第7話 拳で語らず武器で語る
初めて書き始めた小説なので、文章としておかしな部分が多々あるかと思いますが、ご了承ください。
優翔が訓練を始めてから1週間が経ち、この日も泉美に教えてもらいながら勉強と訓練をしている。
「はぁ〜……ねぇ泉美ちゃん」
「はい、何ですか優翔様?」
「……なんで俺、ここまで来て普通に高校の勉強をしているの?」
教学室で勉強をしているはずの優翔は疲れた様な顔をして机にうなだれながら、モニターを使い勉強を教えている泉美に尋ねる。
「決まっています。優翔様は現役高校生なのですから、勉強をおろそかにしてはいけません」
「それはそうだけど……。泉美ちゃんだって俺と同い年なんだから教える方じゃなくて、教わる方なんじゃないのか?」
「私は既に、大学生範囲も把握しているので問題ありません」
少しドヤ顔で言う泉美に優翔はため息をつきながら勉強を続ける。
泉美はとてもわかりやすく優翔に勉強を教え、優翔も高校に通っていた頃より少しずつ成績が上がっていた。
「泉美ちゃんの教え方、すごく良いんだけど……。幼馴染に教えられてるってどうなんだろう……」
「何か仰いましたか? では、今日はこの辺りで終了しましょう」
「はい……」
若干披露した顔をしている優翔は勉強を終えて2人で教学室を出ると、次に訓練室に向かう。
優翔は初日から1週間、屋敷に来ては教学室で勉強、訓練室で特訓を毎日繰り返している。しかし、優翔達は未だにリンクが発動する武器を発見出来ないでいた。
この日訓練室で特訓をしている優翔が手にしている武器はくない。
それを構えながら、優翔はトリックキューブの攻撃が来るのを待っている。
「ハァッ、ハァッ……」
壁の1ブロックが勢いよく飛び出し優翔に向かっていく。
優翔はトリックキューブの動きを確認しながら右に飛び避け、伸びたトリックキューブの側面にくないで突いた。
するとトリックキューブは動きを止め、壁に戻っていく。
『お見事です優翔様』
「ハァ、ハァ……近距離武器も少しは使えるようになってきたな。今回こそはリンク成功したのか?」
優翔は呼吸を整えながら、手元のくないを見ている。
身体に変化があるか感じようと集中していると、その隙にトリックキューブは今度は2ブロックを出した。
『っ!? 優翔様、前方!』
「えっ? 前……ッ!」
前から迫って来るトリックキューブに気付かずによそ見をしていた優翔は受け身も出来ずに直撃を受ける。
直後優翔の体は衝撃で後ろに飛ばされる。
「グッ!」
『次、右から来ます!!』
畳み掛けるようにトリックキューブは2つ目のブロックを優翔の右側を狙い打ってきた。
「なんとか避けないとっ!」
必死に避けようと体を動かす優翔だが、衝撃で飛ばされ空中にいる優翔に避けるすべはなく、移動することも出来るわけも無く、優翔はただ両腕を交差させてガードする事しか出来ないでいる。
ガードすると同時にブロックが当たり、今度は左側へと飛ばされると直ぐに床に打ち倒されて転がりそのまま倒れる。
『優翔様、お怪我はございませんか!』
くないから人の姿に戻ると、泉美は倒れる優翔を抱き起す。
優翔はゆっくりと顔を上げるが、その顔は苦痛を感じる表情を浮かべている。
「うっ……うん、大丈夫。問題ない」
しかしスーツのおかげで怪我はなく、少しふらつきながらも立ち上がる。その様子を見た泉美は安堵をしながら自分も立ち上がった。
「どうやらくないも違ったようですね。しかしあの一撃は見事でしたよ。最後のとっさのガードも良い判断でした」
1週間訓練を続けた結果、優翔は初日の頃よりも身体能力が上がった。なにより戦闘時の判断能力が身に付き始めていたのである。
「ありがとう。でもこのままリンクが出来ないと、かっこいい勇者には程遠いな」
屋敷に来た初日に神河に言われた《勇者》という言葉に心惹かれた優翔は《かっこいい勇者》を目標に日々訓練をしている。
「気長な心構えが大切ですよ。そろそろ休息をとりましょう」
「そうだな、もうくたくただよ」
優翔は部屋の壁際に設置されている椅子に腰掛け一息ついて休まる。
「優翔様、お飲み物です」
「うん、ありがとう泉美ちゃん」
椅子の隣に並べて置かれている3台の自動販売機で泉美は飲み物を2つ買い、1つを優翔に渡すとそのまま隣に座った。
「いたたっ……。あのブロックめ、もう少し手加減できないかな」
「フフッ。優翔様はもう訓練には慣れましたか?」
「うん。初めは突っ込む方向しか見てなかったけど、今は周りを確認して敵の動きを少しは観れるようになってきた」
戦闘訓練を続ける中、幾度となくトリックキューブに打ちのめされてきた優翔。少しずつ戦いの動きを蓄積してきたことにより、今は並のスポーツ選手よりも動く事ができるようになっていたのである。
すると、泉美は飲み物から口を離し真剣な顔で語る。
「……しかし、練習は練習でしかありませんからね。実際にガイアスと戦うときに必要なことは1つだけだと私は思っています」
「それは何?」
真剣な顔とは一転し、いつもと同じような優しい笑顔を浮かべると優翔の方へ振り向く。
「それはまだ、ひ・み・つです」
昔の子供の頃のような無邪気な笑顔でそう言うと、優翔は笑顔で「なんだよ、ケチ!」と嬉しそうに返事をした。
1時間ほど休憩をした後再び訓練を再開する優翔たち。
するとエレベーターのドアから2つの人影が現れると2人に近づいていく。
「やぁ、今日もめげずに訓練しているなんて熱心だね」
「私たちも混ぜてもらってもよろしいでしょうか?」
優翔は近づいくる影を確認する。その正体は西と篠明であった。
「おう、やるか!」
西たちが誘うと優翔は承諾し組手を始め出す。
優翔は小太刀を持ち西との間合いを確認する。
対して、反対側に立つ西は1メートル弱の大太刀を両手で持ち若干フラフラとさせながら構え立っている。
最初に動いた西は大太刀を肩に担いでまっすぐ優翔に向かい走り出す。大太刀の範囲内に入ると西は大太刀を頭上より高くに振り上げた。
それに反応した優翔も西に向け駆け出す。正確には優翔から見て西の左側に向けて走る。
後ろや左右に避けるよりも相手の懐に入ることを選んだ優翔は小太刀を突きの構えで行き、西まであと数センチの距離まで迫った。
『西様!』
「――っのやろ!!」
しかし西は上まで上げていた手を大太刀を持ったまま胸の高さまで下げる。
大太刀の長い柄がすぐそこまで迫っていた小太刀を持つ優翔の手を突き、その衝撃でバランスを崩し倒れかける優翔にめがけ追い討ちをかけるように手首を捻り大太刀を振るう。
『優翔様、来ます!』
「わかっ……てるって!」
倒れると同時に両手を床につけて勢いを乗せて前転をし、大太刀の攻撃を逃れた。
少し遅れて大太刀が床に打つかるが、重い音と発しながら床は大太刀を弾く。
お互いにまた距離を取ると息を整え始める。
「前よりいい動きするようになったね」
息を上げながら笑顔で優翔の成長を褒める西。
「そっちこそすごい力だな。大太刀が迫ってくるとこっちはビックリするよ……」
苦笑いで素直な感想を言う優翔。その後2人の攻防は接近しては初手をかわし、反撃をしては距離を開けるを小1時間繰り返した。
「あぁ〜!! 今日は負けた!」
床に座りこみ愚痴をこぼす優翔。
最後の攻防で右上から振り下ろした大太刀を優翔が避けて近づいてきたところに、床にわざと打つけて反動で帰ってきた大太刀の峰打ちを優翔の脇腹に与えた西の作戦勝ちで終わった。
「ふふんっ。前回のリベンジ勝ちだよ!」
鼻高々にそう言うと優翔の隣に西も座る。
座り込む2人に泉美と篠明は飲み物の差し入れを持ってくる。
「お二人とも日に日に強くなられています。篠明もトランス出来る種類が増えたようですね。後輩の篠明の成長は私も嬉しいですよ」
「そんな!? 泉美様に褒めてもらえるなんて恐縮です!」
差し入れの飲み物を飲みながらメイド2人の微笑ましい光景を見て優翔と西は休憩をしていた。
優翔は訓練を始めてから西とよく組手練習をしており、初日早々に周りから浮いてしまった優翔にとって西は屋敷に来て初めて出来た友人であった。
「優翔は専用武器はまだ見つけてないんだよね?」
空になった飲み物の容器を捨てに行った西が戻ってくると質問をする。その質問に優翔は困ったような顔をして頷く。
「もう大分試してるんだけど、なかなか見つからないんだよな」
「うーん……。あ、もう刀は試したのか? 小太刀や大太刀とかじゃなくて普通の刀」
優翔は一瞬固まるとあっけらかんとした表情を浮かべる。
「……あー! それは試してなかったな泉美ちゃん」
「はい、私としたことが盲点でした」
2人が早速試そうとした時――屋敷内及び訓練室にアナウンスが鳴った。
『花見屋デパート付近でガイアス出現!! メタモルフォーゼ出動準備!!』
ガイアスが現れた報告が流れ、周りにいたメタモルフォーゼの部隊が早急に地上に上がり出す。
「優翔様、デパートとなれば民間人が多数います。私達も避難誘導に向かいましょう!」
「あぁ、そうだな!」
優翔たち4人も現地に向かうべくエレベーターに乗り込む。すると泉美はポケットからある物を取り出し優翔の前へ差し出した。
「これは?」
「小型インカムです」
泉美が取り出したのは軽量小型インカム。
ボールペンのような長さの長方形の形に端の面にスピーカーと耳に固定するための輪っかが付いており、反対側の端には網目状の四角いマイクの付いたシンプルなデザインとなっている。
「今回から実装されたものです。携帯などで連絡するよりも手間が省けます」
周りを見渡すと他の人もそのインカムをつけており、優翔もそれを受け取ると右耳に着けた。
1階に着くと正面玄関のドアを通る。
広場には既に10台程の車が並べられており、1台は篠明の運転で西は乗り込み、他数台にも次々と攻撃部隊の人達が乗り込んでいく。
そして残った1台に優翔が乗り込むと泉美の運転する車は現地に向けて走り出した。