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大山祁霊能力者会談  作者: 天草一樹
二日目
25/30

パートナーとして不安あり?

 ………………もしかして、やばい?

 組み伏せられたという事実に理解が追い付かず、僕の思考はしばらくの間停止状態に陥った。けれど地面の冷たさ、硬さがじわじわと五感を刺激してくるにつれ、徐々に危機感が回復してくる。

 殺人が起きた山の上。人目のない森の中。いまだ特定されていない殺人犯。これはひょっとすると、ひょっとするのだろうか?

「殺人が、それもバラバラ殺人なんて凄惨な事件が起きた直後にも関わらず、この危機感の欠如。絶対に自分だけは襲われないとでも、高を括ってたの?」

「……まさか、京子さんが、三浦さんを殺した犯人……なんですか?」

「だとしたら、どうする?」

 混乱した頭で必死に生還の術を考える。取り敢えず助けを呼ぶべきだろうか? それとも全力で抵抗してみる? 体格的には僕のほうが有利そうだし……でも、組み伏せられてる状況から脱せる気がしない。なら、殺すことの危険性を説いてみる? うん、まずはそれをやるのがいい気がしてきた。

「い、今僕を殺したら、京子さんが犯人だってすぐにばれると思いますよ。僕と京子さんが一緒に外に出たのを須藤さんが見てましたから」

「幸いにもここには霊能力者がたくさんいるのよね。一緒に調査をしていたあなたが突然死んだと言っても、たぶん誤魔化せるのよ」

「ええと、じゃあ、ええと?」

 もうどうしようもない?

 早くも万策尽きる。もしかしたら何か方法があるのかもしれないが、今の僕の頭では考えつかない。

 どうせ死ぬなら少しでも楽なほうがいいなと思い、体から力を抜く。

 殺害方法はいったい何だろうか? 死んだあとはどうなってもいいが、できれば一瞬で意識がなくなるような殺し方をしてほしい。

 しかし待てど暮らせど、想像したような痛みはやってこない。それどころか体の拘束も解かれ、動けるようにすらなった。

 助かったと思わせてから殺す的なあれだろうか?

 まだ油断はできないよなあ、と思いつつ、体をゆっくり起こす。

 すると背後から、呆れたような声が飛んできた。

「あなた、いくらなんでも諦めるの早すぎない? うーん、本当にパートナーとして信頼していいかわかんなくなってきた」

「あのー、何か悩んでるところ申し訳ないのですけど、京子さんは殺人犯、ってわけじゃない感じですか?」

「……」

 小馬鹿にしたような目で京子さんが見てくる。

 そんなにおかしな発言をしただろうかと考え、確かに間の抜けた質問だったなと思いなおす。殺されなかった時点で京子さんが殺人犯なわけがなく、仮に殺人犯だったとすれば、もちろん肯定するわけがない。

 しかし殺人犯でないというなら、今のはいったい何だったのか?

 僕は押さえつけられていた腕をさすりながら、再度京子さんに尋ねた。

「えっと、殺人犯かどうかは置いといて……結局、何が目的で押さえつけられたんですかね、僕は」

「……ふぅ」

 こちらの質問を無視して、しばらく睨み続けてきた京子さんだが、息を吐くと同時に全身から力を抜いた。そしてお嬢様然とした雰囲気を台無しにするがごとく、豪快に頭をかいた。

「ああ、もう! なんかあなたと話してると、緊張してる私が馬鹿みたいになってくる! ほんとにこんなやつ頼りになるの!?」

「えと、何を――」

「今から説明するから黙ってて!」

 京子さんはまたもガシガシと頭を搔くと、細い指をビシッと僕に向けてきた。

「まず! 私はあなたがパートナーに相応しいか試してました!」

「は、はい!」

「理由はあなたの師匠である深瀬一刀さんに、今回の事件の結末はあなたを助手にするかどうかで変わると予言されたから!」

「し、師匠がそんなことを――」

「言ってたの! だからあなたを助手にするか、それともしないかを、こうして殺すふりをした際の反応から試すことにしたわけ! むしろよくわかんない感じになったけど!」

「お、おお。納得しました」

 ぜーはーぜーはーと肩で息をする彼女の勢いに押され、僕は何度も首を縦に振る。

 すっかり忘れていたが、彼女は昨日師匠と何か話をしていた。

 あの時点ではまだ殺人は起きていなかったが、探偵としての勘から事件を予見し、師匠に話を聞きに行ったのだろうか?

 しかし師匠もそんな話をしていたなら、言ってくれればいいのに。

「それで、結局助手にするんですか? しないんですか?」

「だからよく分かんなくなったんだってば!」

 僕の発言がいい感じに彼女のツボをつきまくっているようで、先ほどからずっとイライラしている京子さん。もしこの山から無事に下山できたら、牛乳でもプレゼントしようと思う。

 それはそうと、そろそろ有益な話し合いに移りたいところだ。

「まあ僕が信頼できるかどうかは置いておいて、取り敢えず情報交換しませんか? たぶんそこでの話し合いから、信頼できるかどうかの判断もついていきそうな気がしますし」

「む、それはそうだけど……。なんか急にまともなこと言われると腹立つわね」

「何か言いましたか?」

「何でもないわ! ほら、じゃあ、あなたから情報を話しなさいよ」

 よくわからないがまた怒らせてしまったらしい。だけど話を聞く気にはなってくれたみたいなので、ここは敢えて気にしないことに。

「いいですよ。とはいえ、京子さんが欲してる情報を何か持っているかと言われると微妙なんですけど」

「重要かどうかは私が判断するから気にしなくていいわ。それより、崖のほうに行きましょう。まだあなたたちが見たっていう、三浦って記者の生首を確認してないのよ。発見の経緯は一通り聞いたけど、細かいところの情報は全然だし」

「わかりました。じゃあ移動しながら話しますね」

 二人並んで森を出る。

 三浦さんの生首を発見したポイントに向かう途中で、僕は美智雄さんが語ってくれたことを、思い出せる限り話していった。


 三浦さんの生死に関わらず、崖下にいるのは危険と考え見に行ったこと。

 美智雄さんは直接崖から飛び降りて確認しに行くつもりだったこと。

 崖に生首を活けることができたのは、美智雄さん一人な可能性が高いこと。

 美智雄さんの霊能力(筋力)は本物で、悲鳴後一瞬にして家まで移動していたこと。


 京子さんは黙って僕の話を聞き終えると、眉間にしわを寄せ空を見上げた。

「あのマッスル美智雄って人、本当にやばい能力を持ってるのね。正直、犯人じゃないことを祈りたいわ」

「京子さんも美智雄さんの能力については半信半疑だったんですね。あ、あれです。美智雄さんが家に戻る際にできたクレーター」

「クレーター……。本当にそんな感じの窪みができてるわね」

「はい、なんか凄かったですよ。爆風みたいなのが起きて、気づいたら美智雄さんの姿がなくなってたんです」

「ふーん」

 美智雄さんによってつけられた窪みを見に、少し寄り道する。京子さんは窪み周辺の岩場を触ったり、嗅いだりした後、「火薬の匂いはしないわね」と呟いた。

 僕は彼女の後ろをなんとなく追いかけながら、一つ気になっていたことを尋ねた。

「ところで、三浦さんって朝の時点では本当に死んでなかったんですか? ちょっとそこの辺り、まだ疑問だったりするんですけど」

 ちらりと僕を見やると、京子さんは平淡な声で聴き返してきた。

「私の霊能力、疑ってるの?」

「そういうわけじゃないんですけど。ただ同じ能力を持つ卑弥呼さんは判断に困ってたのに、京子さんは躊躇いなく死んでいると宣言したのがちょっと不思議だったので。気分害しました?」

「別に。そういう疑いの姿勢は大事だと思うから」

 クレーターの調査は一段落したのか、京子さんはぐっと背伸びをする。それから僕の質問に答えることなく、「じゃあ本筋に戻りましょうか」と、歩みを再開した。

「……クレーター調べてたのって、美智雄さんの能力を疑ってるからですか」

 美智雄さんが踏み抜いたことで細かい岩が散らばっており、ここら辺は特に歩きづらい。京子さんはバランス感覚がいいようですいすい進んでいくのに対し、僕は転ばないよう注意しながら、よたよたとついていく。

「まあ、そんなとこ。彼については私も詳しく知らないし」

「美智雄さんって本当に知られてないんですね。大山祁さんはよく彼のことを今回の会談に呼びましたね」

「たぶん焦ってるんでしょ。年々霊能力者の価値は下がり続けてるから、もっと世間に訴えかけやすいキャラを探してたんじゃない」

「なんだか険のありそうな言い方な気が……」

「気のせいよ。それより首が刺してある木の枝ってどこらへん? 三浦が死んだふりをしてたのと同じ辺り?」

「露骨に話をそらされた……。えっと、そうです。だからこのまままっすぐに行けば見えてくるはずです」

 ほどなくして、僕と京子さんは三浦さんの生首が見える崖の真上にたどり着いた。

 まだ彼女は僕のことを疑っているようだし、少し離れてほしいとか言われるかと思ってたが、予想は外れ特に警戒した様子は見せてこなかった。

 高さプラスこの先にある光景を思い出し、足が勝手に震えだす。その恐怖を必死に抑え込みつつ、僕は崖下を覗き込んだ。

「あ、あれです。崖の中腹にあるあの枝の――」

「ふむ……本当に枝に首が刺さってるのね」

 美智雄さんと見た時と全く同じ光景。

 本来なら全く心安らぐ光景ではないが、僕はちょっとだけ安心感を覚えていた。生首が消えてたり、増えてたりしていたらどうしよう。そんなことを頭の片隅で考えていたためだろう。

 京子さんは崖から半分以上体を乗り出し、大胆にも崖下を覗いていく。

 彼女は冷静な表情を保っているが、見ているこっちのほうが肝が冷えてくる。

「あの、さすがにそれは危険だと思うので、もう少し体を――」

「ここから枝までは、ざっと十メートルぐらい。首は……ちょうど空を見上げるようになってるから顔は見える。私の視力だとぎりぎりだけど、確かに昨日の記者の顔な気がする。仮にあれが記者の顔じゃなかったとしても、あそこに枝をさすのは容易じゃない……」

 京子さんは枝の刺さった場所だけでなく、崖全体を眺めまわす。

 一分近く観察を行った後、ようやく全身を大地に戻し、一言。

「全然、意味わかんない」

 と、言い放った。


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