1-異世界転生-
前作から見て下さっている方も、初めましての方も、どうも獅猫です。この度、黒白スピンオフに続いて、自身初の異世界恋愛小説を書くことになりました。
連載中の第一作【黒白の王と闇夜の剣】の、バトルを主とした異世界王道バトルファンタジーではなく、恋愛と冒険を主題にした異世界恋愛冒険ファンタジーです。
まずはどうぞ、ご覧ください。
俺はゆっくりと目を覚ました。ここはどこだろう?どこかに立っているわけではない。浮いているようだ。辺りには何もない。だが、その謎の空間の天井の方から謎の声が響いた。
「(やあ。お主は八剱白夜君だね?)」
「…は、はい。…八剱白夜は俺ですけど…」
俺は状況が全くつかめずに立ち尽くしたがとりあえず問いを肯定した。すると再びその声が天井から響く。
「(そうか!やはりお主か!…それで…残念なことをことを言うんだが…)」
そしてその声は、一瞬の間をおいて、恐ろしいことを言い放った。
ーー「(お前はもう、死んでいる)」ーー
「…はい…?」
その言葉が非現実すぎたからだろうか。はたまた、どこかで聞いたようなセリフだからか。俺は告げられた言葉の意味が分からずに聞き返した。その後冷静に考えてみる。「死んだ」ということは…俺はもう生きていないのか?
「…えっと、死んだってのが本当なら…何で俺は死んだんです…?」
「(おめでとうと言うべきか、お主は我ら神々が行う【異世界転生者】審査に合格した!)」
「神々?」
俺が気になった言葉にそう反応すると、俺の数メートル先に何者かが突然現れた。
「申し遅れた。私はこの世界の神の一人。君を審査した審査員の内の一人でもある」
「さっきから言ってる【審査】って何なんです?」
「こことは違うファンタジーの異世界に転生する人を選ぶ審査を神々で行う審査。お主はゲームによって培った異世界のノウハウetc…によって異世界に転生することとなったんだよ」
「んな勝手な…」
俺はため息をつきながら言った。そんなデタラメな審査に合格してしまうとは。普通な生活を送って来たはずなんだが。
「それで…異世界に行ってくれるな?」
恐らくこれが某国民的RPGなら「魔王を倒しに行ってくれるな?」と国王に聞かれ、「はい・いいえ」の選択肢が出るところだろう。俺はその某国民的RPG風に即答した。
「いいえ」
神様は一瞬遅れて驚いたような顔をして俺に言った。
「何と!いやと申すか!」
「だって今の俺が行ったところですぐに死ぬのがオチですよ?」
「大丈夫!お主の能力値は底上げするように決められておる。それに膨大な魔力と神剣の特典付きという大サービスだ」
神様がなだめるようにそう言うと、俺の目の前にその神剣とやらが出現した。ゲームに出てきそうな流麗な純白の剣で、実際に見ると迫力がある。
能力は高められており死ぬ心配はあまりしなくていい。それに魔力と魔剣のサービス。デタラメな審査して勝手に殺したからには次の世界で楽しく暮らさせようということか。
「もう一度聞くが…異世界に行ってくれるな?」
あ、理解した。これ多分某国民的RPGである無限ループだ。何度「いいえ」を選択しても結局は「魔王を倒しに…」まで戻ってくる。「はい」を選ぶまで進めない。
まあこのまま死ぬよりかはゲームの中みたいな世界を満喫するのもアリか。
俺は神様に向けて渋々頷いた。
「…はい」
そして次の瞬間、俺を眩い光が包み込み、一瞬で意識が飛んだ。
♢♦♢♦
俺は再びゆっくりと目を開けた。そこに広がっていたのは見たこともないような世界。そして見たこともない街並み。そして見たこともない服装を身に着けた人々だった。
「すげぇ…異世界だ…!…ホントにあったんだな…」
俺は興奮して言った。今までゲームの中に広がっていた世界が本当に目の前に広がっている。俺は興奮に、そして感動までも覚えた。
現在所持品は腰の神剣【アポカリプス】と神様に貰った初期金額2000円(円なのか?)。そして装備は学校の制服だけ。2000円で何ができるだろうか。
まずは宿の確保が優先だろう。そしてギルドに入って冒険者となる。これがまず最初の目標か。
道行く人々の会話を聞いていると、会話は日本語で通じることが分かった。だが宿屋などに書かれている文字は日本語でも英語でもない。まあ神様の補正のおかげで読めることは読めるが。
少し歩くと、まず宿屋が見つかった。俺はその中に入ってチェックインする。一泊が200Gらしいのでとりあえず5日部屋を借りることに。
これで当面の拠点は確保できたわけだ。これから収入源となる依頼を受けるべくギルドに行く必要がある。そこで冒険者登録をすればいいわけだ(勝手な予想)。
と、俺が街を歩いていると、路地の中から一人の少女が飛び出して来た。そしてその一瞬後に10人に迫ろうかという数の兵士たちがその少女を追って飛び出てくる。あの少女は追われているようだ。
俺はその少女を追いかけ、彼女の手を握って引っ張った。
「こっち!まずは逃げよう!」
「え!?あ、はい!」
俺は彼女を引き連れて、再び別の路地に入る。そして置かれた箱などを避けながら走って行く。兵士たちも少し遅れて追いかけてくる。
俺は彼女を連れたまま、路地にある大きめの箱の中に隠れた。兵士たちは俺たちがこのまま直進したと思っているようなのでバレないだろう。
「ルミナ様はどこへ行った!?」
「この先だ!追え!」
そんなことを叫びながら兵士たちは俺たちの横を通り過ぎて行った。兵士たちが完全にいなくなるまでまってから俺は箱のふたを開けた。
「大丈夫。もう誰もいないよ」
「…はい。ありがとうございます」
俺は彼女の手を取って箱の中から起き上がらせた。よく見ると相当な美少女だ。美しいロングの金髪に碧眼を持っている。
俺たちは兵士に警戒しながら路地を出た。兵士がいないのを確認して安心したのか、隣を歩いていた彼女が初めて自分から口を開いた。
「助けて下さりありがとうございます。私はルミナ・フィオミア・エルブルク。これでもここエルブルク王国の第一王女なんですよ?」
「お、王女様!?」
俺は驚いて叫んでしまってから、彼女が逃走中だったことを思い出して口を覆った。まさか王女様だったとは。それにしても…
「…ルミナ様?…はなんでこんなところに?」
「ご気軽にルミナとお呼びください。…私、王宮での生活に退屈してて…ギルドで冒険者として働いてみたいってずっと思ってたんです」
「王女様が冒険者か…おてんば姫なんだ…」
「ま、まあ否定はできませんね…。ちょくちょく城を抜け出していますし…。それと…、」
「ん?まだ理由が?」
王女がそんなことしていいのか。まず第一にそう思うが、とりあえずはルミナの続けようとしている言葉を聞く。
「私…親友から頼まれてる【探し物】があるんです。とっても大事な友人だから、どうしても見つけてあげたくって…」
「探し物ね…、どんなのなんだい?」
「実はそれすらさっぱりで…。ただ人によって造られた【人工遺物】で、この王都の中、もしくは近郊にあるとしか…」
「人工遺物か…、例えば武器とか鎧、道具とかか…、」
探し物の内容もさっぱり分からないか。これでは探そうにも探せないような…、
…待てよ?人工遺物というからには場所も限られてくるはず…。そう閃くと同時に、俺はある提案が浮かんでルミナに言った。
「じゃあさ、俺と一緒に来るか?俺も冒険者になる為にこの街に来たんだ。その探し物も手伝うよ」
「良いんですか?…でも、逃走中の私に手を貸せば貴方まで叱られてしまいますよ?」
俺は不安そうな顔で言うルミナに向かって笑いながら言った。
「大丈夫だって。さすがに街中は探せないかもだけど…どうかな?」
「…はい。貴方がそれでいいのなら是非お願いしたいです!…あのお名前は…?」
「あ、忘れてた…。俺は八剱白夜。よろしく」
これが、俺とルミナ・フィオミア・エルブルクの出会いだった。
どうでしたか?初の異世界恋愛小説だったこともあり、不慣れな点もあったかと思います。
個人的には、現在連載中の【黒白の王と闇夜の剣】に全力を注ぎたい、という気持ちがあり、こちらの小説は少々ゆっくりペースの投稿になってしまうかもしれません。それでも、自分ができるベストを尽くすつもりです。
黒白の王と闇夜の剣ももちろんですが、この本作【魔剣使いと七人の花嫁】もどうぞよろしくお願いいたします。