訪問者
その日は、特に何事もなく終わろうとしていた。
アーリエから、なにか俺の事についての話があるかなと思っていたが、何もなかった。昼間は彼女の仕事を手伝おうと思い、何かする事はないかと尋ねてみたが、任せられた仕事ではつまらないミスを連発しまくるので、結局は彼女の側でボンヤリとする事を眺めているだけになっていた。
次の日も、家の中で作業をしているアーリエを、椅子に座って眺めていると、誰かが家を訪ねてきた。
丁度昼を軽く回った頃で、扉をノックしながら、「お~い」と呼ばわっている声が聞こえてきた。アリーエが扉を開き、尋ねてきた誰かと話をする。それから、その誰かを家の中へと招き入れた。
入ってきたのは、腰の曲がった背の低い老人だった。粗末な衣服を着て(白いシャツに茶色いズボン)、手には細い木の杖を突いている。頭は禿上がっており、長くはない白くてモジャモジャな髭も生やしていた。
老人は家の中の俺を見ても何も言わず、中央のテーブルの側の椅子に腰掛けた。アーリエは老人の対面に座る。
「……孫からこの人の話を聞き、村のみんなにも尋ねてまいりましたが、この人の事を知ってる者は誰もおりませんでした」
老人が話しだした。どうやら、俺の事を話しているらしい。いつの間にか、俺の事を村の皆に聞いて回っていたという話の様だった。
「紹介が遅れましたが、この方は近くにある村の村長さんです」
アーリエが対面に座っている老人を紹介してくれた。俺は手持ち無沙汰な感じでアーリエの側に立っている。
「やはり、西の街まで行って、有力者の方に預かってもらうしかないんしょうか……」
「そうですなぁ……。まぁ、それはそれとして、玄関でも少しお話した通り、今日は他にも相談事があって参りましたのじゃ。それはというのは、実は村の近くにある森の中の山の麓には洞窟がありまして、そこに『ゴブリン達』がいつの間にやら住み着いておりますのですじゃ。住み着いてから今日まで、大した悪さをする事もなかったので放置していたのですが、最近村の若者がそのゴブリン達に襲われるという事件が起きましたのですじゃ……」
……けっこうな大きな事件の様な気がする。ゴブリンか……。確かにマークシートの項目には、『モンスターあり』とチェックをしたので、ゴブリンがいるのは不思議でもなんでもないのだが、やはり妙な感じはする。
「そういう訳で、アナタのお力をお借りしようと、ワシがここに赴いた次第ですじゃ」
──アーリエの力を借りるとは、どういう意味なんだろう?俺には意味がわからない。ゴブリンに効く毒でも作ってもらうんだろうか。
アーリエはしばらく沈黙した後、
「わかりました。なんとか考えてみます」
と、答えていた。
アーリエと村長は、それからある程度の打ち合わせをした後、村長は、
「是非ともゴブリンの件、よろしくお願い致します。必要な物があれば、なんでも仰ってください。できるだけの事を致しますので。後、そちらの人を街の有力者の方にお尋ねするのなら、ワシが紹介状を書いておきましょう」と言い、ここまでにも乗ってきたんだと思われるロバに乗って帰っていった。
その後、アーリエはテーブルの側の椅子に座って考え事をしていた。俺は気になったので彼女に、「力を貸すというのはどういう意味なのか?」と尋ねてみた。
「そうですねぇ……。したくはありませんが、本当に人を襲う悪いゴブリンであれば、退治をするしかないでしょうね……」
ゴブリンを退治すると言っている。退治なんてどうやってするんだろうか?その事について、また尋ねてみた。
「ワタシの魔法でなんとかします」