勇者参上!②
構えた聖剣からは、突然音楽が鳴りだした。
『ファ~ファファファッ♪ファ~ファファファッ♪ファファファ~ファ~♪』と鳴っている。どこかで聞いた事があるフレーズだ。「あっ!これって『かに道楽』のCMの時に流れてた音楽だ!」と、気付いた。
ミノタウロスは急に鳴り出した音楽に驚き、立ち竦んでいた。だが、すぐに思い出したかのように俺に向かって、斧を振り下ろしてきた。俺はなんとか必死になってそれを避けた。聖剣からは音楽が鳴っただけで、特に何も起きない。
ヤベェ……。全然ワクワクしねぇ。やはり三ヶ月訓練した程度で、こんな化け物相手になんとかなる訳がなかった。
「私が隙を作るので、入り口から逃げてください!」
アーリエが凄く眩しい光を放つ魔法を唱えた。
ミノタウロスは光を真面に見て目を眩ませている。俺達はその隙に蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
視力が戻ったミノタウロスは俺達の姿をキョロキョロと探していたが、すぐに探すのを止めて奥へと去っていった。頭はあんまり良くないようだ。
……実は入り口から逃げ出すというのは、アーリエが咄嗟に付いた嘘で、俺達はホールにある柱の後ろに隠れていた。
プロヴダは自分の攻撃がミノタウロスにあまり効かなかった事を悔しがっている。俺はとりあえず助かった事に安堵していた。
柱の陰でこれからどうするのかを、3人で話し合ってみる。俺はもう、帰りたい気持ちでいっぱいだった。しかし、このまま何も得る物がなく帰れば、王都の王様や住民達からガッカリされてしまうだろう。期待されていた分、評価はゼロ以下のマイナスになってしまうかもしれない。
そんな訳で妥協案として、『進んでみて駄目そうなら引き返そう』と、話し合いで決まった。
しかし、聖剣から流れ出したあの音楽は一体なんだったんだ?何故、『かに道楽』のCMと同じフレーズが流れ出したんだろうか?まぁ、俺が考えた所で、わかりそうにもない事だが……。
城の中を探索する為にアーリエが新しく覚えたという、『存在感が限りなく薄くなる魔法』という物を掛けてくれた。これで少しは魔物達に気付かれにくくなるらしい。
みんなで見付からないように、コソコソと先を進んでいく。返って城の通路の薄暗さが役に立っている。この薄暗さのおかげで、壁の凹凸の影などに身を隠し、すれ違う魔物をやり過ごしたりしていた。
一番最初出会ったミノタウロスのような強そうな魔物とは、それから一度も遭遇しなかった。進んでいる通路が最初に抜けてきたホールよりも狭いという理由もあるが、すれ違う魔物はあまり強くはなさそうな奴等ばかりだ。奥にはそんなに強い魔物はいないのかもしれない。
探索していると階段を見付けたので、それで上の階へ行ってみる。まずはプロヴダが発見されないよう慎重に上がり、辺りに魔物の気配がないようであれば、こちらにハンドサインをして俺達も上へ行く。
途中にある部屋の中を、音を立てないように覗いてみたりしている。中には何故か宝箱が置いてあったりする部屋がある。期待して開けてみると、空だったりガラクタが入っていたりと禄な物がない。過去に取り尽くされたまま放置されているのかもしれない。
さらに奥まで進んでみると、また階段を見付けたので、さっき登ったのと同じ方法で上に行ってみた(考えたら一応は何者かが住んでいる建物のなのに、通路が入り組んでたり、階段の場所がわかりにくかったりと面倒臭い)。階段を登った先にはすぐに長い通路があり、その手前の左右の脇には部屋が1つずつあった。その片方の部屋の扉の前に、『魔王の部屋 勝手に入るな!』と書かれたプレートが飾ってあるみたいだ。もしかすると、ここが魔王の居室なのだろうか?
プロヴダがその部屋の扉を、いきなり勢いよく開けた。俺とアーリエはプロヴダの後ろで固まってしまっている。プロヴダの急な行動にイラッとしながらも、何も言えずにプロヴダの後から部屋の中へ入った。中には動く物の気配はない。
一応、部屋の中を当たってみる。部屋の中央、扉から向かいの壁よりには天蓋付きの大きなベッドが置かれてある。そのベッドの脇に黒いゴミ袋のような物があるのに、プロヴダが気付いた。
部屋にあった灯りを寄せて、それをよく見てみると、それは小さくプルプルと震えているお爺ちゃんだった。




