明日に向かって走る
教官の元に歩いていく。
「走れ!」
遠くから教官に叫ばれた。急いで教官の元まで走った。
それから、「俺の命令には全て『イエス』で答えろ」とか、「お前は父親のパンツにこびり付いた精子のカスだ」とかいう台詞を、顔面ゼロ距離で言われる。
ひとまず教官の話が終わると、運動場を走ってこいと言われた。とりあえず言われた通りに、運動場の周りをずっと走り続ける。疲れたので途中から歩いていると、それを教官に見付かりまた鬼の形相で死ぬ程罵られた。結局は日が暮れるまで、ずっと走らされ続けていた。
夜は食堂でみんなで食事を取る。この施設では当番を決め、自分達で料理を作る決まりになっている(戦闘などで野営をするとき、自分達で食事を用意しなければならないので、その為だ)。食料は戦士の国の住民が、定期的に運んできてくれる。
メニューに凝った料理がほとんど出てこないが、味はそこそこで量だけはやたらと多い。
トレーを持って順番に並び、係の人に料理の品を食器の中に装ってもらうシステムになっている。俺も足を引き摺りながら、トレーを持ってキチンと並んで待っていた。疲れ過ぎてほとんど食欲はないが、明日の事を考ると無理にでも取っておいた方がいい。時間をかけ、なんとかすべての料理を平げた。
この宿泊施設の良い所は、一階に『浴場』がある事だ。風呂はこちらの世界でも珍しい施設だが、暖い時期は使用されず、寒い時期にだけ使用できるようになっている(訓練生が自分達で沸かさないといけないが)。今の時期は使用できるみたいなので、みんなが浴場に押し寄せる。
風呂に入れる順番は決まっており、施設の年長組の方から先に入る。さして広くもない浴室に8人ぐらいが一度に入るので、ゆっくりとできるような状況ではない。
俺はすぐにでも眠りたかったが、汗をかいて気持ち悪ったので、お風呂に入っておく事にした。俺は訓練生達の中でも一番年上になるが、風呂の順番はもちろん最後の方だ。俺が入る頃には湯船の湯はかなり温くなり、お湯も汚れきっていた。
風呂に入った後は、すぐにベッドで横になった。
訓練生達の朝はだいぶ早い。5時頃には教官が、鍋をガンガン叩いて起こしにやって来る。俺達は急いでベッドから飛び起き、部屋の前に並んで、順番に自分達の番号を呼称していく。同室の者の内一人でも遅れると、連帯責任で同室の者全員が腕立て伏せを30回しなければならない。俺も教えられてはいたが間に合わず、同室のみんなに罰を受けさせてしまった。
顔を洗い歯磨きをした後(小さくて細い木の棒の先をフサフサにしたブラシ使い、塩水で磨いている)、朝食を食べに食堂へ行った。食堂では朝昼晩、ちゃんと食事が出る。朝食が終わると宿舎の掃除をして、それから訓練開始になる。
訓練内容は様々で、一年目の訓練生の場合、体力作りの為の走り込みや筋トレ、武器の扱い方を学ぶなどといった基礎的なレクチャー。二年目になると、実際に武器を使用しての打ち込みや、素手での組打ち、水泳、乗馬などといった多目的な訓練。三年目にもなるとサバイバル要素の濃い訓練を、山などで行ったりする。各学年毎の座学も一応ある。
それを3人の教官達が受け持っている。あのハゲた教官が俺達を受け持つ教官だ。
当たり前だが俺は、一年目の訓練生の組に入れられている。まわりの子は施設に入ってからすでに、半年間ぐらいが過ぎた子達だ。その中には俺を最初に部屋まで案内してくれた、あの眼鏡の子もいる(同じ部屋でもある)。
俺は今日も朝から走らされていた。最初はみんなと一緒に走っていたのだが(みんなに付いていけずにかなり離されていた)、他の少年達は運動場の周りを何周かすると走り終わり、他の訓練を始めていた。俺だけがそのまま1人で、ずっと走らされ続けている。昨日も走っていたので、足が筋肉痛でかなり痛い。教官の目を盗み、たまに歩いたりしていた。
午前中はずっと走り続け、午後は一人で筋トレをする。元引きこもりには厳しいメニューだが、隙を見てサボったりしながら、一人で黙々とこなしていた。




