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大山祁霊能力者会談  作者: 天草一樹
一日目
8/30

クラーラさんとの会話と皆の能力

 世の中にはいろんなタイプの人間がいる。優しそうな人。恐そうな人。おどおどした人。疑り深そうな人。

 見た目や言動から何となくそれらの雰囲気を感じ取り、所謂第一印象というものを形成する。こうした印象は覆ることもあれば、当然そのままの場合もある。

 しかし彼のようなタイプは、相当なことがなければ印象は覆りそうにない気がする。つまりどういうことかと言えば――

「う、胡散臭い」

 しまった。つい本音が漏れてしまった。

 ホセ・クラーラ。奇跡の門の教祖様。信者は百万近くいるとも聞くし、かなりのカリスマ性を兼ね備えているのは間違いない――のだろうが、胡散臭い。凄く胡散臭い。かなり胡散臭い(大事なことなので三回言いました)。

 笑顔というか仕草というか、その一つ一つがどことなく自然じゃない。演技をしているような、何かを隠そうとしているような、そんな印象を受ける。

 しかし胡散臭いと思われることには慣れているようで、僕のかなり失礼な発言に対しても笑顔を崩さず、クラーラさんはてかり輝く頭をかいた。

「これは手厳しい。しかしまあ、その反応はいつものことですので、もう慣れたものです。どうにも私という人間は仮面をかぶっているように見えてしまうらしい。この笑顔がいけないのでしょうかね?」

 そう言って、クラーラさんは自分の頬をつねったり目を吊り上げたりし始める。

 その動きもまた胡散臭くはあるのだが、まだ大して話してもいないのに疑い続けるのは人としてどうかとも思う。

 僕はやや反省して、クラーラさんに頭を下げた。

「すいません。会ったばかりなのに失礼なことを言ってしまい。その……お噂は色々お聞きしています。今日からの霊能力者会談、宜しくお願いします」

「ええ、こちらこそ。どうぞ宜しく」

 百万の信者を抱える教祖という立場でありながら、実に気軽に握手を求めてくる。

 胡散臭いは胡散臭いが、気難しく話しかけづらくない人物というのは、この場においては有難い存在にも思えた。

 それはともかく、ここでも一つ聞いておきたい疑問が。

「ところで、クラーラさんはどうして僕の名前を知っていたのですか? もしかして僕と須藤さんの会話を聞いてたりしてました?」

 クラーラさんは穏やかに首を横に振る。

「いえいえ、盗み聞きなどしていませんよ。今回の会談に集まるメンバーは既に伝えられていましたから、念のため調べておいたのです。霊能力者の行く末を決める大事な会談。その参加者のことは多少なりとも知っておくべきだと思いましたからね。その中でもあなた、恭一郎君は唯一の非霊能力者。しっかりと記憶に残っていたのです」

「調査……」

 これもまた偏見かもしれないが、宗教団体の教祖に個人情報を掴まれてしまっているという事実に若干の恐怖を感じ、背筋を冷たい汗が流れた。

 やっぱりできるだけ関わらない方がいいかなという思いが強くなる一方、他の参加者について知れるチャンスかもという気持ちも湧き上がる。

 結果として好奇心に負け、僕はクラーラさんに尋ねることにした。

「えと、他の参加者ってどんな人たちなんですか? 高名な霊能力者だろうってことは分かるんですが、そっちの方に関しては全然詳しくなくて。さっきの青木さんについてとか、良ければ聞かせて欲しいです」

「ええいいですとも。しかし彼ら自身のプライバシーもありますし、軽くにしておきましょうか。さて――」

 クラーラさんは一瞬視線を家の中に飛ばす。どうやらこのまま立ち話を続けるか、一度部屋に戻って話をするか悩んでいるようだ。しかし結局は戻る手間を惜しんだのか、この場で話を始めた。

「まず最初は、恭一郎君が一番気になっているであろう青木樹海についてお話ししましょうか。といっても彼は謎多き男で、私も詳しくは知らないのです。ただ彼に関する呼び方はたくさんありまして、「死を呼ぶ男」、「宗教殺し」、「自殺万来」と、中々に物騒な呼び方をされています。しかし一番有名な呼称は「精霊使い」というもの。彼は人には見えない精霊を操り、数多くの奇跡を起こすと言われています」

「精霊使い、ですか。具体的にどんな奇跡を起こしたんですか?」

「これも伝聞で聞いただけですが、例えば水の精霊を使って火災現場にゲリラ豪雨を降らせ、火を鎮火したり。土の精霊を使って大きな堤防を築き、土砂崩れを食い止めたり。風の精霊を使って突風を吹かせ、ひったくり犯を転ばせたり。こんなものは序の口でして、彼には他にも多くの逸話があります」

「それはなんというか……凄いですね」

 霊能力者というより超能力者みたいに思える(うん? そもそもそこに差はあるのか?)。それに精霊の力を使うというが、精霊とは一体何なのだろう。普段から見えないけれど周囲にいる者なのか。いたとしてそんな天候を左右するほどの力を持っているのはどういうことか。

 まあ霊能力や超能力に対して理屈付けしようなんてのは無粋極まる話だろう。

 あまりそこは深掘りせず、別の疑問を聞いてみることに。

「因みにそういう奇跡って、どの霊能力者の方もできるものなんですか? もしそうなら今こんなに追いやられていない気もしますけど」

 やや失礼な問いかけにも関わらず、クラーラさんは鷹揚に頷いた。

「皆ができるわけではありません。霊能力にも強弱がありますし、何より力の源が正確には違うのです。かくいう私も決して強力な霊能力が使えるというわけではありません。使えるのはせいぜい透視や千里眼、空中浮遊くらいのもの。青木君と比べればあまりにその力は小さいですし、純粋な霊力で言えば私の助手である守平君の方が私より強大な力を持っています」

「なんか漫画みたいな話ですねえ。因みにうちの師匠はどれぐらいの強さなんですか。師匠の弟子をやらせてもらってるわりに、師匠がどれぐらい凄いのかとか全然知らないんですけど」

 気軽い調子で師匠について尋ねてみると、クラーラさんはなぜか困った様子で眉間に皺をよせた。

「深瀬君か……彼はまた、さらに特殊な類だからねえ。私や青木君が霊の力を借りているのに対して、深瀬君は霊と同じ場所に行ける力だから。恭一郎君は、アカシックレコードという言葉を聞いたことがあるかな?」

「えと、すいません。全く聞き覚えがないです」

 なんだかとても胡散臭い単語が出てきた。いやまあ名前だけで胡散臭いとかいうのは失礼な話だと思うけど。聞きなれない言葉をクラーラさんから聞くと、どうにしたって怪しく思えてしまう。

「ふむ。まあ一般の方にはあまり聞き覚えのない言葉かもしれませんね。アカシックレコードというのは、簡単に言えば、『世界の全てが記録された図書館』――いえ、今風に言えば、『ありとあらゆる事象を検索できるネット』のようなものです」

「ありとあらゆる事象……? それって、僕が今日の朝何食べたかとか、その時何を考えてたかとかも含まれるんですか?」

「ええ、勿論。さらに言えば、今日の夜恭一郎君が何を食べるのか、食べてどう思うのかまで含まれています。つまり過去も未来も、宇宙が創造されてから消滅するまでに起こる全ての事象を調べることのできる場所。それがアカシックレコードなのです」

「おお……」

 何とも壮大なお話し。というか未来を知ることができるということは、未来も既に定まっているということになってしまうけれど。

 もしそれが事実だとしたら努力したりするのが馬鹿らしくなりそうな……あ、でも、その事実を知るかどうか、知った際にどう行動するかも定められているのだとすれば、結局知ろうが知るまいが関係ない? いやそもそも、アカシックレコードで未来を知ったなら、それとは違う行動をすれば未来が変わるのでは? それともアカシックレコードを見た上でどういう行動をとるかも定められていて……ん? だとしたら最初に見たアカシックレコードというのは一体?

 考えれば考える程よく分からなくなり、一度思考を放棄する。そしてそもそもなぜこんな話になったのかを思い出し、「それが師匠と何か関係あるんでしょうか?」と本筋に戻した。

「うん。これが非常に大ありでね。君の師匠、深瀬一刀君は、このアカシックレコードに干渉することのできる能力を持っているのですよ。端的に言うのなら、『未来の分岐点を知ることができる』力があるわけです」

「未来の分岐点を知る……?」

 要するに未来予知ができるということだろうか? だとすれば確かにとんでもない能力だとは思うけれど、普通に信じがたい。

 師匠が未来を予知しているような姿を見たことはないし、そんな力があるのなら今頃もっと……。

それにやっぱり未来が見えるというのはよく分からない。未来を見ることができるということは、未来が定まっているということだろう。だとすればどんなにあがいても同じ結果にしかならない気がする。逆に凄くショボい能力なのかもしれない。

 どう捉えていいものか分からなくなり、眉間に皺を刻ませ黙考する。けれどやっぱり考えがループしてしまい、結論が下せない。

 そんな僕の姿を見かねたのか、クラーラさんは穏やかな声で諭してきた。

「いろいろと思い悩ませてしまったようですが、そんなに難しく考える必要はありませんよ。未来は一つではなく、無限にあるのです。私たちの行動一つでいくらでも変えることはできる。要するに、未来という名の無限の道筋が存在し、私たちはそのどれかを常に選んでいるわけです。

基本的にどの道を選んでも結果に大きな差は生まれませんが、中には自身だけでなく世界を大きく変えかねない重要な選択肢が現れることもある。そしてその重要な選択肢を、事前に察知することのできる能力。それを深瀬君は持っているのです」


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