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皇ノ命

 前方の少し高くなった段の上手から、二人の少女を従えた女性が現れた。しずしずと歩き段の中程まで進んだ後、真ん中に置いてあった分厚い座布団の上に座った。

「勇者様。この方がスメラギ神国の国主たる(すめらぎ)()(みこと)陛下であらせられます」

 右脇のニニギが、そう紹介した。

 ……確かに美人なように見えるが、厚化粧をしているので素顔がどうなっているのかわかり辛い。年も見た感じ、けっこういってる様な気がする。悪くはないが、わざわざ狙って落とさないといけないかまでは、微妙な感じがした。

 皇ノ命の格好は、上が白で下が赤の日本の神社でよく見る巫女装束みたいだ。それは皇ノ命の両脇に座った少女達も一緒だった。だが、皇ノ命の服装は少女達よりも少し豪華で、衣装に付いている房の数が多かったり、綺麗な色の珠を連れねた首飾りをしていたりと凝っている。頭には金色の細い弦を編んだような冠を乗せていた。

「陛下、こちらが()の国から渡られてこられた勇者様であります」

 今度は俺達の事を紹介した。

 皇ノ命は、こちらを一瞥(いちべつ)しただけで、特に何も言わなかった。

 俺はとりあえず胡座で座ったままペコリと頭を下げ、練習していた挨拶の為の口上を述べた。声も淀み噛みまくりだったので、ちゃんと伝わったのかは心許(こころもと)ない。

「……貴殿の彼の地においての活躍は、ニニギより聞き及んでおりまする。もしも、貴殿がこの国を荒らしおる慮外者(りょがいもの)を退けし(あかつき)には、ワレよりそれなりの褒美を授ける事をお約束しよう。(とく)と励んでくれるようお頼み申しあげる」

 それだけを言うと皇ノ命は少女達を従え、段の上手へと引き下がってしまった。

 正直の所、かなりの淡白な態度にがっかりしてしまった。海を渡ってまでこんな遠い地までやって来ているというのに、もう少し何かしらの丁寧な態度があっていいはずだ。

 そう俺が考えていると、ニニギが話しかけてきた。

「勇者様、こちらの方は皇ノ命陛下より近衛大将の任を賜っております、『ナムチ様』でございます」

 段の左脇に座っていた、あの老人を紹介していた。

「只今、紹介に預かりました。ナムチでございます」

 そう言ってナムチは、胡座のまま頭を下げた。俺も頭を下げる。

「誉れ高き勇者殿と出逢える機に巡りあえるとは(それがし)恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます。彼の国で成したという素晴らしいご活躍の数々を、今ここで詳しくお聞かせ願いたい所でありますが、危急の時でもあります故、それはまたの機会にとさせていただきます。という訳で早速なのですが、現在の我が国の状況について、説明をさせていただきたいと思っておりますが、よろしいでありましょうか?」

 ナムチさんは偉い人のように見えるのだが、腰は低くいように感じた。白髪の髭面で、老人にしては恰幅が良い。俺達が来た国の王都の将軍に似ている気がする。

 ナムチさんの今の言葉をニニギがアーリエとプロヴダに通訳した。二人とも「別に構わないです」と言っている。ワタナベさんも特には何も言わなかったので、そのまま説明を聞く事になった。

「それではご説明させていただきしょう。これっ!」

 ナムチさんが手を「パンッ」と鳴らした。すると、大きな巻物を抱えた男性が板間の方に入ってきた。それを丁度みんなの真ん中の床に広げる。どうやらそれは地図の様だった。

「こちらがこの地方の地図となっております。そして、ここが勇者殿達が最後に来航された港町。そしてこちらがこの都になります」

 ナムチさんが地図を指差しながら説明する。俺が知っている地図からすればかなり大雑把な物だが、主要な道や町はちゃんと丁寧に描き込まれている様だった。

「そして、この都から(かち)で二週間程、東へ行った所にあります地が、『オエド』という町であります。そこには我が皇家の配下であります将軍家が住み込み、オエドの地を采配しております。その北側にあるのがこの神国において一番背の高い山でありまして、そこを突如現れた魔王なる者が住処としておるのです」

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