迷探偵ポナン
あっという間の出来事だった。まわりで戦いを観ていた人達が歓声を上げている。ゴロツキ達はけっこう嫌われていたみたいだ。
驚いたのは少女が手にしていた物が、柄の長い片刃の斧だったことだ。マントに隠れて見えなかったが、背中に背負っていたらしい。ハゲたゴロツキを殴った際は刃の方ではなく、その裏の部分を使っていたようだった。彼女が本気だったらゴロツキ達は、肉の塊になっていたかもしれない。後、格好もなんか凄い。上半身はほぼ何も着ていなく、胸の部分を革製のブラジャーのみたいな物で隠しているだけだ。下は短パンを履いている。
彼女が落ちていたマントを拾おうしたときに、ジロジロと見ていた俺と目があった。すると彼女は疾風の如き動きで俺に近付き、俺目掛けて斧を振り降ろした!
……が、斧は俺の頭の上1、2センチぐらいの所でピタリと止まった。
少女がまじまじと俺の顔を見詰めている。俺はいきなり起こった出来事にただただ呆然としていたが、急に恐怖が沸きだしその場で腰を抜かしてへたり込んだ。
「ごめ~ん!オークと間違えちゃった!」
少女がそう言って謝った。
なんだオークと間違えちゃったのか!ならしょうがないね!
……とか思うかこのクソ尼!ふざけた格好しやがって!乳首つねり上げて泣かしたろか!と思ったが、怖いので言うのは止めておいた。
彼女が以前、自分が出会ったオークに、俺がどれだけ似ているのかを力説し始めた。俺は笑顔でその話を聞いていたのだが、腸は煮えくり返っている。しかし、先程の鬼神の如き働きを見てしまっていては何も言えない。
彼女が驚かせてしまったお詫びにと、なにかご馳走したいと言ってきた。俺はこんな狂人みたいな娘とは、すぐにおさらばしたかったのだが、アーリエは少女に興味を抱いたのか、「ご馳走になりましょう」と俺に言い、付いていこうとしている。仕方なく俺も付き合う事になる。
なにか美味しい物はないかと3人で露店を観て回った。アーリエはさっきけっこう食べていたはずなのに、まだ入るみたいだ。俺は彼女達の後ろからずっと付いて行っているのだが、手は股間を隠すように前に置いていた。実はさっきので、またちょっと漏らしていたのだ。
「あの人、手で何かを隠すようにして歩いている……、妙だな……」
この股間の染みをどうしたらいいのか考えながら歩いていると、眼鏡をかけた少年が近くで呟いていた。
俺は内心すごく焦る。だが、何事もないかのように振る舞っている。
「あれれ~、おかしいな~。おじさんはどうして股間を手で隠しながら歩いているの?」
少年が横に並んで歩きながら尋ねてきた。
「……別になんでもないから!」
わざと高圧的な物言いをし追っ払おうとした。
「いいから見せて!!」
少年は素早く俺の前に回り込むと、股間の前に置いてあった手を強引に払い除けた。
回りの人達が変わったやり取りをしている俺達に注目していた。そして、露わになった俺の股間の染みを見て、近くの人とヒソヒソ話し始めていた。
目の前の景色が霞んできた。
「コォラァ〜ッ!ダメでしょ、ポナン君!」
頭に角(?)を生やした少女が突然現れ、眼鏡をかけた少年を脇に抱えて、どこかへ行ってしまった。
一人になった俺をアーリエと斧の少女が遠巻きに見ている。
俺は泣いた。