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大山祁霊能力者会談  作者: 天草一樹
二日目

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操る力

「三人って、それは」

「あなたを刺し殺そうとしたホセ・クラーラ。あなたの目の前で須藤の全身を切り刻んだ誰か。それから記者をバラバラにして殺した誰か。この三人よ」

 思考も会話も速い彼女に置いて行かれないよう、僕は必死に脳を回転させる。

「クラーラさんはともかく、須藤さんと三浦さんを殺した犯人は同一の可能性があるんじゃないですか? それに今更ですけど、もし本当に人を操る能力があるなら、とっくに全員崖から落として殺しているんじゃ?」

「そこまでの力はないのよ」

 緊張をほぐすように息を吐きながら、京子さんは淡々と言葉を紡いだ。

「大前提が二つあるわ。一つは犯人に殺意があること。もう一つはまだ私たちが全員死んでいないこと。つまりどんな能力を持っていようとも、それは私たちをまとめて殺せるほど強力じゃないのは確定してるわけ」

「たぶん……そうですね?」

「だけど、記者の殺害も須藤の殺害未遂も、かなり強力な能力がなければ実現不可能な手法が用いられている。もしこれが同一犯なら、この前提と矛盾するのよ」

「矛盾、しますかね……」

 京子さんの勢いに呑まれている気がして、僕は一度頭を整理する。彼女の言う大前提は勿論間違っていない。実際に殺された人がいるし、僕らは生きているのだから。だけど、それで殺人犯に強力な霊能力がないと断言はできないはずだ。

 殺したい対象が全員ではないとか、すぐ殺さずに恐怖を植え付けようとしているとか。理由ならいくつか考えられる。

 ただ犯人視点に立った時、そんな余裕を持てる相手なのかは疑問だ。

 須藤さんからは歩く災害との評価を受けていた青木さんや、やろうと思えば何でもできると噂の大山祁さん。他にも特殊な力を持った霊能力者たちが集まっている状況下、僕が殺人犯で皆殺しを計画しているなら、皆が油断しているうちにまとめて殺すか、最初に青木さんや大山祁さんといった特に危険な相手を狙うだろう。

 しかし実際に殺されたのは、最も無力で霊能力など持たない三浦さん。そこまで踏まえて考えれば、京子さんが主張する通り、犯人に強力な霊能力はなく、何か工夫を凝らして殺人を行っているようにも思えた。

「犯人自身にはこの場にいる霊能力者全員を皆殺しにする力はない。だけど、今起きている事件には強力な霊能力が使われている。つまり犯人は自分より強力な力を持つ霊能者を誘導して、殺人を犯させていると、そういうことですね」

「理解してくれたようで助かるわ」

「それで、仮に誘導された人がいるとして、誰が誰を襲ったと考えてるんですか?」

 黒幕に誘導されたとはいえ、二人を殺そうとするほど強い敵意を持った人物が、僕らの中にいたというのか。

 京子さんは悩んだ素振りも見せず、あっさりと考えを口にした。

「動機の面でいうなら、記者についてはあなた以外全員が敵意を抱いていたはずよ。だからはっきり言って、誰がやっていてもおかしくないと考えているわ。須藤については、青木とホセ・クラーラ、宜保さんあたりが候補かしら。ただ、その後の展開を考えればホセ・クラーラではないでしょうし、犯行方法を考えたら宜保さんも厳しいから、青木一択でしょうね」

「青木さんが……」

 須藤さんから聞いた話が事実であるなら、彼は数多くの人の死に関わっているらしい。他の人たちよりも、殺人という行為へのハードルが低く、誘導されやすいのかもしれない。

「ところで、どうしてクラーラさんを須藤さんを容疑者から除いたんですか? あの後僕を殺そうとしたことを考えれば、むしろ彼が犯人な気がするんですけど」

「逆よ。あなたをナイフで殺そうとしたから犯人じゃないの」

「それはどういう……?」

「だから、もし須藤を襲ったのがクラーラなら、あなたのことも同じ力で襲えばよかったはずでしょ。なのにわざわざ姿を現しナイフで殺そうとした。つまり須藤にしたような力を、クラーラは持ち合わせてなかったのよ」

「成る程……。だとしたら何でクラーラさんは僕を殺そうと?」

「……はあ。面倒ね」

 理解力の低い僕に疲れた様子で、京子さんは溜息を吐く。

 申し訳ない気もするが、ここは我慢してもらいたい。僕とて不測の事態の連続で頭がパンク寸前である。むしろこうして冷静に話せているだけ、自分で自分を褒めてあげたいくらいだ。

 まあ、そんな弱音を吐いていられる状況じゃないことは分かっている。言い訳したりせず、大人しく彼女の話に耳を傾けた。

「途中から話しても伝わらないだろうから、一から私の考えを話すけど。そもそも黒幕は、最初の犠牲者になってもらうため記者をここに呼び寄せたのよ。霊能力者を馬鹿にする彼は、私たちから確実に反感を買う。記者を嫌う気持ちが高まれば、操る力で殺させることができるから」

「……事実ならとんでもなく冷酷な相手ですね」

「冷酷なのか覚悟が決まっているのかは分からないけどね。そして、記者が殺されれば当然、大麦さんによる降霊が行われることも想定していた。そこで黒幕は、記者に大山祁清明の名を出すよう仕込んでいた」

「あの降霊会も黒幕によって仕組まれたものだったと」

「ええ。狙いは私たち霊能力者の動揺を誘うこと。ここからこの場所では、何が起きるか分からない、何が起きても不思議ではないと揺さぶりをかけにきたのよ」

「そんな中で、須藤さんが襲われた……」

「なぜ彼が襲われたのかは分からないわ。ただ現状では犯行方法と過去の関係性から青木が実行した可能性が高い。もともと記者に対してもかなり過激な行動をとっていたし、黒幕が操りやすいメンタルだったかもしれないわね。そして黒幕はさらにもう一人操っていた。それがクラーラよ」

「僕を殺そうとした件ですね」

 京子さんは首を横に振った。

「いえ、それ以前にあの部屋の前に彼を誘導したのよ。ホセ・クラーラは恐れていた。蘇った清明様が一体私たちに何をするのか。そんな中、降霊会の会場を見に戻った須藤がなかなか戻ってこない。そんな不安を黒幕に見透かされ、彼は護身用にナイフを忍ばせあの部屋の前に来るよう操られた。そして見ることになる。血にまみれた自分の部下と、それを知りながら部屋にとどまっていた私たちを。彼の不安は増幅し、一つの結論に達する」

「殺される前に、殺してしまえ……」

 あの時、血まみれの弟子を見たクラーラさんは笑顔を浮かべた。てっきり僕は彼が犯人だったからこその笑みかと思ったが、実際は恐怖を隠すための虚勢の結果だった。

 彼が僕らをすぐに追いかけず見送ったのも、殺すことより死にたくないという気持ちが勝ったからか。

 驚きを伴いつつ、僕は事態を把握したことで何度か頷く。

京子さんは話し疲れた様子で髪をかき上げると、「ま、ただの妄想だけどね」と嘯いた。

「最初に言った通り、人を操る能力自体がただの仮説。今のは机上の空論を土台とした、虚構の推理よ。後であっさり覆すかもしれないから本気にしすぎないでね」


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