藪医者
江戸時代は医師免許がなかったので藪医者がいっぱいいた様です。
中にはどんな症状の人にも葛根湯を出しちゃう医者もいたそうです。
今はそうはいきませんが・・・
「はいはいお大事に、次の患者さん!」
「先生よろしくお願いします。」
「どんな症状ですか?」
「死にたいです。」
「鬱病ですね。」
「鬱病ですか。治りますか?」
「治りますよ。葛根湯出しときますね。」
「え、葛根湯?ふざけないで下さいよ。葛根湯で鬱病治らないでしょ。」
「治りますよ。葛根湯飲んでから気合い出して生きていけば治ります。」
「ザックりしすぎでしょ。抗うつ剤とかないんですか?」
「あんなの効きませんよ。気休め。気休め。」
「葛根湯の方がよっぽど気休めでしょ!なんかちゃんとした薬だして下さいよ!」
「薬、薬って、あなたはコカイン卓球ですか?」
「ピエール瀧のこといいたいんですか?時事ネタが古いし分かりづらいですよ。精神安定剤ないんですか?」
「だから気休めって言ってるでしょ。葛根湯のんで気合いだしていきましょう。気合いだ!気合いだ!京子!」
「僕京子じゃないんですけど・・ん?先生の後ろにある「葛根湯EX」っていう箱はなんですか?普通の葛根湯とは違うんですか?」
「!!!」
「何動揺してるんですか。もしかして、これ飲んだら鬱病治ります?」
「そ、そ、そんな訳ないだろ。ま、ま、まさかこの葛根湯EXが鬱病を治しすぎて、逆に他の製薬会社の製品が売れなくなってしまうから厚生省に認可ストップされた幻の薬な訳ないだろ!」
「・・・全部喋ってくれるじゃないすか。これ下さいよ!」
「ダメだ!」
「SNSに投稿しますよ!」
「糞!もってけ泥棒!」
こうして葛根湯EXを手に入れた青年はこれを飲んで鬱病が全快します。
もう二度と気分が沈むことはありません。勉強にスポーツ、恋に遊びに青春を満喫します。
全ては順風満帆に見えました。
だがしかし・・・
3ヶ月後。
「はい。はい。じゃあ葛根湯出しときますね。はい。はいお大事に。次の方!」
「先生助けて下さい!」
「あ!お前はEX泥棒!何しにきたんだ!もう薬はないぞ!」
「退屈なんです!面白いことや楽しいことをやり尽くして退屈でしょうがないんです!」
「何ぃ?贅沢な奴だ!鬱よりいいだろ!」
「それが・・・これが鬱より辛いんです。人は喜怒哀楽の落差とかグラデーションがあってはじめて普通だってことに気づきました。この薬を飲むとそれがなくなるんです。ただただ楽しいだけってほど退屈なことはないですよ!」
「贅沢すぎるぞ!知るか!帰れ!」
「先生、助けてくれないんですね!じゃあこれを喰らえ!」
青年が手にしていたのはキラリと光るナイフでした。
「な!逆恨みか!私はお前に薬をやったんだぞ!」
「逆恨みじゃありませんよ!あんまりにも退屈すぎて殺人でもやってみようかと思ってね!グサッ!」
「グエエ!」
バタン。医者はこときれてしまう。
「ハアハアハアハア、こんな簡単に死んじまうのか・・・何もかもが怖くてビクビクしてたことが懐かしいぜ・・・あの薬を飲んだら殺人さえ・・何も感じない。ハアハア・・・・畜生。」
青年はナイフをポーンと放り投げる。
「あああ、なんか楽しーことないかな。」