ゴブリンキング
「『ヤリスギタ』とは、何をやり過ぎたんですか?」
アーリエはボスゴブリンの発言が気になったのか、更に詳しく話を聞こうとしていた。
「……マグワイ、シタ、コト」
……なんだそれ?アーリエも言葉の意味がわからないのか、キョトンとした顔をしていた。
「なんですか、それは?」
「マグワイ、ハンショク、スル、コウイ……」
俺はまだ意味がわからずにポカ~ンとしていたが、アーリエはボスゴブリンの言葉の意味がわかったのか、驚いている様子だった。
「つ、つまりそれは……。『性行為』の事ですか?」
アーリエの言葉を聞いて、ボスゴブリンが頷いた。『性行為』?つまり、『SEX』の事か?どういう事なんだ?俺にはまだ意味がよくわからない。
「村の若者は男性ですよね?何故、アナタ方が若者相手に、そういう事をなさったんですか?まさか、女性のゴブリンでもいらっしゃるですか?」
「オンナ、ゴブリン、イナイ……。ワレラ、ミナ、オス……。ダガ、ミンナ、オス、スキ」
片言でわかり辛いので、アーリエが何回か詳しく意味を聞き返していた。結果、わかったのは『ここにいるゴブリン達は全員"男"が好きな雄のゴブリン』という事だった。
「ワレラ、カツテノ、ナカマ……。ミンナ、ワレラ、キラウ……。ダカラ、ワレラ、アツマリ、ス、ツクッタ……」
つまり、『男が好きな雄のゴブリン達が集まり、この洞窟に住み着いている』という話だった。これは、けっこうレアなケースなのではないだろうか?アーリエも話を聞いて驚いていたし。
うろついていたゴブリンを襲った村の若者を返り討ちにした後、怯える若者を見てついムラムラとしてしまい、みんなで『マグワイ』をしてしまったという事だった。まさか、あの若者がゴブリンに掘られていたとは思わなかった。ボスゴブリンが本当の事を話しているのかどうかは俺にはわからないが、あのチャラついた若者より、片言で訥々と一生懸命喋っているボスゴブリンの方が、信じられるような気がした。
「ワレラ、トテモ、フカク、アヤマル……。アト、オネガイ、アル……」
ん?なんか、俺たちに『お願い事』があると言っているようだぞ。なんだろう?
「ソコノカタ……。ワレラ、オウ、ナッテホシイ……」
ボスゴブリンが俺を指差して言った。
「『オウ』?『オウ』ってつまり、『王様』の事ですか?」
「ソウ……。ワレラガ、アルジ……」
なにぃ!?俺に『王様』になれとは、どういう事だ!意味がわからないぞ!
「アナタ、トテモ、ウツクシイ……。ワレラ、オウ、フサワシイ……」
俺の容姿がゴブリン達から見て、とても優れているように見えるからだそうな。さっきも攻撃を止めて洞窟の奥へと帰っていったのも、俺の事をボスゴブリンに報告する為だったみたいだ。産まれて初めてそんな事を言われた訳だが(親からも不細工と言われていたのに)、言った相手がゴブリンなので、とても微妙な気分になっている。これもやはり俺の、『モテモテ能力』が関係しているのだろうか。
アーリエが「どうしますか?」といった感じで、俺の方を見ている。
「こ、ここで決めるのはアレなので、返事はまた後日……」
俺はニートお得意の『先延ばし戦術』を繰り出した。ズルズルと先延ばしをする事で、決定をしないという決定をした。