第8話 そんな勇者も悪くない
初めて書き始めた小説なので、文章としておかしな部分が多々あるかと思いますが、ご了承ください。
花見屋デパート――平日、休日問はず人々が集い買い出し、フードコートでの食事をする3階建デパート。その花見屋デパートに優翔と西、攻撃部隊のメンバーが着くと早速建物内に入っていく。
「いいか! ガイアスを見つけ次第、集結し攻撃に当たるぞ!」
指揮をとる1人の男性の命令を聞くと「了解!」と答えたメンバー達はガイアス捜索に向かい出す。
それとは別に遅れて建物の中に入って行った優翔達。4人は入ってすぐの場所にある上の階に繋がる階段があるちょっとした広場で足を止める。
「攻撃部隊の人達はガイアスを探しているはず。僕は1階と中央広場に人が居ないか見てくるから、優翔達は2階と3階をお願い!」
手分けして探索することを提案する。
「わかった。……気を付けろよ」
優翔は賛成すると拳を西に突き出す。同じように西も拳を出し拳を打つけると「もちろん!」と答え、篠明を連れて食品売り場やレジのある販売コーナーに向かって行った。
優翔も泉美と共に任された2階へと向う。
――――無事でいろよ、西――――
その後西は1階販売コーナーを見て回り、逃げ遅れていた人達を避難させた。インカムから送られる情報ではまだガイアスが見つかってないようで西と篠明もガイアスの捜索に加わることになった。
「建物内にはいませんね。西様」
「あと探して無いのは中央広場の公園だけだね。行ってみよう」
広場に繋がる扉を通り中央公園に出る。
中央広場の公園は円状の形をしており、自然の緑をコンセプトに木々と花壇に生える色とりどりの花で囲まれている。
中心には孤島をモチーフに小川で丸く囲まれた休憩スペースがあり、天井は自然の明るさを再現するために透明なガラスの屋根になっている。
特別大きな設置物などが無い広場を西は一望して確認するが、やはりガイアスの姿はそこには無かった。
「もしかすると、ガイアスはパンドラが再び開き戻って行ったのではないでしょうか?」
「……そうかもしれないね。一旦みんなに知らせるよ」
西がインカムを起動しようとして何気なく視線を下に下げる。その時、中心スペースに動く黒い影が急に現れそれに気づいた西が疑問を持ち天井に視線を向けた。
「あれは……!?」
そこにいたのは逆さに天井に張り付き鳴き声をあげる巨大なガイアス。
「キッキキキッ!」
「――はっ! 避けろ篠明!!」
ガイアスは鳴き声をあげると天井に張り付いていた鎌と足を離し中央に落下した。それに気づいた西は篠明を抱え飛び直撃を回避する。
ズドンォォン――落ちて来たガイアスは体勢を立て直すと西と篠明を見つけその方向を向いた。ガイアスは推定、高さ4メートルの巨体を持つ巨大なカマキリの姿をしていた。
飛び出た目玉に逆三角の顔と長い赤黒色の胴体を持つカマキリの姿をしており、鎌は2本、脚は2本、胴体には直線や曲線の模様が刻まれた格好をしている。
「西様危ないです!」
「わかってる、後ろに下がるぞ!」
不意に目の前に現れたガイアスを確認するとすぐに起き上がった西は篠明を連れてガイアスから距離をとった。ガイアスは西達に目もくれず、右往左往と動き回り近くの木やベンチを鎌で切り続け、そのまま不審な動きを続けている。
「……に、西様、ガイアスは今私たちに興味を示していません。今のうちに攻撃部隊と合流した方が?」
篠明は今までガイアスと遭遇した事が無く、初めてのガイアスとの直面で恐怖と動揺に襲われている。そして、それは西も同様であった。
「赤黒い姿、アウラ……。そうだね、すぐにこの場を離れよう」
ガイアスの動きを確認しながらゆっくりと建物内に戻ろうと後退する2人。その時、西のインカムに通信が入った。
『こちら攻撃部隊! 西君、今デパート中心から地響きのような音がしたが何かあったのか!』
攻撃部隊からの着信に西は極力声を抑えて小音で返答する。
「……中央公園広場でガイアスを発見しました。僕たちはこれから建物内に避難します」
『わかった。すぐにそちらに向かう!』
向こうからの『気を付けろ』の言葉を最後に通信を切った西は再度ガイアスの方を確認する。――ガイアスは西達を見ていた。
「こ、こっちを見てる!? 逃げるよ篠明!」
「は、はいっ!」
インカムの小音に反応したのか、西達をターゲットに決めると先程までの不可思議な動きが嘘のように奇声をあげながら両脚の鎌を大きく振り西と篠明を襲う。
「西様、このままでは!?」
「ああ、篠明、槍!」
「わ、わかりました!」
篠明がトランスしたのは十文字槍と言う、矛先が真っ直ぐ以外に左右にも飛び出た十字形の槍。西はそれを手に取るとガイアスに構える。
「助けが来るまでなんとか耐えるぞ!」
『はい!』
ガイアスの鎌が横払いに振るわれ西を襲う。ガイアスの重い攻撃を十文字槍の柄で受け止めた。
「ぐっうぅ!?」
武器を通して手が痺れるような衝撃に襲われるが、休む暇もなく連続で襲って来る攻撃を西は必死に目で見て防ぎ続けている。
この時、西のインカムに着信が入ったが西は気付く事は無かった。
攻撃の隙を見つけた西が十文字槍で力一杯の突きをガイアスに与える。しかし攻撃は通らずガイアスの体は十文字槍を弾いた。
「弾いた!? 何故武器が効かない!」
『アウラなら攻撃が出来るはずですが……』
一方的な攻防をしばらく繰り返していたが、突然ガイアスの鎌が止まり、ガイアスは両肩を広げまたも甲高い奇声をあげた。すると胴体の模様が薄っすらと黒い光を放った――
「 何だ……――!? そ、そんな!」
時間が少し戻り、2階捜索をしていた優翔達はガイアスの落下による揺れに襲われていた。揺れる床に倒れそうになった優翔を泉美が支えて立っていたがすぐに揺れが収まる。
「今のは何だ? 地震か?」
「わかりません。一度西様たちと合流しましょう。もしかするとガイアスが建物内で暴れているのかもしれません」
泉美の案に乗り優翔は1階に向かう。途中、攻撃部隊から連絡があった優翔は揺れの正体がガイアスによるもの、そして西がガイアスと鉢合わせたことを知る。
『君たちも退避するんだ』
「まだ西がいるんだ、俺も探しに行きます!」
相手の制止を聞く前に通信を切り、優翔は中央広場に向けて走っていく。1階に降り建物の中心に向かう中、西の安否を確認するべく優翔は通信を試みる。
「優翔様、西様たちの状況は?」
「……通信は繋がっているけど返答がない。ガイアスと交戦してるのかもしれない」
インカムから聞こえるのは西の声と物と物が打つかっている様な雑音だけが聞こえている。すると突然先程まで聞こえていた雑音が止み静かになる。
「何だ、急に音が止んだ?」
「優翔様着きました」
ちょうど同じく、優翔と泉美は中央公園広場の入り口に着くと扉を開けた。
そこに居たのは、篠明がトランスした十文字槍を持ち疲労する西と、カマキリのような見た目をしたガイアスが奇声をあげながら胴体の模様を光らせていた。
「西!? ……が、ガイアス」
西は優翔に気づかずガイアスの方を見ている。
メキメキ――と肉体が避けるような音を出しながらガイアスの姿が変わる。
そこにいたのは先程までの2つの鎌を持った赤黒いカマキリではなく、胴体の模様に見せていたもう2つの鎌を出し合計4本の鎌を構え、背中から羽を出し羽ばたかせている。
そして、鎌と羽で隠されていた胴体から漆黒色の肉体が露わになった。
離れた位置にいた泉美もその事に気づく。
「あれはカグラです! 私は西様たちを助けに行ってきます。優翔様は早くお逃げください」
泉美は西達に向け駆け出していく。だが、優翔は初めてガイアスと会った時のように、ガイアスを見て恐怖で動けずにいた。
「……っくそっ、くそっ! 怖がってる場合か、友達が危ないんだぞ!」
しかし自分に言い聞かせ、震える体を少しずつ前へ歩み出し泉美に遅れて西達の元へ必死に走り出す。
一方、十文字槍を待つ西は突如急変した目の前のガイアスに言葉を失いただ呆然と立ち尽くしている。
『西様! 西様、しっかりしてください!』
「――っ! あ、ああ、ごめん!」
篠明の呼び掛けに反応して正気を戻した西。しかしその時にはすでに西に目掛けガイアスが左右の鎌を振るっていた。西の元にたどり着いた泉美が飛び上がり片方の鎌を蹴り上げ軌道をずらす。
しかしもう一方の鎌に対処が間に合わず、西に迫ってくる。――寸前、トランスを解除した篠明が西を後ろに押し飛ばした。
押された西は時間がゆっくり進む感覚に包まれる。その時、篠明は涙を流し安心したような笑顔を浮かべた。
「……西様。よかっ――」
ガイアスの鎌が言葉を遮り、篠明の腹部を刺して貫通する。
「……し、しのあぁーー!!」
鎌に刺さったまま篠明の体は動かず、西の声にも反応しない。
泉美は篠明の姿を見ても歯を食いしばり西を庇い守っていた。優翔は悔しそうな表情を浮かべ涙を流しながらも必死に西の元へ走ってくる。そして――
「うわあぁぁーー!!!!」
既に命を無くした篠明の姿を見た西は嘆き、一心不乱にガイアスに向かっていく。
泉美は2本の鎌を受け流し対処をしながら西に止まるよう声をかける。だがその声も聞こえず、ただ我武者羅にガイアスに向け飛びかかり拳を向ける。しかしその西に向けガイアスは鎌を振るう。
「にしぃーー!!」
駆けてきた優翔は西に向けてを伸ばすが、一歩届かず。ガイアスが振るう鎌が西の体を真っ二つに切り裂き上下に切り離した。
空中で上半身だけとなった西は最期に意識が途切れる寸前、鎌の動きに合わせ無残に振るわれる篠明の顔を見た。
「し――の……あ」
下半身と上半身がそれぞれ遅れて地面に落下する。優翔は既に息を引き取った西の亡骸を前に地面に座り込む。
「……西……」
「優翔様!」
泉美は優翔のそばに駆け寄り優翔を抱えジャンプして後退する。ガイアスと距離を取ると泉美は必死に語りかける。
「しっかりしてください、優翔様!」
しかし友人の2人が目の前で殺された優翔にはショックが大きく反応を示さない。ガイアスは鎌に刺さった篠明の亡骸を口元に運ぶと食べ始める。
食べる事に夢中になるガイアスは泉美たちに興味を示さない。その一部始終を見ている優翔の頬に涙が溢れ流れる。
「……ぐっ……」
友人を殺された悲しみと恐怖に優翔は動けなくなり、ただただ涙を流す。
「…………」
泉美は静かに立ち上がり優翔に背を向ける。
「……優翔様、立ってください」
「無理だ……。俺に戦う覚悟なんて、もう……」
恐怖に俯き自分の弱さを嘆く優翔。泉美は振り返らず優翔に語り続けた。
「……覚悟なんて必要ありません。強さも必要ありません。ただ必要なことは1つだけ――」
優翔は泉美の背を見る。その背には戸惑いや恐怖は無かった。そして泉美は振り返り優翔の目を見た。
「何に変えても、愛する人を守ろうとする勇気だけ……それだけです」
そう答える泉美の目には1人の少年しか映っていなかった。その言葉の意味、泉美の信念がわかった優翔は静かに立ち上がり涙を拭う。
「自分勝手な、良い言葉だな……。誰の言葉だよ?」
「もちろん、私の言葉です」
優翔は顔を上げると自分の頬を殴る。
優翔の顔は覚悟を決めた表情を浮かべていた。その目にはもう迷いはなく、泉美と共にガイアスに向かい歩き出す。
「ごめん。一緒に行こう泉美」
「はい……。優翔様」
――――俺にも守りたい人がいる――――
「……勇者……かぁ」
優翔は不意に神河が言った勇者という言葉を思い出す。
勇者――世界を守り平和をもたらす者。すべての人を救う者に与えられる称号。
「かっこいい勇者には、俺はなれないかもしれないけど……」
「うん? 何か仰いましたか?」
「……ううん。なんでもない」
2人がガイアスの目の前に着いた頃にはガイアスは次のターゲットを2人に決める。
「泉美。西が言ってたのを試してみるか」
「はい……!」
泉美の身体が光に包まれ細長い形に変わっていく。それを隙だと思ったガイアスが一本の鎌を振るい優翔達に攻撃した。泉美がトランスした日本刀を優翔は手に取る。
ガイアスの鎌をギリギリの距離で日本刀で受け止めた優翔の体は、淡い光のオーラを纏っていた。
――――世界を守る勇者になれなくても――――
「大切な人を守れる勇者にはなれる!」
日本刀を手にリンクをした優翔はガイアスに立ち向かう。