オエドよ、さらば!
オエドから追放すると言われていたが、すぐにという訳ではなく、何日間かの猶予を与えてくれていた。その間にお世話になった大門さんや源安さんの元へ挨拶に行く。大門さんは俺達のやった事をベタ褒めしてくれ、将軍家が俺達にした仕打ちに対しては、かなり辛辣な言葉を吐いていた。火事にあったあの夫婦の事を聞いてみると、物的損害だけで人的な被害はほぼなかったと言っていいので、時間をかければ店も再建できるかもしれないと話してくれた。助けたあの赤児の為にも、是非頑張ってもらいたい。
それから、源安さんの家も訪ねていた。源安さんは、
「あぁ~、ワシも国抜けをしてオンシ等の国に渡ってみたいのぉ~」
と、ヤバい事を口走っていた。
この地の他の者に聞かれるだけでも危ない発言だ。俺達は「まぁまぁ、いつかはそうなる日も来ますよ」と言って、宥める事しかできない。
とうとう、オエドを出立する日がやって来た。この数日間で何故か、『実は異国からやって来た者達が魔王を倒していた』という噂話が市中に広まっている。将軍家はオエドの人々に、『魔王が倒された』という事だけしか伝えていなかったので、誰が倒したのかまでは知らないはずだった。何故、今更その話が広まりだしたのかはわからない。自分達の事が話題になっているのは、なんだかむず痒い。
あの最初にオエドの町へと入ってきた、町の外れの道端までやって来た。別れの挨拶をする為に、徳田さん、源安さん、大門さん、そして火事にあったあの店の夫妻が、わざわざ来てくれている。将軍家から貰えるはずだった褒美だが、追放刑にはなると言っても一応は褒美は貰えらしい。褒美の品は海路でオザカまで運んでくれる事になっている。それなら俺達も、それでオザカまで行けばいいのではないかと思うだろうが、俺が船に乗るのを拒否していた。船酔いが怖いので、できれば船に乗る回数は減らしたかった。
「オエドの奴等に代わって、オレっちが礼を言っとくぜ!身体には気を付けなよ!」
大門さんが、最初に別れの言葉を告げた。
「ワシらは絶対にオンシらの事を忘れたりはせんよ。いつかそっちの国にも苦労せずに渡れるようになればいいのぉ。では、達者でな」
源安さんが続けて言う。火事にあった店夫婦も、頭を下げて別れを惜しんでくれた。
「貴殿等が来なければ、オエドもこの国もどうなっていたのかわからなかった。貴殿等を正統に評価できる地になるよう、某も努力を重ねていくつもりだ」
徳田さんがそんな決意表明をした。
『さぁ、いざ出発』、という時に源安さんがアーリエを捕まえて何かを言っていた。何を言っていたのか、俺にはさっぱり聞こえていなかったが。
「……アヤツにはゴォルデンスピリッツ(金魂)があるわい。掴んで離しなさんなよ」
そう言われたアーリエは、困ったような顔をして笑っているだけだった。




