第5話 初めての夜
初めて書き始めた小説なので、文章としておかしな部分が多々あるかと思いますが、ご了承ください。
支部長室を出た優翔達は寮へ向かっていた。
時刻は夕方近くになり辺りは暗くなり始める。時間が時間だけに屋敷の中で誰とも会う事はなく、廊下には優翔と泉美の2人だけがいた。
「神河さん、真面目そうな人なんだね」
「はい。ですがああ見えて、実は子供みたいな事をする時がたまにあるのですよ」
「へぇ。支部長って言うから真面目で堅い人なのかと思ったけど以外だね、でも少し見て見たいかも」
神河について話しながらエントランスまで向かい屋敷の外へと出ると、入り口の前には黒い車が停められている。
「これは?」
「先程、神河さんがご用意して下さったのでしょう」
そう言うと泉美は車の前まで優翔を連れて来ると助手席のドアを開けた。
「寮まではこの車で移動しますので、お乗りください」
「えっ、ここから歩いて行くわけじゃないのか? 車で行かないいけない程の距離なの?」
「ここから、車で約10分といった距離のところにあります」
「それは中々……」と答え助手席の席に座り、優翔はシートベルトを締めながら運転席の方を見るとまだ誰も座ってはいない。
泉美が運転席側のドアを開けたので優翔は誰が運転するのかと尋ねる。
「私が運転しますが」
泉美は運転席に座りシートベルトを締めると車のエンジンをかけた。
「……えっ!? 泉美ちゃん運転できるの?」
「そんなに驚く事ですか?」
「だって確か同い年だから、17歳でしょ! 免許は持ってるの?」
「メタモルフォーゼの関係者なら、年齢制限は関係なく免許証を貰えるんです。現在なら、大体の者は大型や二種免許も持っていますね」
そう言うと泉美はギアをドライブに入れ発進する。
寮は本部である屋敷の裏側にあり、泉美の運転する車は道なりに進んでいく。慣れた車の操作はプロ顔負けの運転で、最初こそ優翔も警戒していたが数分もしない内に完全にリラックスした体制をとっていた。
「いつも自分の運転で屋敷に行ってるの?」
「いえ、屋敷までは送迎バスがあるので普段はそれで。人によっては車で行く者もいますし、歩いて行く人もいます」
「そうなんだ、便利だね」
「ご興味があるなら、優翔様も練習して免許証を取られますか?」
「えっ……うーん、考えとく」
2人が話している間に辺りは完全に暗くなり、街灯の光と車のヘッドライトしか見えずにいる。
その後、暗い道を車で走り続けると目的地の寮が見えてきた。
「優翔様、そろそろ着きますよ」
住宅施設である寮に到着すると、泉美は入り口付近に車を停めて2人は車から降りる。
「車はここに停めてても良いの?」
「あとで寮の管理人さんが片付けてくれますから大丈夫です」
泉美が入り口手前にある段差に注意するよう優翔に促し、寮のドアを開ける。
「屋敷程では無いけどここのエントランスも広いんだな」
「では、お部屋に案内する前に食堂で夕食にいたしましょう」
「そうだね、もうお腹ぺこぺこだよ」
泉美に連れられ2人は食堂へと向かうと、広い食堂ではすでにたくさんの人が食事をしており、2人も注文するために窓口に行く。
「あら、泉美ちゃんじゃないか。おや? 隣の男の子はもしかして……」
「はい。今日から私のパートナーになっていただく、優翔様です」
馴染みの食堂のおばちゃんに、泉美ちゃんは満面の笑顔で答える。
「あらあら、ずいぶん嬉しそうにして……。よっしゃ! 今日は特別ご馳走してあげるよ!」
おばちゃんはすぐに支度をすると数分もしない内に豪華な料理が出来上がり、泉美はお礼を言うと料理を机に並べていく。優翔も運ぶのを手伝おうとしたがおばちゃんに手招きで呼ばれ近寄って行く、
「何ですか?」
「あの子のあんな嬉しそうな顔、おばちゃん初めて見るよ。あんた、あの子をしっかり守ってをあげよ!」
泉美に聞こえないよう小さな声で言われた優翔は「……もちろん!」と答え泉美が待つテーブルに向かう。
2人のテーブルにはローストビーフやステーキ、魚のムニエルやサラダなど豪華な食べ物が並べられており、2人は席に着くと食べ始めた。
「うわっ! こんな柔らかくて旨いお肉始めて食べた。これも美味しい! いつもこんな美味しいご飯を食べてるの?」
「そうですね。自分で作って食べる事もあるのですが、ここの料理が美味しいのでたまに……でも、今日は特別さらに美味しく感じます」
「……?」
「優翔様とご一緒に食べてるからですかね」
「そっ、そうかな……!」
泉美の言葉に優翔は心臓の鼓動が高鳴り慌てて食事を続ける。2人が満喫していると、周りからザワザワと話し声がしているのを優翔は気づく。
「あれが泉美さんが選んだパートナーか? 普通のガキっぽいけど……」
「なんであんな奴がここにいるんだ?」
「どうせ泉美さんの美しさに釣られたんだよ……。訓練が嫌になってすぐに逃げ出すさ」
あまり良い話ではないと思った優翔は気にしないようにしていた。
「ヘリの時と同じ感じだな、一体何なんだろう……。あまり聞かないで――んっ!? い、泉美ちゃん?」
だが優翔は隣にいる泉美の方を向くと、分かりやすいくらいに怒りを露わにしている。
「……何か?」
睨みつけるような視線で話し声のする方に泉美が声をかけると、周りが一気に静かになる。
「ありがとう泉美ちゃん。でも、あまり気にしないで良いよ」
「優翔様がそう仰るなら……」
渋々納得すると泉美は食事を再開する。
すると遠くからメイドを連れた少年が徐々に近づき、優翔達の目の前に来ると「……相席いいかな?」と訪ねてきた。
「もちろん、良いですよ」
「ありがとう、僕の名前は西。彼女は篠明って言うんだ」
まだ幼さが名残ある顔立ちをした少年、西は笑顔で自己紹介をする。
その横で緊張気味に会釈をする西のメイド篠明、2人は優翔達の正面の席に座る。
「君が噂の泉美さんのパートナーだね、わからない事があったら聞いてよ。……と言っても、僕も先月入ったばかりの新人なんだけど。よろしく頼むよ」
「こちらこそよろしく、優翔でいいよ。えっと、篠明さんもよろしく」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
「篠明、初対面の人に緊張する癖、直しなさいといつも注意しているでしょ」
「も、申し訳ございません泉美様。失礼しました、優翔様」
あたふたとしている篠明と先輩として注意をする泉美のやりとりにより、先程までの張り詰めていた空気が一転し、明るく和やかな雰囲気に変わった。
4人はその後、雑談をして食事を終えると西と篠明は自分たちの部屋に行き、優翔も泉美に連れられ部屋へと向かう。
2人が部屋の前に着くと泉美がドアを開き、2人は電気の付いていない暗い部屋へ入る。
「ここに泊まるのか、電気はつく?」
「はい、今つけます。それと、言い忘れてましたが……」
泉美は言い切る前に部屋の電気をつけた。
「あれ、誰かの部屋? 部屋を間違えたのかな?」
優翔の目の前には整理整頓されてはいるが、明らかに誰かが住んでいるであろう部屋である。
「いえ、優翔様の部屋なのですが、すぐには色々と準備が足りなかったので……今日は私の部屋でお休み頂くことになりました」
「……っ!」
急遽、泉美の部屋に泊まる事が分かった優翔は即座に何かと葛藤しているようである。
「俺のメイドになったとはいえ、女の子が住んでいる部屋に泊まっていいのだろうか……! それも幼馴染の子の部屋に……」
泉美には聞こえない声の大きさで、必死の葛藤をしている優翔。
「どうかしましたか? お風呂の準備が出来ましたので、先にお入りください」
「……わ、わかった」
いつのまにか風呂の支度をしていた泉美に従い、そのまま考えるのをやめてその場の流れに乗るように風呂場に向かった優翔は、中に入り体を洗い終えると湯船に浸かる。
「今日1日で色々起きたけど、もしかしたらこのお泊まりが一番ビックリかも……」
その後、優翔が風呂場から出ると布団の用意をしていた泉美。
当然いつも泉美が寝ている布団で寝れるか優翔はまたも悩んだが、もう深く考えぬようにした優翔はそのまま布団に入った。
「では優翔様、おやすみなさいませ」
「うん……なぁ、泉美ちゃん」
「はい、なんですか?」
側を離れようとした泉美を優翔は布団に入ったまま呼び止める。
「その、なんていうか……これから、よろしくお願いするよ」
これから共に戦うパートナーとして言った優翔に、泉美はこれまでにないくらいの笑顔を浮かべる。
「……はい! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
泉美が居なくなると疲れからか優翔はすぐに眠りについた。
そして泉美も風呂場に向かい汗を流しに行き、シャワーを浴びながら泉美は嬉しそうな表情を浮かべている。
「…………」
風呂場から出ると泉美は普段の寝巻きであるワンピースに着替え、静かに眠る優翔の元へ行き近くにある小さな椅子に座った。
「……ゆうちゃん、私のこと覚えていてくれて、本当に嬉しかったよ」
泉美は、眠る優翔の手を取ると小さな声で話し出す。
「ゆうちゃんは絶対、私が守るから……ずっと側にいてね。大好きだよ」
泉美は眠る優翔の方に身を乗り出し、額にキスをする。
すると優翔はどこか嬉しそうな寝顔を浮かべた。それを見た泉美も微笑んでその場を離れると、そのままソファーで作った簡易ベッドで眠りにつく。
「おやすみ、ゆうちゃん」
こうして優翔と泉美による長年の時を経て再会を果たした日が終わり、明日から優翔の新しい日々が始まる。