サルとブタとキツネ
彼は民衆達に囲まれていた。
女性達は彼に近寄ると正気を失ってしまうので、遠巻きに眺めている。
「この騒ぎの元凶は、こいつのせいだって?」
「こいつに近寄った女は変な気を起こして、暴れたりしちまうって話だぜ……」
まわりで人間達が、口々に物を言いながらザワついている。しかし、淫魔王は大人しく彼らのなすがままになっている。
彼らを蹴散らすの彼にとっては簡単な事だった。だが彼は魔王にしては、争い事が好きな方ではなかった。
できれば人間達とも良好な関係でいたい、と願っている平和主義者だった。
しかし、この呪いのような力によって、その願いはいつも空虚に断ち切られていたのだった。
そこに、奴が現れた。
奴とはつまり、現勇者の事である。彼はまたしてもスケベ心を起こし、この界隈を一人で訪ねてきていたのだ。
例の如く、正体を隠すかようにフード付きのマントを深く被っている。彼もこの騒ぎに気付いていたのだが、あまり関わり合いになりたくないので、足早にそこを離れようとしていた。
しかし、顔をなるべく隠しているので視界が悪くなっており、急いでその場を離れようとしていた事もあって、前にいた女性とぶつかってしまった。
その女性は淫魔王の方に気を取られていたので、体勢を崩し転んでしまった。転んだ女性と思わず目が合うと、
「あ、あなたは……!もしかして勇者様ではないのですか!?」
鎧を着ている女性は驚いていた。他の人達の目もこちらに集まってきてしまっている。
仕方がないのでフードを取ると、
「その特徴的なお顔は、やはり勇者様!私、ファンなんです!」
女性が興奮している。年はそこそこいっているように見えるが、まあまあの美人なので俺も少し照れる。
回りがまたザワつき始めた。
「そうだ!勇者様にこいつの事を任せればいいんだ!」
誰かがそう言った。面倒くさいし早くどこかへ行きたいが、勇者としての体面があるので、とりあえず詳しい経緯を聞いてみた。
……だいたいの事情はわかったが、だからと言ってどうすればいいんだろう?立ち竦んで、こちらを覗っている相手にも話を聞いてみた。
「私はただこの町を訪れてみただけだ。騒動を引き起こしたかった訳ではない。だが、この騒ぎの原因は私の呪いにある……。それについてはただ謝罪を述べるしかない……」
けっこう殊勝な態度だった。




