勇者参上!③
この震えている老人は一体何者なんだろうか?魔王の部屋の中にいたという事は、この老人が『魔王』なのだろうか?
「すみません、あなたが魔王さんですか?」
アーリエが尋ねた。だが、返事はない。
「オイッ!」
プロヴダが怒鳴る。老人は一瞬ビクッとなり、小さく「はい……」と答えた。
……やはり、この老人が魔王かもしれない。傍目から見れば老人を脅しているかのようで感じが悪い。
「ホントにあんたが魔王なんだな!」
プロヴダが刑事のように老人を追い詰めている。老人はまた、小さく「はい……」と答えていた。かつては威厳があったのかもしれないが、今ではただのショボくれた老人にしか見えない。
魔王を見付けてしまったんだが、どうすればいいんだろうか?とりあえず、戦えってみればいいのだろうか?だがしかし、ただ震えているだけの老人に戦いを挑むのも、なんだか違う気がする。どうしようかと頭を悩ませ、その場に留まっていた。
そうしていると開け放していた扉の方から、「ガチャン!」という音が聞こえた。続いて「キャ〜ッ!」という女性の悲鳴が聞こえてくる。扉の方を見ると、メイド服を着た雌の魔物が、足元にトレーとティーカップとティーポットを落とし叫んでいた。
数匹の魔物がその悲鳴を聞き、部屋の前に駆けつけてきた。
「魔王様っ!」
叫んで部屋の中へ入ってくる。
プロヴダが素早く魔王を羽交い締めにして、予備で持っていたナイフを魔王の首筋に当てた。
「騒ぐなっ!」
そう言ったがあれこれと騒ぎながら、魔物達は俺達の前に壁を作った。その中から身分の高そうな格好をした老人の魔物が前に進み出てきた。
「魔王様を離せ!」
完全に俺達の方が悪役のようになってしまっている。どうしようかと、3人で顔を見合わせた。
「狼狽えるな!」
魔物達の壁が割れ、今度は偉そうな子供が進み出てきた。髪型は坊っちゃん刈りで、頭の左右には牛のような角を生やしている。格好もさっきの老人の魔物より立派だ。
「貴様たち!何が目的だ!」
「お前は誰だ!」
プロヴダが即座に聞き返す。
「私は魔王様の息子だ!」
魔王の息子?魔王の息子にしては年齢が若過ぎるようにも見える。人間で言うなら10歳程度の子供にしか見えない。だが、口調や態度は子供とは思えない程にしっかりとしている。
俺達3人は小声で話し合った。
「とりあえず外に出させろ!」
その時、魔王が俺の腰にぶら下がっている聖剣に気が付いたようだった。魔王は急にガクガクと震えだした。
「ヒエ~~ッ!ついに勇者が私を倒しにやってきた!!」
そう叫ぶと口から泡を吹き始めた。
魔物達がまたまた騒ぎ始める。プロヴダはナイフを魔王の首筋から離し、身体を抱きかかえるようにする。魔王はその状態で顔面蒼白になり泡を吹き続け、身体もピクピクと痙攣し始めた。そして、とうとうそのまま首が「ガクッ」となり、お亡くなりになってしまった……。
マズい……。一番、ヤバいタイミングで魔王が逝ってしまった。
俺が内心でかなりテンパっていると、突然魔王の息子が床に片膝を突き、唸り声を出し始める。魔王の死を嘆き悲しんでいるのかと思ったが、どうやら違うようだ。身体からは何故か眩い光が発している。身体が何故かどんどんと成長していき、坊っちゃん刈りだった髪もスルスルと伸びていく。なんかアニメの変身シーンみたいだ。
発していた光が目も眩まんばかりとなり、最後には雄叫びを上げた。光が急速に消え去った後には、青年にしか見えない立派な魔王の息子の姿がそこにはあった。格好は素っ裸だ。
さっき進み出て来た老人の魔物が、魔王の息子に話しかける。
「殿下……」
「……父上がお亡くなりなったので、魔王としての力が全て私に引き継がれたようだ……」
魔王の息子が答えた。
「ふ、フハハ……フハハハハハハヒッ、ゲホゲホッ……。これで余が、今日から新たなる魔王、『新魔王』だ!」
ちょっとムセながら宣言した。
どうやら新しい魔王が誕生してしまったらしい。俺達はとんでもない事をしでかしてしまったみたいだ。
「今まで我々を見下してくれた人間共に、恐怖と絶望を味合わせてやる!デス爺よ!すぐに世界征服の為の準備を始めるぞ!!」
「ハハァ!かしこまりました!」
ヤバい、世界の危機だ。だが世界の心配の前に自分達の心配をしなければならない。この状況をどうやって打開すればいいんだろう?
「『新魔王』様。此奴等はいかが致しましょうか?」
デス爺と呼ばれた魔物が、俺達の処分を新魔王に尋ねている。
「そうだな……。血祭りに上げるのはいと容易き事だが、それでは少々興に欠ける気がする……。そうだ!これから人間共に我々の侵攻を事前に伝えておいてやろう!その間に愛する者達との別れを済まさせておくのだ!」
そんな新魔王の方針で、俺達はそのメッセンジャーとして特に何もされる事なく、城から解放される事になった。




