新魔王☆デビュー
俺達は魔王城から解放され、戦士の国へと帰ってきた。
マーチ家の屋敷に帰り着くと、フレデリックさんに魔王城で起こった出来事をありのままに報告した。フレデリックさんはその報告を聞き、すぐに王都へと遣いを出してその事を伝え、戦士の国も魔王軍の来襲に備える為の準備をするべきだと判断していた。前魔王が亡くなった細かい経緯については、俺達の間だけの秘密にしておこうという話になった。
戦士の国で自国の防衛の為の準備が始まる。
男性達はどうしても必要だという職業の者以外は戦闘訓練を開始。城壁などの補修や武器の手入れなど行い、女性達は籠城したときの為の食料集めや保存食作り。戦闘で着る為の服を繕うなどといった事を行なっている。
驚いた事にこの国の人達は、新しい魔王が現れた事を聞くと驚愕する訳でもなく、お祭りでもあるかのように盛り上がっている。一度、若い男性達が集まりマーチ家に押しかけてきた事があった。『魔王軍の来襲を待つよりも、こちらから逆に魔王城に攻め掛けてみてはどうか?』という作戦の提案をする為だった。フレデリックさんは、「敵の勢力がどれだけあるかも解らないのに、こちらから攻め掛けるのはリスクが大き過ぎる」と言って、その案を却下していた。
『戦士の国』というだけあって、かなり好戦的な国民性だ。
俺はあれからランニングや筋トレ、剣の素振りなどをして日々を過ごしていた。
そんなある日、戦士の国の近くにある森の中に住んでいるという魔術師が、マーチ家の屋敷を訪ねてきた。アーリエが新たに魔法を覚える為に師事していた人だ。
マーチ家にある応接室のソファーに座り、フレデリックさんや俺達と面会した。名前は『イフジアーラ』というらしい。かなり目付きの悪い年配の男性だった。黒いローブを頭から纏い、いかにも魔術師といった格好をしている。フレデリックさんから俺の紹介をされたときは、睨むような目付きで俺の事を見てきた。変わった性格とは聞いていたが、やはりかなりの変人のような気がする。しかし、アーリエによれば、そんなに人間は悪くはないという。
イフジアーラが何故、自分がこの屋敷に来たのか理由を語り始めた。
イフジアーラは昔から勇者に纏わる伝説を調べており、その足跡を追って旅をした事もあったらしい(その調査結果をまとめた本も、一冊だけ出版した事があると言っていた)。伝説によればその昔魔王城は、周囲をバリアーで囲まれていたらしい。しかも、その時代城は空中に浮かんでおり、外敵の侵入はほぼ不可能になっていた。城へ入って魔王と戦う為には、魔王城がある山の麓の東西南北に位置している4つの砦に1匹ずつ配備された、『四魔鬼』という強力な魔物を倒さなければならない。すると、城の周りに張り巡らされたバリアーが解除されるという話だ。しかし、その『四魔鬼』を倒す為には『四魔鬼』の配下である、各地に配属された『悪魔四十八』という48匹の魔物を全て倒し、『四魔鬼』に挑む為の挑戦権(?)を得なければならない(ここは多少なら省いても構わないらしいが)。
400年前に現れた勇者は、それらを全て倒してバリアーを解除し、各地に散らばっていた『七つの秘玉』を集め、封印されし伝説の巨鳥『ラーミアン』を蘇らせ、空中に浮かぶ魔王城までその背に乗せてもらい、ようやく城へ到達した。ここまでの全ての工程をクリアするだけでも、伝説の勇者とその仲間達は、10年の歳月を掛かけたという。
大昔に倒されたという、『四魔鬼』や『悪魔四十八』の実体は実は『魔界』という所にあり、魔王がこちらの世界に仮の姿として呼び出していた物らしい。もし、新魔王が『四魔鬼』や『悪魔四十八』を新たに呼び出してしまえば、かつて魔王城を囲っていたバリアーも復活してしまう可能性がある。
更に城を空中に浮遊させる為の装置まで作動させれば、大昔のように相当にめんどくさい過程を経て、魔王城までの道程を切り開かなければならなくなる。
話が丁度終わる頃、執事のヘンリーさんが応接室に駆け込んできた。
「大変です、皆さん!外に出てみてください!」
俺達は言われた通りに、急いで外に出てみる。
「あちらを観てください!」
ヘンリーさんは魔王城がある方向を指差した。
北の山の魔王城がある付近からは、謎の光の柱が空まで立ち昇っていた。しかも、その光の中で何かが浮いているように観える。
「新魔王が『四魔鬼』と『悪魔四十八』を復活させてしまったようじゃ……。しかも魔王城がまた空中に浮遊しておる……」
イフジアーラが呟いた。
これで魔王城まで辿り着く為には、かなり厄介な道程を覚悟しなければならなくなった。先の事を考えただけで胃が痛くなりそうだ。




