オタクは二度死ぬ
目を覚ますと、側には例の『神』がいた。
『神』が呆れ顔で言う。
「あのさぁ……、なんでまたこちらに来てくれちゃってんの?お前はス○ラ○カーなの?」
どうやら、さっき引っくり返った時に頭を打ってしまい、それが原因でまた亡くなってしまっていたようだった。こうも不幸だと笑えてくる。
「流石に別の世界に行かせてから、すぐに死んじゃったのには責任感じるから、再度生き返らせてやろうとは思ってるけど、次はないからな?」
次はないらしい。死にたくて死んだ訳ではないので、キレられても困るのだが。
前と同じ工程を繰り返し、神はもう一度、俺をさっきの世界へと送り込んだ──
四度目の目覚め……。
なんかもう、別の場所で目を覚ます事にも慣れてきた。二回目に死んだ時に打った後頭部が少し痛い。上半身を起こす。下がカサカサしていたので確かめると、藁が敷いてあった。
ここはどこかの木造の建物の中で、俺はその隅っこに寝かされていたみたいだった。何故か下半身にだけ、藁が被せてあったので除けてみると、何も履いていない。そういえば、倒れる前にたっぷりあったはずの尿意が消えてしまっていた。俺は事の顛末を想像し、恥ずかしさで身悶える。そして、また息子がいきり立っていた。
藁で胯間を隠しながら、立ち上がって中を観察する。部屋の間取りは一間で、広さは10畳程。床は固められた土。二階もあるようで、部屋の真ん中の左の壁寄り(俺から観て)には、簡単な階段も備え付けられてある。真ん中には小さな木製のテーブルが置いてあり、側には椅子もあった。壁際や棚などには、生活用品やなんかが雑多に置かれてある(大半はなんの道具だかわからない)。観察してみた感想だが、なんとなくそんなに大勢の人間が住んでいるような感じはしない。
そんな風に中を観ていると、正面にある木製の扉が音を立てて開いた(俺が寝かされていたのは、正面の扉の対面の一番部屋の奥だ)。そこから入ってきたのは、さっき道の上で出会った美少女だった。
俺は慌てて、胯間を手で隠す。彼女は俺が起きている事に気が付き、少しだけ驚く。
「目を覚まされたんですね。お身体の具合はどうですか?」
優しく尋ねてくれる。何度も頭を縦に振り、大丈夫である事を示した。
「そうですか……。あっ、勝手だとは思いましたが、お召し物が汚れていたので、洗濯をさせていただきました」
彼女に粗相してしまっていた事を言われ、赤面した。
彼女はまた外に出て、濡れている俺のズボンとパンツを持ってきてくれた。後ろを向いて、それを履くのを待ってくれている。異世界に来て、いきなり自分の粗末な物を見られるなんて……(本当に見られたかどうかわからないが)。だが、何故かワクワクしている自分も中にはいる。
履き終わった事を告げると(ついでに寝ていた時横に置いてあった、自分のサンダルも穿いた)、彼女はテーブルの側にある椅子に座る事を勧めてくれた。その勧めに甘えると、木のコップに水を入れて持ってきてくれる。それをすぐに飲み干す。彼女が近くにもう一脚だけあった椅子を引き寄せ(上に物を置いてあったので、それを除けて)、テーブルを挟んで俺の対面に座った。
「どうして、あんな所で倒れていらっしゃったんですか?」
……どうしよう?なんて答えればいいんだろうか?本当の事を話した所で、信じてもらえるかどうかわからないし、なんか予想も付かない問題が発生する可能性もあるので、適当に「気分が悪くなったからです」と言って、誤魔化しておいた。
「そうですか……。変わった格好をしていらっしゃいますが、旅をしている途中とかなんですか?」
俺の格好はといえば、死ぬ前に家を出た時のまんまだ。緑色っぽいチェック柄のネルシャツに、アニメキャラが真ん中にプリントされた白地のTシャツ。下にはさっき履いたジーンズの長ズボン。足元にはゴム製の青いサンダル(眼鏡も顔に掛けている。財布も家を出た時には持っていたはずだが、『あの世』でも持っていたのかどうかは覚えていないので、こちらの世界に持ってこれなかったんだろうか?)。そういえば、軽トラックに跳ねられ時に、眼鏡は吹っ飛び、服は汚れたり破れたりしていたはずだが、家を出る前の状態に戻っている。『神』が気を利かせてくれたんだろうか?
まぁ、旅をしているのかと問われると、違うとは言い難い状況なのだが、この質問にはなんて答えよう?ここはもう、「覚えていない」と苦し紛れに言い、『記憶を失っている演技』をして誤魔化すしかないと思った。
それからも色々な質問をされたが、「覚えていない」と言い続けて躱し、最後には「ううう、頭が痛い……」と中二病のような事を言って、質問を控えさせる空気にした。
そのやり取りの中で、自分の名前を聞かれる場面もあったので、それぐらいなら答えても良いだろうと思い、ちゃんと本名を答えておいた(伝えた時、彼女には「不思議な響きの名前ですねぇ」と言われたが)。ちなみに、その流れで彼女にも名前を教えてもらったのだが、彼女の名前は『アーリエ』というらしい(名字か名前かはわからない)。
ここまで会話してから思ったという訳でもないが、俺には彼女の言葉が解るというのは何故なんだろう?俺の言葉も彼女には、ちゃんと通じているようだ。自動翻訳的なスキルが働いているのかな?確かあの世で『神』から渡されたマークシートには、ちゃんと言語設定の項目があったが(自分の世界と似通った言語にするかどうかや、どれだけ多岐に渡る言語がある設定にするかどうかなどだが、俺も中盤の方になると量が多過ぎて適当にチェックを付けていったので、詳しい事はあまり覚えていなかった)、自分が喋れるかどうかの項目はなかった気がする。そこら辺の事をちゃんと説明しなかった『神』に苛立ちを覚えた。
質問が途切れたので、しばしの沈黙が流れた。次は意を決して、俺の方から彼女に質問をしてみよう思う。母親以外の女性に話しかけるのは、かなり久し振りなのだが、なんとか頑張ってみる。まず、俺が一番気になっている事から聞いてみた。
「あああああアナタは、えっエルフなんですか……?」
実は彼女の耳は、横に長く尖っていた。
「えっ……?あっまぁ、そうですよ」
やはり、エルフだったのか!異世界でいきなりこんな美少女エルフと出会い、その人(?)に拾ってもらえるなんて!
彼女は細く整った鼻に、薄く形の良い唇。綺麗な緑の瞳のアーモンドアイ。すんなりとした顔の形。背丈は俺より少し低いぐらいだが(160センチぐらい)出る所は出ている。特に胸が大きい(巨乳エルフだ!)。髪は金髪ロングのストレートで、胸の下ぐらいまでの長さがある。服装はオリーブ色のワンピースのような物を着ていて、革のベルトを腰に巻いて縛っていた。
彼女に、「ここはアナタの家なんですか?」と尋ねてみる。すると、「今は私が住んでいますが、元々は空き家で村の人から貸してもらっています」と答えた。「ここは村の中なんですか?」と聞くと、「違う」と答える。近くに村はあるにはあるのだが、少し離れた所にあるらしく、ここには一人で住んでいるという話だ。村に住んでいるのは人間で、エルフは彼女だけだと言う。
何故、人間の村の近くで、エルフである彼女が1人で住んでいるのかなどに事情は、流石に聞き難くかった。