中華大作戦⑤
俺はファディールちゃんに、斯々然々の理由を話した。
ファディールに遠方に人を送る能力について尋ねると、
「確かにその能力はありますよ。大勢の人間を一度に送ったり、何度もすぐに送ったりはできませんが」
俺を戦士の国まで送ってもらえないかとお願いしてみた所、快くOKしてくれた。
ファディールちゃんに、「いつ戦士の国まで送りましょうか?」と聞かれたのだが、それについては少し悩んだ。別に今すぐにでも構わないのだが、宿屋にクソ馬を置いてきている。動物までは流石に送れないと、ファディールちゃんには言われていた。クソ馬は宿屋の人に頼んで、王都へ行く人がいれば連れて行ってもらえるようにお願いしてもらいたいのだが(クソ馬でも荷物ぐらいは持たせられるし)。
やはり送られるのは明日にしようかと悩んでいた時に、
「ちは~っ!紅々軒です~!」
と言って、誰かが広間に入ってきた。入ってきたのは!、エルクレールだった。
「ラーメンとギョーザ定食、お持ちしました~ってあれ?アンタはっ!!」
エルクレールが俺に気付いた。手に下げていたオカモチを床に置き、俺に近付いてきた。
「勇者様じゃん!久し振りだね~!相変わらず不細工な顔付きをしてるけど、元気そうだね~!」
俺の両手を握って、再会を喜んでくれていた。
ファディールちゃんが、「オホン!」と咳払いをした。再会を喜んでもらえるのは嬉しいが、今は早ファディールちゃんとの話し中だ。
「すみません、エルクレールさん。今、勇者様と大事な話をしているので、席を外してもらえませんか?」
「え~っ!せっかく会えたのに~!それに早く食べないと、麺が伸びちゃうじゃないか!」
ファディールちゃんも、オカモチの中身を少し気にしているようだった。
俺は、「別に気にしないから、先に頂いたら?」とファディールちゃんに勧めてみた。
ファディールちゃんは、「え~、いいんですか~?」と、勧められるがままエルクレールから出してもらった、オカモチの中身を頂き始めた。そういえば、今はお昼時だった。
「どうして勇者様が、またこの町に来てるんだい?」
エルクレールが質問をした。俺は修行をする為に『戦士の国』まで、ファディールちゃんに送ってもらうつもりだった事を話した。
「修行をするんならアタイも修行した、『アッツアツ・チャーハン国』の拳法寺がいいんじゃないかい?素手でも相当強くなれるよ」
いや、俺には聖剣があるから、別に拳法は必要としていないんだが。
ファディールちゃんが食事をしている最中なので、エルクレールに今は何をしているのかと尋ねてみた。エルクレールはこの近くで、中華料理の店を出しているらしい(この世界では、『アッツアツ・チャーハン国』の事を中華と呼んでいる)。たまにここにもこうして出前に来るのだそうな。確かに格好が前に見た露出の多い物ではなく、三角巾を頭にして、白い服と白いエプロンをした、中華料理屋の店員の格好だった。
「本当は部外者が、あんまりこの部屋には入ったらいけないんらしいんだけどさ。この子がギョーザ定食を頼んでるのを回りに知られたくないらしくて、毎回ここまで配達に来てるのさ」
ファディールちゃんがギョーザを摘まみながら、顔を少し赤らめていた。
ファディールちゃんが、昼食を食べ終わった。
「それではどうしますか?やっぱり別の日に送る事にしますか?」
エルクレールと会った反応を見るに、やはりあまりこの町に長居し過ぎると、送られる日が延びてしまう可能性を感じていた。なので、クソ馬の事はファディールちゃんから宿屋に人に頼んでもらう事にして、今すぐに『戦士の国』に送ってもらう事にした。
「それでは、『戦士の国』まで勇者様を送らせていただきますね。『戦士の国』の門辺りの情景を思い浮かべてください。そこへ勇者様を送り込みます」
ファディールちゃんが、例の真実の鏡の前辺りに突っ立っている俺の胸に手をかざし、なにかの呪文を唱え始めた。ファディールちゃんが呪文を唱えていると、
「あのさ。さっきの出前の代金、まだ貰ってないんだけど」
と、エルクレールがファディールちゃんに言った。
「あっ、すいません。……はい、これが代金です」
ファディールちゃんが、自分の服のポケットに片手を突っ込んで小銭を引き出し、それをエルクレールに手渡した。
「それにしても、すぐに遠方に行けるってのはいいね~。アタイも久し振りに、『アッツアツ・チャーハン国』に行って老師に挨拶したいよ」
「あっ」
俺はその時、その場から瞬時に消えていた。
次に気が付いた時には、知らないお寺の門の前にいた……。




