東方よりの使者②
「スメラギ神国では今、大変な事が起きているらしいのですじゃ」
ニニギと名乗った使者が、その後を継いで話を始めた。
「我がスメラギ神国では長い間、戦もなく太平を謳歌せしこと久しかったのですが、一年程前から『魔王』を名乗る者が忽然と現れ、伏していた妖し共(こちらでいう魔物みたいなやつ)を煽動し、国中を荒らし回っておるのです。我が方でも皇ノ命の配下たる『将軍家』が軍勢を出し、妖し共に戦を仕掛けたのですが、魔王の手によりあっさりと敗北を喫してしまいました。そのせいで妖し共に対する手立てを失ってしまいましたので、なんとか貴国のお力をお貸し願えないと、今回私が使者として赴いた次第であります……」
どうやら、その『スメラギ神国』とやらにも、魔王を名乗る者が現れたという話だった。『忽然と現れた』という表現が少し気になったが、そんな事よりも『何故、俺がこの場に呼ばれたか?』の理由のついての方が重要だった。
「……その話を先程、ここにおられる国王陛下にさせていただきました所、陛下は勇者様の先のご活躍の数々をお話しくださりました。そんな方がおられるなら是非、我が国にもお越しいただき、そのお力を存分に奮ってはいただけはしないかと、お願い申し上げようと思ったのであります」
「どうじゃな、勇者殿?ここは一つ、スメラギ神国の方々のお力になって差し上げるというのは……」
つまり、俺がその『スメラギ神国』とやらに行って、魔王を名乗っている奴をなんとかしてこい、と言う話だった。
……普通に嫌過ぎる!つい、この間も厄介な面倒事を任せられたばかりだ(奴等は俺を追ってこちらの世界まで来ていたのだが)。今度こそ、王都でまったりと、アーリエとの関係を深めていきたい、と思っていた所だ。
ここはなんとか行かない方向で、話を進めなければならない。俺は「前に頭に負った怪我のせいで、たまに気分が悪くなる時がある……」と、あんまり調子が良くなさそうな事を言ってみた。
「それは大変ですな!すぐに医者にお診せねば!……そういえばスメラギ神国には、独自に発展した医術があると聞いております。この国の医者に診てもらってよくならなければ、魔王退治がてら、あちらの医術に頼られてみてはいかがですかな?」
う~ん、これはもう絶対行くの無理ってぐらいの、怪我か病気をするしかないような気がしてきた。一か八か、頭が凄く痛くなった振りでもしてみるか?
「お使者殿に伺った話では、『スメラギ神国』の皇ノ命様は女性で、かなりの美人だそうですじゃ。しかも、まだ未婚でいらっしゃるという……。そんな皇ノ命様に会えるチャンスがあるなんて、勇者殿が羨ましいですのぉ」
王様がかなり気になる発言をした。かなりの美人だと?しかも未婚?たぶん、俺がこちらの世界に来なければ、絶対に関わり合いにはなりそうにない人物なのだろうか……。俺の能力と、勇者という肩書きさえあれば、その皇ノ命とやらを惚れさせるのも、案外難しい事ではない様な気がする。それができれば俺は、スメラギ神国で美人とイチャイチャしながら、権勢まで振るえるかもしれないという事だ。アーリエには悪いが、一度皇ノ命とやらに会っておくのも悪くはないかもしれない。




