夢の中へ
その夜、眠っているとおかしな夢を見た。
夢の中で誰かが呼んでいるような気がする。目を開いて横を見てみると、知らないおっさんが座っていた。本当に全く知らないおっさんだ。年齢は4、50歳代ぐらい、少しだけ腹が出ている。
「……ずっと呼んどったのに、やっと気が付いたんかい。まぁ、そうは言うてもまだ夢の中なんやけどな」
おっさんが俺に話しかけてくる。
「まずは自己紹介させてもらうわ。ワシは兄ちゃんが持ってるカニカニモグモグの前の持ち主や」
カニカニモグモグの前の持ち主?カニカニモグモグの前の持ち主という事は、400年前にいたという伝説の勇者という事になるのか?なんでそんな人が、俺の夢の中に現れているんだ?
「なんか兄ちゃんって、あんまりカッコ良ぉないなぁ。ワシの次の勇者な訳やから、もっとシュッとしたの想像してたのに……。ワシが若い頃は、もっと決まってたでぇ」
なんか容姿を貶されている。俺だって、このコテコテの関西弁を喋る小太りのおっさんが、前の勇者だなんて到底信じられない。これは俺が観てる、ただの悪夢なんじゃないだろうか?
「そやそや!なんでワシが兄ちゃんの夢の中に現れたんかを、説明せんとあかんな。なんでかというと、兄ちゃんの『カニカニモグモグ』の使い方がおかしいからやねん」
カニカニモグモグの使い方がおかしい?確かに今までカニカニモグモグが戦闘で役に立った事はほぼない。切れ味がまぁまぁ鋭いだけの普通の剣だ。後、蟹味の出汁が取れたり、抜いたときに『か○○楽』のCMの音楽が流れたりしたりはするが。しかし、それは剣の使い方がおかしいだけで、ちゃんとした使い方をすればメチャクチャ役に立つ剣になると話している。それを教えに、わざわざ俺の夢の中に出て来たんだそうな。
「正確には使い方がおかしいというよりも、『カニカニモグモグ』の真の力を引き出せてないって事や。このままやと兄ちゃんがアホな死に方しそうで恥ずかしいから、こうして現れたんや」
カニカニモグモグにそんな力が……?まぁ、それぐらいじゃないと、やはり伝説の剣とは呼ばれないよな。
「ちなみに『カニカニモグモグ』を、王都の城の台座から抜くのには条件があってやな。兄ちゃんが『カニカニモグモグ』を抜けたのは、その条件がちゃんと揃ってたからや。それは、一に別の世界から来た者である事。二にその世界の『関西出身』である事。三に『甲殻類』が大好物である事や」
えっ?そんなもんなの?確かに俺はすべての条件に当てはまっている気がする。二の『関西出身者である事』ってのがよくわからないが、まぁ確かに日本の関西出身だ。そもそも俺は別に甲殻類はそこそこ好きってレベルであり、大好物とまでは言い切れない。どちらかといえばラーメンとかの方が好きだ。けっこう判断基準がガバガバな気がする。
ショックなのは、別に俺に隠された力のような物があるから、聖剣を抜く事ができたとかではなかった事だ。




