皇宮物語③
「さぁ、まぐわいをしようぞ!もし、お主と我の間に子でもできれば、更なる民草達の人気を集める事もできよう。本来なれば、皇ノ命の座は未婚の無垢な乙女にしかなれぬ決まりになっておるのじゃが、民の人気が集まればどうとでもなるじゃろう」
皇ノ命は、自分の顔を俺の顔に息がかかるぐらいにまで近付けて言った。もう逃げ場がない。俺の貞操の危機だ。そう思い目を瞑った時、
「うるさーーーーいっ!!」
という大声が、部屋中に響き渡った。その後、布団が敷いてあった所の畳と床板をブチ破り、なにかが下から頭を出していた。それは獣子だった。
俺と皇ノ命が呆気に取られている。
「人が下で静かに寝ているのに、上でブツブツうるさいんだよ!静かにしろ!……って、あれ?ここはどこだ……?」
獣子が床下からキョロキョロと辺りを見回している。なんで獣子が床下から現れたんだ?
「あっ、そうだ!眠った後に肉を一口囓ろうとと思って、下にいたんだった!でも、待ってる間に眠くなって寝ちゃってたんだ!」
どうやら、俺が別れて一人で休む事になったので、隙を見てこっそり囓ろうと思って、匂いを辿りこの部屋を突き止めたらしい。床下に潜んで俺が寝入るのを待っていたが、自分の方が睡魔に勝てず、そのまま眠ってしまっていたようだった。
「き、貴様は何者じゃ!?我らの『まぐわい』の邪魔をするではない!」
皇ノ命が獣子にそう言う。皇ノ命は獣子の事を覚えていないのだろうか?獣子は昼間の謁見の時に、ちゃんといたはずだが。だが、あの時に被っていた頭巾を、獣子は今は被っていなかった。獣子の頭の丸い耳が丸出しになっている。その内、皇ノ命が騒ぐのを止めていた。獣子の頭の耳を凝視して固まっている。やはり、珍しいからだろうか?
「うるさいなぁ。お前は誰だよ」
獣子は昼間会っていたはずなのに、皇ノ命の事を覚えていなかった。今は厚化粧を落としているので、わかりにくくなってはいるが。
「そこの娘や!そ、その頭の耳を我にもそっとよく見せてたもれ……。おぉ、そうじゃ!あの子の耳|とよく似ておる……」
獣子の側に寄り、まじまじと頭の耳を見ていた皇ノ命が言った。
俺には当然なんの事だか、さっぱりわからない。獣子もキョトンとした顔をしている。そんな俺達を見て皇ノ命は、自分の過去について唐突に語り出した。
十二年前の事。数年前に高齢を理由に前代の皇ノ命から座を譲り渡されていた彼女は、密かな恋をした。恋は実り相手との相手に子供までできてしまう。しかし、それは先程も彼女が話していた通り、皇ノ命として許されない事だった。結局はできた子供や恋愛相手との愛情よりも、皇ノ命として立場を取った彼女は、子供ができた事や恋愛をした事は世間には秘密にして、産んだ子は家臣に秘密裏にどこかにやる様に指示し、相手の男性も側から離した。それ以来、皇ノ命として将軍家からの圧迫に耐え、次代の皇ノ命に座を引き継ぐ為に頑張ってきたらしい(実は子ができてからも、恋愛事態は自由にしていたらしいが)。
「やはりそうじゃ……。お主がしておるその首飾りも、皇家に代々伝わる宝の一つじゃった物じゃ……。家臣に我が子を託す時に、お守りとして預けた物じゃった……」
確かに獣子は旅の間もずっと、勾玉を三つ並べそれを紐で括った首飾りをしていた。それは自分を育ててくれた爺さんがくれた物らしい。
「これも縁であろうか……。まさか我が子がこの宮へ帰ってきているとは……」
皇ノ命が獣子の側に寄り、そっと抱きしめた。獣子は状況が飲み込めていない様で、「離してよ、おばさん……!」と皇ノ命の腕の中で藻掻いていた。




