそうだろう。このような見事な光景が見られる場所など、あの大地には存在しないのだから。
「うん。すごい、きれい。」
「ありがとう、叶さん。それでね、ここでやって貰うことがあるんだ。」
「なにすればいいの?」
「悪いんだけど服を脱いで貰うよ。」
ナチュラルに置き去りにされた馬さん…