異界の住人
翌日、朝から宿を訪ねてきた人がいた。
フード付きのマントのフードを被っていたので最初は誰だかわからなかったが、それはファディールちゃんだった。遣いを出すとは聞いていたが、ファディールちゃん本人が訪ねてくるとは思っていなかった。お付きの人と一緒に来ているらしい。お付きの人はとりあえず宿の一階で待ってもらっている。
何故、ファディールちゃんがわざわざ宿まで訪ねてきたのか?その理由を俺達の部屋で語り始めた。
あの失敗に終わった儀式の後、すぐに業者を呼んで鏡を診てもらったのだが、どこにも異常はなかったらしい。今までそんな事は一度もなかったようで、原因を考えた結果『鏡に何も映らないのは、その対象者に問題がある』という結論に達した。
「もしかするとアナタは、この世界ではない別の世界からやって来た可能性があります」
ファディールちゃんが良い線を突いてきた。まぁ、ここは「へぇ、そうなんだ」みたいな顔をしておこう。
「きっと何か大いなる使命を宿されて、この世界に来られたんですよ!きっとそうです!」
ファディールちゃんのテンションが、何故か上がっている。ファディールちゃんもなかなか思春期真っ盛りだな。
アーリエとプロヴダも一緒にその話を聞いていたのだが(プロヴダは気を使って部屋を出ていくという事もなかった)、当然驚いていた。
「別の世界からやって来たオークだから、変なの格好なのかもしれない……」
プロヴダが呟いた。まだ言ってるよ……。
話は変わるが現在この部屋は、女子の比率が非常に高い。今までの俺の人生でこんな状況に巡り会えたのは小学生の頃、女子達に体育倉庫でズボンとパンツを脱がされ、そのまま放置されたとき以来だ。
なんとなく心をくすぐられるような良い香りが、部屋中に漂っている。俺は全力で鼻呼吸をしていた。
「私でお役に立ちそうな事がありましたら、是非頼ってみてください」
その後、ファディールちゃんはそう言って帰っていった。




