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大山祁霊能力者会談  作者: 天草一樹
一日目
4/30

大麦さんとの会話

 引き戸を開けて家の外へ。

 ごつごつとした足場に気をつけながら、取り敢えず四方を見渡してみる。

 山の頂上というだけあって、景色はかなり壮観だ。

 周りに視界を遮るものが何もないため、かなり遠くまで世界を覗き見ることができる。

 それに登頂中に感じていた謎の冷気も山頂ではなぜか消失しており、新鮮で気持ちの良い空気を味わうことができた。

 体を大きく広げ、精一杯深呼吸をする。

 自然由来のパワーが全身を駆け巡るような心地がして、今なら僕も霊能力が使えるんじゃないかなんて妙な自信すら湧いてきた。

「岩よ浮け!」

 かっこよく右手を前に突き出しながら、近くにあった岩に念力を送ってみる。

 呼吸を止めて十秒待つ。

 勿論岩は動かない。

 僕はなんだか恥ずかしくなり、周囲をきょろきょろと見まわして誰も見ていないことを確認する。幸い新たな登頂者の気配もなく、辺りに人影などなかったためホット安堵の息を漏らした。

「馬鹿なことしてないで、ちゃんと散策しよ」

 それでも微かに残っていた気恥ずかしさからそう呟き、僕はかまどやトイレがあるという家の裏手に回ることにした。

 家の裏手には、大麦さんが言っていた通り、かまどにトイレ、風呂代わりのドラム缶、さらにかなり大きめの物置小屋が存在した。

 今のところ特に催してもいないし、かまどやドラム缶にもさして見る場所があるとは思えない。なので大麦さんの説明に唯一登場しなかった物置小屋へと歩みを進めた。

 小屋の前まで来て扉に手をかける。ここも引き戸なんだなと考えた直後、ちょうど扉ががらりと開き中から大麦さんが現れた。ただ、今回は僕の来訪を予想していたわけではないらしく、微かな驚きを目に宿していた。

 しかしそれもほんの一瞬のこと。すぐに元の無表情に戻ると、「何か御用ですか?」と尋ねてきた。

 勿論僕は暇つぶしに散策をしていたのであって、何か御用があるわけじゃない。しかし直でそう聞かれると「特に用事もないんです」と答えるのも気まずい感じがして、僕は「ええと」と口をまごつかせてから言った。

「その、大麦さんと少しお話がしたくて」

「私と? 一体何のお話しでしょうか?」

 一切表情を変えることなく聞き返してくる大麦さん。

 僕は必死に聞きたいことを考えつつ、今更ながら彼女の顔をじっくりと見つめた。

 無表情かつ非常に落ち着いた大人びた態度ゆえ、僕よりも十以上は上かと思っていたが、じっとその顔を見れば意外と若々しいことが窺い知れる。こんな山奥で生活しているが故か、肌などはお世辞にも綺麗とは言えず、色も真っ白ではなく適度に日焼けした小麦色。でもところどころみずみずしさが感じられるし、皺も一つとしてない。少し化粧をして服装も今風のものに変えればそこら辺にいる女子大生と見分けはつかないように思えた。

 と、そんな風に彼女を観察していたからか。僕の口からつい失礼な質問が飛び出してしまった。

「えっと、大麦さんって年はおいくつなんですか?」

「二十六ですが。それが何か」

 間髪入れずに答えが返ってくる。

 おお、僕より四歳上なだけかと無意味に感心。それを機に次々と疑問が口を突いて出始めた。

「じゃあいつから大山祁さんの元で修行をしているんですか?」

「二年前からです」

「ああ、意外と最近なんですね。でも一体どんな経緯で大山祁さんのもとに?」

「地元で働いているときに誘いを受け、それを承諾いたしました」

「へえ。やっぱり霊能力者は霊能力者を見抜けるんですね。そう言えば今朝僕たちがここに到着した時、大麦さん玄関の前で僕達が来るのを待ってましたよね。あれも霊能力の力で知ったんですか?」

「はい。黎明様がそろそろあなた方が来るだろうと仰ったので、玄関にて待機させてもらいました」

「そうだったんですか……。こんなことを聞くのは失礼かもしれないんですけど、大山祁さんって結局どんなことができるんですか? 深瀬師匠の弟子になったのも最近のことで、霊能力者について詳しく――」

「黎明様は何でもできます」

 こちらの言葉を遮って大麦さんが言う。

 声の大きさこそ変わっていないものの、今までの無機的な返答と違い強い意志が感じられる。

 なんとなくそこに違和感を覚え、さらに質問しようと口を開く。しかし僕が質問を投げかけるより早く、大麦さんが、

「あなたはまるで記者の様ですね。そんなに質問をして一体何を聞き出したいのですか」

 冷たい視線と共にくぎを刺してきた。

 僕としては単なる興味本位であり、別段何かを聞き出すつもりがあるわけではない。けれど、実際これ以上の質問は彼女との間に深い溝を作ってしまいそうな気がして、慌てて口を閉ざした。

 大麦さんはそんな僕を見て軽く頭を下げると、「それでは失礼します」と物置小屋の扉を閉め、かまどの方へと歩いて行った。

 数秒間彼女の背を見送ってから僕は我に返り、改めて物置小屋の扉に手をかける。しかしどういうわけか、押しても引いても捻っても扉はピクリともせず、全く開く気配がない。

 霊能力で開かないように施錠でもされているのか。

もしそうなら大麦さんに頼んだところで開けてもらえる見込みは薄い。おそらく一般人に触れさせるには危険なものでも封じ込めているのだろうと考え、僕は結局家の前へと戻ることにした。


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