負けたら終わり。"私"の終わり。
アラカチュー「誘拐婚」というキルギスの風習をご存じでしょうか? 読んで字のごとく、誘拐してそのまま結婚という理不尽なものです、説得はするらしいですけど(よろしかったら検索してみてください)
宗教上の理由とかあるのですが、それを抜きにして自分の生きている範囲に落としこんで書いてみました。悲恋、日常、青春とタグがついているのでパンツを脱ぐ機会は無いと思います。
ぐしゃっといった。
女の子の足先は正確に男の弱点を捉えた。身体を九の字に折り曲げて男は地面に膝をついた。反射的に涙が溢れ出てくる強烈な痛みの中、ここ数日のやり取りが男の頭をよぎる。
実に他愛もない話だった、女の子を誘拐して依頼者に引き渡せば良い、それだけでしばらく遊んで暮らせる金を得られる筈だったのに、男が思い描いていた未来と現実は180°違った。
目の前には自分の腕より細い足が並んでいる。視線を上に移すと、服の上からでも分かるほど細い腰つきで、戯れにパンと叩いただけでへし折ってしまえるだろうと思えるほどだ。
きっと格闘技の経験があるのだろう、と良く言われる恵体である自分が、何故このか細い女の子に痛めつけられ膝をついているのか分からないと男が思った瞬間、顔の中心が熱くなった。
女の子の膝頭も例外なく固く、四回の膝蹴りにより脳が揺れ、鼻から血が源泉かけ流しの様に落ち、ああ楽になったと痛みも敗北感も超越した不思議な心地好さの中、男は前のめりに倒れた。
男の歯が当たったのか女の子の膝は少し切れて血が流れていた。慣れた手つきで傷口に可愛らしい猫のキャラクターがプリントされた絆創膏を貼ると彼女は歩き出した。
慌てた様子も無く、つい今起こった出来事など無かったかのように歩き出した。
これが彼女の日常だから。