エルフさんのお金稼ぎ
※一人称視点
・・・ごくり。
熱気がこもりそうな程に距離を寄せ合った男達が喉を鳴らした。
それも筋骨隆々な屈強な男達である。
はっきりいってしまえば
気 持 ち が 悪 い
そう、可憐で高潔で眩いばかりの知性を備えたこのわたしが見るべき光景ではない。
しかし・・・でも、だって仕方がないのだ。
いま語り部として金銭を頂戴している身としては、この下々の者共を満足させるために美しい足を見せることも。
美貌に惹かれ、更に繊細な声が紡ぐ物語にのめり込んできたからか鼻息が荒くなったケダモノ達が良く見聞きできるようにと近寄ってきてる現状すらも。
どれもこれもすべて”アイツ”が悪くて、わたしは悪くないのだ!
お金がないのが悪い。わたしは悪くない。
まったくもってヒューマンというのは許し難い存在である。
少しぐらい多めにお酒を飲んで、少しぐらい良い素材のものを食べて、ちょっとぐらい良い部屋に宿泊して。
誰でも嗜む程度の賭け事に参加して、偶然にも相手が勝ち越したのをこれから盛り返そうとしただけなのに・・・。
”アイツ”ときたら
『目を離した一瞬で10日分の稼ぎがなくなった!?』
とかなんとか騒いじゃってさ。
ま、まあエルフのわたしからすればぜんっぜんなんてことないことなんでしょうけど?
日々をせこせこ生きてるヒューマンの”アイツ”にとっては大事なのかもしれないけど?
エルフのわたしが悪いなんてこと絶対にあり得ないし?
悪くなんてないけど、悪くなんて思ってないけど・・・。
ちょっとぐらいは悪いのかもしれないと思うから、こうやって語り部なんてして小遣い稼ぎをしてるのだ。
ああっ!いま正面の愚かなヒューマンがわたしの足を撫でようとした!?
「触ろうなんて良い度胸してるじゃない!このオーガと比べて軟弱に見える程度の筋肉しか備わってない小汚いヒューマンめ!」
本当ならもっと悪態を付きたいけど、いまは金を絞る相手だから我慢してあげるわ。
うえー、すんごい気持ち悪い。
気を取り直そうとして横にそむけてぺっぺっと舌を出してた顔を向けてみると怒った顔のオークが居たわ。
あ、オークじゃないさっきの下劣なヒューマンだった。
「て、てめえ、それが客に対しての態度かよ!」
そういって怒るゴブリン以下の知能のヒューマンは周りの同類達に笑われて、頭のてっぺんから真っ赤に染まってた。
「客ですって?最低限の節度も守れない動物に分かりやすく伝えただけでしょ」
「このアッマ!」
はあ、やだやだ。
返す言葉も汚いし、唾なんて飛ばしてるし、面白くもなんともないわ。
「・・・これなら豚の方がまだましね」
「なんだと!?」
「あら人語が理解できるなんて賢い豚さんね、もう夜は遅いから豚舎に帰りなさい?」
慈愛と抱擁に満ちたわたしは目の前の家畜に優しく教えてあげることにした。
ちゃんと行先が分かるように扉の方を指さしてあげる。
「・・・ふっ!ふっ!」
え、なに、何で鼻息を荒くしてるの気持ち悪い。
周りのヒューマンも良くこんな赤豚と話が出来るわね。
こういった点はすごいと思うわ。
そう思って感心しているうちに周りの制止を跳ね除けるように赤豚はこちらに掴みかかろうとする。
「あぶねえエルフの嬢ちゃん!」
「ああ、こうなったか・・・」
「やり返せ!」
喧騒が一際大きくなったことで、ヒューマンの何倍も良い聴覚を持っているわたし達エルフにとっては不快感が高まるというものである。
「地べたに這いつくばりなさい」
そう忠告してあげると赤豚は私の足に踏まれたかったようで、ピクピクと痙攣して手足を投げ出すようにしている。
これは豚ですらなく虫よね?
昔見た大きな虫を退治した時にこんな格好になっているのを覚えているわ。
「お、おいいまの見えたか?」
「さっぱりわからん」
「飛び掛かったあと、いつの間にかエルフの嬢ちゃんの足があいつの後頭部を踏みつけていることは分かるが・・・」
『『『それはオレでも分かるわ!』』』
え、なにヒューマンには見えなかったの?
このわたしの華麗な魔法を持って害虫を駆除したところ。
はあああ、もうやだ。
「じゃあ、これは迷惑料として受け取っていくけど文句はないわよね?」
害虫の持ち物からお金が入った袋を拾い上げて見せると、周りのヒューマン達が青い顔のまま不細工な顔を縦に振り続けるのが分かる。
そう素直なヒューマンは好きよ?
語り部らしくにこりと笑って頭をちょっとだけ、少しだけ下げて扉に向かって歩いていく。
今日もヒューマンは愚かね。
でも・・・退屈な日常を送るぐらいならこれくらいは許容できると言うものだわ。
エルフさんは今日もお金を稼ぐ。
楽しいことを求めて旅を続けるために。
本人は穏便なつもりですのであしからず。
”アイツ”の視点も気が向いたら書いていきたいです。