ショーグン!!
俺達はだだっ広い座敷に、並んで座らされていた。目の前に少しだけ高くなった段があるのは、皇宮のときと一緒だ。その段の端の左右には、屈強そうな二人の侍が控えている。そして、真ん中から少しだけ左に寄った辺りに、年老いた侍が正座して座っていた。
その内、左に控えていた侍が、
「上様の、おな〜り〜」
と、声を上げた。
すると、段の上手の方から将軍と思われる人が、小姓を伴って現れた。ゆっくりと正面を見ながら歩み出てきた後、段の丁度真ん中に置いてある分厚い座布団の上に腰を下ろす。一緒に伴って現れた小姓は、ちょっと長過ぎるんじゃないかと思うぐらいの刀を持って、将軍の斜め左後ろにちょこんと控える。
将軍が出てきてまず驚いたのが、流石に高過ぎるだろうと思われる頭の茶筅髷だ。歩いている時も髷は、天井スレスレになっていた。
将軍が着座した後、将軍の斜め前にいる年老いた侍が、
「上様、彼等が異国から渡ってきたという者達です」
と、俺達を将軍に紹介した。みんなは将軍に向かって軽く会釈する。
「貴殿等が我が国において、魔王を名乗る者を退治しに来たという話は、真実であろうか?」
家老がそう尋ねる。俺が代表して、「はい」と答える。
家老は少し考えた込んだ後、将軍の側に寄り何かを耳打ちした。すると将軍が、
「そちが異国の勇者であるか?」
と、俺に向かって直接尋ねてくる。俺は、「えぇ、まぁ、一応そうなっております……」と答えた。
「ブッサイクな面じゃのぉ……」
将軍は呟いたつもりの様だったが、声が大きいので丸聞こえだった。俺が言うのもなんだが、将軍もけっこう抜けた顔をしている気がする。
将軍は俺達を、左から右へと睥睨する。すると将軍の視線は、アーリエの所でピタリと止まった。アーリエをなにやらジッと見詰めている。アーリエは流石に将軍の面前という事もあり、いつも市中を出歩くとき被っている被衣は脱いでいた。
将軍は家老を近くに呼び、またなにかを耳打ちしている。元の場所に戻った家老が、
「そこな女性」
と、持っている扇子でアーリエを指しながら呼んだ。
「はい?」
俺がアーリエに、今呼ばれた事を伝える。
「上様がそちの事をお気に召されたようじゃ。そちを妾にしたいと仰られておる」
思わず俺は固まってしまった。家老の言葉をそのままアーリエに通訳する事ができず、時間が少し流れる。アーリエも流石に俺の通訳なしでは、言葉の意味が理解できていなかった。俺が通訳をしないので家老が、「ゴホン!」とわざとらしい咳をした。仕方がないので、そのままの内容をアーリエに伝えた。
通訳が終わった瞬間、アーリエの表情が目に見えて強張るのがわかった。
「……私がこれから言う事を、先方にお伝えください」
アーリエがそう言う。
「お申し出の条、大変有難き事ですが、私には心に決めた方がすでにおりますので、将軍様の妾になる事はできません」
キッパリと話を断った。将軍と家老が呆気に取られたという顔をしている。まさか、断られるとは思っていなかったようだ。
「う、上様のお妾ともあれば、ゆくゆくは次代の将軍様の御母上になられる事も有り得るのですぞ!」
家老が色々な好条件を出してアーリエを説得しようとしているが、彼女はそれに耳を傾けようとはしなかった。




