○ケットモンスター
狩りからの帰り道、俺はある厄介事に巻き込まれていた……。
王都への帰り道である森の中を通っていく最中、急に腹が痛くなってきた俺は、王様達と離れ、少し遠い場所まで一人で用を足しに行った。馬の手綱を引いてくれているお付きの人にも、恥ずかしいので一緒には来ないようにと頼んでいる。しかし、無事に用を足し終えたのはいいが、今度は王様達がどちらへ行ったのかがわからなくなった。流石に短い間、離れるだけだから大丈夫だろうと考えていたのが甘かったようだ。お付きの人は、俺が王様達と別れた場所から動かずに待っていると言ってくれていたが、その場所すらわからなくなっていた。
心細いまま一人で森の中を彷徨っている(もちろん、乗っていた馬もお付きの人と一緒だ)。そうしてしばらく進んでいる内に、どこからか気になる音が聞こえてきた。その音が聞こえる方へ行ってみると、森が少しだけ開けている空き地のような場所で、2人の男女が言い争いをしていた。
「なんだと、このアマッ!」
「もう、そんな遊びをやってる人なんていないのよ!」
女の方は年齢二十歳ぐらいで、ただの普通の町娘といった感じだが、男の方がかなり変わっている。眼鏡をかけた小太りの中年男性だが、赤いキャップを頭に被り、上半身には青色のジャケット、下半身には紺色の長ズボンを履いていた。どこかで見た事があるような格好だ。
2人ともペットなのか足元に動物を連れている。女の足元には中型犬がおり(犬種はわからない)、男の足元にはこれもどこかで見た事があるような、小さな黄色い動物がいた。
「やれっ!ビガジュウ!10万ボルトだ!」
しばらく隠れて観ていると、男が急に叫んでいた。
なんだかヤバそう雰囲気だ。とりあえず仲裁する体で、2人の前に出ていく事にした。俺が今話題の勇者だと明かせば、畏まって争いを止めるだろうという目論見もある。何かあったときの為にと、聖剣を携えてきておいて良かった。迷子になっていた事は、恥ずかしいので隠しておこう。
隠れていた木の陰から出て、2人の側まで行ってみる。2人は当然驚いていた。
「お前は誰だ!」
男が叫んだ。俺が「何を隠そう。今話題の勇者様だ」と言う事を自らバラすと、男は更に驚いた。女が素早く俺の後ろに隠れる。
事情を聞くと、男は20年以上も前に流行った、『バケットモンスター(通称バケモン)』という遊びの相手を探していたらしい。
『バケットモンスター』とは、手頃なモンスターを特殊な魔法で洗脳し、その洗脳したモンスター同士を闘わせて、どちらが強いのかを競うという遊びだ。
どこかで聞いたことがあるような内容の遊びだが、「いくらモンスターだからといって、洗脳して闘わせるのは可哀想」といった意見がチラホラと飛び出し、バケモンは徐々に廃れていってしまったという話だ。
だが、それでも男はただ一人で持ちバケモンを連れ、バケモノ修行の旅をしているらしい。
森の中で女がペットを連れて歩いているのを見かけたので、「是非バケモン勝負がしたい」と申し込んだのを断られていたという事だった。
女が俺の後ろで、「バケモンなんてもう古い」とか、「いい加減、現実を見てちゃんと働け」とか、色々言いまくっている。
「……バケモンマスターに俺はなる!」
男は顔を赤くしてプルプルと震えていたが、突然大声で叫んだ。後ろに、『どんっ!』という文字が浮かんだような気がする。




