面接地獄変
屋敷の応接室に戻ってきたが、暗い雰囲気が漂っていた。みんな頭を抱えて悩み込んでしまっている。
長い間そうしていると、誰かがまた屋敷を訪ねてきたようだった。ヘンリーさんが玄関でその人物と応対する。どうやら町の住人の男性が何か知らせたい事があると言って、こちらに来ていると告げにきた。
ヘンリーさんがその男性を応接室に通す。その男性は屈強そうな身体付きをした30歳代ぐらいの人物だ。自分が何故屋敷を訪ねたかについての理由を話し始める。
男性が近く森の中で木を切っているとモンスター遭遇した。そのモンスターを倒すと、そいつが何かを落としたらしい。紙切れのような物で片面には魔物の文字で何かが書いてある。自分は魔物の文字が読めないので内容はわからないが、もしかすると魔物達についてのなんらかの情報が書かれている可能性もあるのではないかと思い、それをこちらまで持ってきたという話だった。
丁度、居合わせていたイフジアーラが、魔物の文字を読む事ができるというので、その紙切れの内容を読んでもらう。
どうやら今魔王城では、体制が急に色々と変わったせいで人手不足になり(魔物だが)、新しい人材(魔物だが)を募集している所らしい。その募集を知らせる為にモンスター達に配られたチラシの様だった。
たいした情報でもなかったので、みんなでガッカリしていると、
「これじゃああああああああ!!」
と、イフジアーラがいきなり大声で叫び出し、座っていたソファーから勢いよく立ち上がった。
『とうとうイフジアーラの頭がおかしくなってしまった』と、みんなは不安になったが、イフジアーラはそんな空気はお構いなしに喋り始める。
俺達3人(俺とアーリエとプロヴダ)を魔物の雌に変装させ一般メイドとして応募し(確かにチラシの募集要項には城のメイドの事についても書かれてあったらしい)、そのまま上手いこと採用されれば、労せずして魔王城内に入る事ができると、唾を飛ばしながら力説した。
なん……だと……?なんで3人共メイドなんだ?俺は男なんだが?俺も雌の魔物の振りをしろという事か?と思い、聞いてみたらその通りだった。
周りのみんなも何故かイフジアーラの意見に異を唱えず、乗り気になっている。訳がわからないよ……。
数日後、チラシに書かれてあった面接があるという場所まで馬車で出向いた。面接がある場所の少し離れた所までは馬車で行き、そこからは歩いていく。俺達3人は全員質素な女性物の服を着ていた。そして、魔物の振りをする為、顔には多少のメイクを施している。俺は人生で初めて履くスカートに、なんかドキドキしている。
メイドの為の面接は四魔鬼が守る砦の一つで行う事になっているようで、魔王城がある山の麓の南側にある砦がそうだった。確か魔王城へ行く為にこの辺りを通った事があるのだが、その時その砦をチラッとだけ見かけたような気がする。ボロボロに朽ち果て、どうにか砦の形を保っているだけの状態だったはずなのだが、なんという事だろう。あんなにも見窄らしかった砦が、この短期間で頑丈そうな砦に生まれ変わっているではないか。どんな匠が工事したのか知らないが、良い仕事をしている。
砦の番をしている魔物にメイドの面接を受けに来た事を告げると、番号が書かれた札を渡され、砦内の広い部屋へと案内された。そこで他の魔物のメス達と一緒に、自分の面接の順番来るまでの間待たされる。
待っている間、他の魔物のメス達のお喋りを盗み聞きしていたのだが、魔王城で働くことは一種のステータスになっている様で、給金もけっこう貰えるみたいだ。
そこそこ長い間待たされ、俺達の番号がついに呼ばれた。係の魔物に案内され面接がある部屋の前まで行く。
面接は4人一組で受けるようになっているらしく、俺とアーリエとプロヴダは番号が並び順になっているので一緒に受けれる事になった。後は知らない魔物のメスが1匹いる。部屋の中には面接官と思わしき3匹の魔物が、長机の後ろにある椅子に座って待っていた。俺から見て左からゾンビ(たぶん男)、その隣からが少しややこしく、頭が山羊で身体が人間、背中に蝙蝠のような羽を生やし、ジャージを着ている魔物(俺の元居た世界にもあった運動する時とかに着る、あのジャージだ)、更にその隣が頭が天井にまで届きそうなぐらいにデカい、肌が岩のようにゴツゴツとした人型の魔物だった。
俺達は面接官が合図をしてから、自分に宛がわれた椅子に座った。俺達は面接官達と向かい合う形で椅子に座っており、その座り順は面接官達から見て右から知らないメスの魔物、プロヴダ、アーリエ、俺になっている
「それではこれから、面接の方を始めさせていただきたいと思います。一番右に座られている方から順番に話を伺わせていただきます……」
真ん中にいるジャージを着た魔物がそう言った。知らない魔物のメスが挨拶をして、面説官達からの質問に受け答えしている。俺が知っている面接とあんまり変わりはない。
「……はい、ありがとうございました。では、次の方に話を伺わせていただきます……。んっ?アナタ、なんか人間っぽく見えますけど?」
プロヴダがいきなりバレそうになっている。確かにこの子はかなりのナチュラルメイクだった(メイクは自分達で鏡を見ながらしていた)。しかし、プロヴダは狼狽える事なく、スタスタと横の壁の方まで歩いていった。そして、壁際で拳を構えると、勢いよくその壁を殴りつけた。石の壁は大きな音を立てて崩れ落ち、後には人が一人通れそうなぐらいの穴が空いていた。
「人間の女の子には、こんな事できないでしょう?」
面接官の魔物達も少し唖然としている。
「そ、そうですね……。そんなに腕力が強ければ色々な力仕事が任せられそうですね……」
次はアーリエの番だ。
「それでは次の方……。アナタの種族名とお名前を教えていただけますか?」
「『耳長デビル』のアーリエです」
俺は吹き出しそうになるのをなんとか堪えた。ちなみにアーリエは、女子プロレスラーのようなペイントメイクをしている。
「『耳長デビル』のアーリエさんですか。聞いたことがない種族名ですね……。それでは、なにか特技の様な物はありますか?」
「特技とは言えないかもしれませんが、生き物を拷問するのが得意です」
「えっ、拷問……?」
「はい。歯の神経をアレしてアレしたり。皮膚を削いで塩を塗り込んだり、炎天下の中籠に入れて放置したり、今は色々と拷問器具に凝ってまして、自作の拷問器具を作ってアレコレしたりと……」
どこで仕入れて来たのか、えぐい拷問話を語り始めた。面接官の魔物達も、ちょっと引いているように見える。
「へ、へえ……。それはとても魔物らしい特技ですね……」
そこそこに評価はされているみたいだ。
そう言えばさっきから、ジャージの魔物だけがずっと俺達との話を受け答えしている。隣のゾンビと岩みたいな奴は、アーとかウーとかぐらいしか言葉を発していない。2匹はいらないんじゃないだろうか?
次はとうとう俺の番だ。
「それでは次の方……」
「オークの……」
「採用!」




