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火事と喧嘩はオエドの花③

 俺が燃えさかる店の前でへたり込んでいると、道の向こう側からなにやらまたまた騒がしい何かの音が聞こえてきた。大勢の人が駆けてくるような音と、「ガラガラガラガラ」と何かを曳いてくるような音だ。

 俺達の元に現れたのは、黒い法被(はっぴ)を纏った男達だ。法被の背の部分には、白く染め抜かれた何かの記号のような物が描かれている。その男達は車輪が付いたデカい大砲のような物を持ってきていた。

 その大砲のような物を、燃え盛っている店の前に添え付ける。大砲の後部には大きな大きな鉄製が乗っており、更にその後ろには長いレバーが付いている。それを男達の中の一人が、必死に何度も上げ下げをしている。そして、別の男が大砲の横に付いているボタンを、掛け声を上げながら押した。竜の頭のような飾りが付いた大砲の先っぽからは、物凄い勢いの水が飛び出していた。

 飛び出した水は、燃え盛っている店の正面にブチ当たった。水の勢いが強すぎるのか、建物がどんどんと破壊されていく。火を消すのではなく、建物自体が浸食されるように無くなっていった。消化活動というよりも破壊活動が済んだ頃には、回りの建物も被害に合い、二三軒がフッ飛んでいた。

 後から来た老人がそれを観て、なにやらブツブツと呟いている。

 消火活動を見届けた俺は、疲れと怪我で気を失ってしまった。


 目を覚ますと、どこかの知らない部屋で寝かされている。俺を看ていてくれたのか、アーリエが横に座っていた。目覚めた事に気付くと、すぐにここはあの法被を着ていた人達の親分の家らしいと教えてくれた。俺の身体には包帯が巻かれてあったが、アーリエが治癒魔法をかけてくれたらしいので、火傷はほとんど治っているようだ。だが、身体は熱を持ったのかなんだか火照(ほて)っている。

 俺が気が付いた事を知らせると、親分が俺が寝ている部屋までやって来た。部屋には親分と俺の知らない若い男性。俺が助けた赤児の母親、。後、獣子と現場いた変わった老人も入ってきた。みんなで俺が寝ていた布団の隣に並んで座っている。

「この度は、私共の赤児の命を助けていただきお礼の申しようもございません。本来なら何か形のあるお礼でも致す所なのですが、今回の火事で、我々も住む所に困ってしまう有様でして……」

 あの店の主人であろう若い男性が、隣の赤児の母親と一緒に頭を下げた。

 俺も辿々しい言葉で、「お礼の品など滅相もない」と答えている。

「いやぁ!他人の赤児の為に、あんな火の中に飛び込むなんざ、なかなかできるこっちゃねぇぜ!アンタは偉い!オイラぁ尊敬するぜぇ!」

 火消しの親分が、べらんめえ口調で褒めてくれる。親分の名前は『大門』さんというらしい。常にへの字口で難しそうな顔をしている。頭にバナナのような髷を結ってあるのが特徴的だった。

 大門さんの隣に座っている老人が、例の建物をブッ壊す程の水流を出していた装置の開発者らしい。名前を平賀(ひらが)源安(げんあん)さんといい、いろんな物を制作するのが得意の発明家だそうだ。髪型がソフトモヒカンで、顔にはサングラスをかけたファンキーな格好をしている。

「あのウォタァを吐くカァの名前は、『はいぱ〜・どらごん・はいどろ・ぷれっしゃ〜号』と言うんじゃよ。あんなに強くウォタァを吐くのは計算外じゃった。まだまだ改良のスペェスがあるわい」

 源安さんは、カタカナ交じりの変な言葉で話していた。

 しばらくなんでもない四方山話をしていると、源安さんがアーリエの被衣(かつぎ)の中を、妙に気にしている事に気が付いた。まぁ、間近でよくよく見れば、アーリエがこちらの女性と変わっているのはわかるだろう。

「そのぉ……、レディに対して失礼じゃと思うんじゃが、よければその被り物を脱いで顔を見せてもらえんかのぉ?」

 そんなお願いをしてきた。

 俺がアーリエに通訳をすると、彼女は被衣を脱ぐ。別に法を犯している訳ではないので大丈夫だろう。みんなはやはり驚いている。俺達はこちらの国に、魔王を退治する為に呼ばれてきた事を掻い摘まんで話す。俺達がこの町にやって来ている事を、やはりオエドの人達は全然知らないらしかった。

 源安さんがアーリエの顔を、ジロジロと眺めている。アーリエも少しタジタジしていた。源安さんが、自分も若い頃に異国の地に渡り、いろんな物を見たり、勉強したかったと語った。スメラギ神国では大渦のせいと、将軍家か海外渡航制限の政策を行っているらしく、こちらから簡単に異国へ渡るのは難しくなっているらしい。

 ついでに源安さん達にも、獣子の耳を見てもらった。アーリエの話では、獣子は俺が寝ていた間、あの助けた赤児をその側でじっと眺めていたので、囓ったりしないか心配だったらしあた。その後、すぐに飽きてこの家の庭で遊んでいたらしいが。

 獣子のように獣の耳を生やしている人間を見るのは、源安さん達も初めてのようだ。しかし、源安さんが「その昔神国では獣を祖先に持つ部族が複数おり、その中でも熊を先祖に持つ『皇家』が、その他の部族連中をまとめ上げ、この国で初めての王朝を立てたという、古い伝説がある」という事を教えてくれた。

 だから、神国では熊は神聖な動物だとされているという。先祖返りなのだろうか、たまに身体の一部が獣の様な人間が生まれてくるもあるらしい事も教えてくれた。


 大門さんには一応、うちに泊まっていけと言われたが、宿の仲間が心配していそうなので帰る事にした。

 俺の前の服はボロボロになっているので、大門さんの奥さんが新しい服を出してくれた。

 玄関では別れ際に大門さんと源安さんが、

「俺っちらにもできるこたぁあれば、なんでも言ってくれぃ!協力すっからぁよ!」

と、言ってくれていた。

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