混沌のカオス
先程、客として入った魔王は店から逃げ出していた。
どうやらまた、やってしまったらしい……。前に王都に来たときにも同じような事が起こっていたのだが、やはりこの呪いは昔とは変わってはいなかったみたいだ……。
さっきまで人通りが少なかった界隈は、少し時間が経っただけで、だいぶ賑やかになっていた。
彼が急いで店から出て来た事を、店の前にいた者たちが不信感を抱くのではないかと思い、平静を装いながらゆっくりと歩いていた。
しかし、内心ではかなり感情が揺さぶられている彼の身体からは、ある特殊なフェロモンが漏れ出していた。すれ違う女性達が彼の横を通る過ぎると、急に挙動がおかしくなり、近くの男性にいきなり抱きついたり、突然叫びだしたりしている。自分の服を脱いで素っ裸になる女性もいた。
なんとかそれを抑える為に、彼は自分は感情を落ち着けようとするのだが、まわりの騒ぎが大きくなっていくにつれ、自分の感情もどうしても揺さぶられてしまう。
彼の周りではもはや、完全な乱痴気騒ぎが巻き起こっていた。
その時、彼の側に、
「貴様はあの時の!」
彼を指差す者がいた。それは湖の側でオークに襲われていた、あの人間の女だった。
その女が自分を指を差したせいで、まわりの者達の目線が彼に集中した。
「まさか、この騒ぎは貴様のせいなのか!?私もあの時、貴様のせいで少しおかしな気分になってしまったぞ!」
人間の女がそう言ったのだが、あの時のあれが彼のせいなのかは、彼にもわからない。
しかし、昔王都で起きた今回と似たような乱痴気騒ぎは、紛れもなく彼のせいだったのかもしれない。
彼の異名は、『淫魔王』と言った。
彼の感情が昂ぶったりすると、彼の回りにいる異性が興奮して正気を失ってしまうという、呪いのような力があった。
彼はインキュバスやサキュバス達の王であり、彼に仕えている淫魔達が、人間などから生命力を吸い、彼に絶大な力を与えているのだった。




