四話 どうしてこうなった。
「あ、今さらですけどお名前は?」
ご飯を食べ終わったあとそう聞かれた。
あれ?そういえばお互いに名前知らないな。
「叶です。あなたは?」
「レイルです。よろしくお願いします。」
「あ、はい。」
「じゃあまずは宿をとりますか。ついてきてください。」
店を出て町のはしっこの方に歩いていく。
この町は、地面は平らになっているが、王都と違い舗装はされていないようだ。ちなみに王都はレンガらしきもので舗装されていたし、建物も同じで、立派だった。この町は一応中心のあたりはレンガで出来ているらしい。何故かと聞いてみると、このレンガが作られたのが十年ほど前で、王城を優先して作ったりしていたから材料が足りず、最近になってからこの町を改装し始めたからだそうだ。
着いたのはなんというか…シンプルな店だ。木造の三階建て住宅といった感じだ。
「え?これ店なの?家じゃないの?」
あ、つい言ってしまった。こいつ何も知らねぇんだなとか思われちゃいそう。
「違いますよ。この町に家は基本的に無いです。」
「無いんですか?」
「ええ、この町は王都の近くにあるので、そこに商品を運び込む行商人やらが泊まる町です。所謂宿場町といったものですね。なので宿屋が多く、それ以外の仕事をしている人はそこに泊まるか職場に住み込んでいるような感じです。なので厳密に言えば家と言うものは無いです。 」
「めんどくさいんですね。」
正直覚えるのめんどくさい。
元の世界の知識で頭のなかいっぱいいっぱいなのにそこにこんなの更に詰め込みたくない。
「そのくらいは覚えましょ?」
「は~い。」
覚える気ないけど。
宿屋に入り、私の分の部屋をとってもらうと、レイルが、これからの相談をしよう。と言ってきたのでレイルの部屋に行く。
「来ましたよ~。」
「は~い。じゃあこれからの話をしよう。まずはその髪の色だね。周りの人からじろじろみられてたの気づいてる?」
「ん?髪の色?」
え?髪が黒だとまずいの?
「やっぱりわかってなかったか。この世界に髪の毛が黒の人はある例外を除いていないんだよね。」
あはは終わった~多分もうこれバレてるわ~。
「ち、ちなみにその例外って?」
「王族。そして、わかってると思うけど転移者だよ?転移してきた勇者の一員さん?」
「やっぱりバレてました?」
「うん。まずその服装はやめるべきだったね。全くみたこと無い格好だからね。それ捨ててフードでもかぶってればバレなかったかもね。」
まぁどうせすぐにヘマしてばれるだろうけど。
ちょっとニヤニヤしながらからかってきた。
「正直叶さんとは関わりたく無かったんだけどね。良くわからない視界の共有なんて事態にならなければ挨拶したらすぐ逃げてたよ。」
今度は悲しそうな顔をしながらそう告げた。
「結構ぼろくそに言ってくれますね?」
「事実だからね。まぁとりあえず髪の色どうにかできる?」
「あ、やってみますね。月よ、その光の前にあらゆるものを惑わしたまえ。」
叶の右目が光ったかと思うと、髪が少しずつ月のような光を帯びていく。
それが髪全てに行き渡ったとき、より一層輝きを増したと思うと、光が消え、月のように輝く髪になっていた。
「これでオーケーですか?」
いま使った魔法はほぼぶっつけ本番だった。
タロットカードの月の持つ意味、幻惑を使った魔法だ。なんかそこまで良い雰囲気の意味が無い月のタロットだが、魔法に出来た上に、意外と使いやすい。
「あ、ああ。大丈夫だよ。」
「良かった~やっぱり夜魔法は便利だな~。」
「夜魔法?君も使えるの!?」
レイルは、鬼の形相で詰め寄ってきた。
「は、はい。」
こ、コワイ。優しい感じのイケメンがやべぇ表情したらこんなに恐いのか。
「何かおかしな点でもありましたでしょうか?」
緊張しながらそう聞き返す。すると、
「いや、取り乱してすまない。僕以外にその魔法を使える人を初めてみたからビックリしただけだよ。」
「ふ~ん。」
まぁ別に同じ魔法が使える人がいてもおかしくないよね。魔法がある世界なんだし。
「一応言っておくとね、夜魔法はユニークって言われるスキルの1つなんだよ?」
「ゆにーく?」
「これもわからないか。まぁユニークって言うのはね、使い手が世界に一人しかいない希少なスキルってこと。」
「ほ~。まぁ夜魔法は夜だけならめちゃくちゃ使いやすい万能な魔法だからね~。」
て言うか2人とも夜魔法使えるんだったらずっと2人で夜に行動したらほぼ無敵なのでは?
「まぁそう言うことだよ。何で2人いるんだろう…嗚呼、やっぱり君は面倒事の塊だ…」
めちゃくちゃ失礼だが私は偉いからその言葉は流す。次はないけどな!
「はぁ~…とりあえず明日は昼から行動開始、します。以上、お休み。」
話に疲れたのか、レイルはベッドに潜り込み、現実からの逃走を始めた。