始まりのキモオタ
目を覚ますと、見知らぬ空間いた。
ただひたすらに暗闇が広がっているだけの空間で、辺りは静か過ぎる程に静かだった。
そんな所で横たわっていた様なのだが、何故か慌てる気にもならず、上半身を起こしボンヤリとしていた。不思議なのは、暗闇なのに自分の体や手足はハッキリと見えている事だ。そうしていると、目の前に突然白い光が現れた。
2メートル程手前に現れたその謎の光は、少し大き目の成人男性ぐらいあり、その光が徐々にと薄まりだす。すると、そこには人間の姿があった。それは背の高い、背筋がスッキリと伸びた老人(♂)で、頭の頂点は見事に禿上がっている。後頭部からは白くて長い後ろ髪は生やしていた。顔付きは年老いていながらも端正で、眉毛は白く太く、その下の目は理知的な光を湛えている。口元にもこれまた白い髭を生やしており、髭顎は長く胸元まである。服装は古代ギリシャ人の様で、右肩を諸出しにした、裾が足元まである白い布を、素肌に直に纏っていた。それを麻のような腰紐で縛っていて、足には革製のサンダルを履いている。左手には上端部が瘤のように太く巻いている、樫のような素材でできた杖を突いていた。
その人物は、完全にどっかの神様ぽかった。
その相手が唐突に語り始める。
「──儂はお前たちがいう所のすなわち、『神』という存在である。そして、ここはお前たちがいう所の『あの世』という場所じゃ。まだよくわかっておらんじゃろうが、お前は実はすでに亡くなってしまっている身なのじゃよ……。本来は死せる運命ではなかったのじゃが、まぁ、なんというか『天界』のミスでそうなってしまったのじゃ……」
俺はなんとなくここが『死後の世界的な何かなんじゃね?』とは、薄々察してはいた(なんかどこかで見た事がある様な既視感を感じたからだ)。俺は20代前半の所謂『引きこもりニート』というやつだった。だが、ある日自分先々の事について深く考え、このままではいけないと思い立ち、『とりあえずは散髪に行こう!』と自身を変えるべく家から飛び出したのだ。しかし、道端で久し振りに観る下校中の生のJSに見惚れてしまい、そこを居眠り運転した軽トラックに跳ねられてしまったのだ。打ち所が悪かったらしく、そのままここに来てしまっていたようだが、まさかあの事故は、天界のミスのせいで起こったという事なのだろうか?
「──お前は『自分を元の世界に戻せばいいだけ話だ』と思うだろうが、それに伴う手続きがけっこう面倒でなぁ……。と言う訳で、お前をいっそ、別の世界へと送ってやりたいと思っているのだが、構わないよな?」
……最後の「構わないよな?」の部分にだいぶ強制的な印象を受けたが、正直無理を言って元居た世界に戻れるようにしてもらった所で、引きこもりニートだった境遇は変わらないので、
「それでお願いします……」
と、力なく答えていた。
「よし、決まりだな!では、こちらに用意してあるマークシートに書かれた項目に目を通し、横にある四角い所にチェックを入れていってくれ!チェックした項目の条件になるべく合う世界へと、お前を送ってやろう!」
そう言って、爺さんはけっこう分厚いマークシートの束と鉛筆を手渡してきた。『なんだか準備がいいなぁ』と思いながら下の地面(?)にマークシートの束を置き(地面はけっこうツルツルしている)、書かれている項目に目を通していく。
マークシートの最初の方は、他のページとは違い、『ロジックツリー式』になっており、時代設定や、どんな文明で始めるかを決める仕様になっている。
爺さんは俺がマークシートにチェックを入れている間、横に寝反べりながら漫画(進○の巨〇)を読んでいた。だいぶ時間が経ち、チェックを入れ終わったので、マークシートの束を爺さんに返す。爺さんはすぐにマークシートの確認を始めた。確認を進めていく内に、爺さんは徐々に呆れ顔になり、
「ハァ……、またこんな感じの世界観か……。お前ら本当にそういうのが好きだな……」
と、呟いた。
俺はできるだけ、自分が元居た世界の『中世ヨーロッパ』的な感じになるような設定を選んでいた。やはり異世界物と言えば、それが定番だと思ったからだ。
そして、遂には魔法あり、スキルあり、亜人種あり、モンスターありのTVゲームや漫画でおなじみな世界観になっていた。
……そういえば爺さんは、「また」と呟いたようだが、またという事は俺の他にも『別の世界に送られた奴』が、いたという事だろうか?天界でのミスは、割とよく起こる事なのかもしれない。
「えっと……、マークシートに記入しといてもらってあれなんだが、『襲い来る巨人達とひたすら戦い続け、生の喜びを思う存分実感する世界』というのもあるが、どうだ?あそこは空きが多いしな」
『明らかにさっき読んでた漫画の影響じゃねぇかよ、ハゲ』と思った俺は、その申し入れを即座にお断りした。
そういえば爺さんは、さっきから俺を「別の世界へ送る」と言っているが、別の世界に生まれ変わる『転生』みたいなシステムはないのだろうか?できれば若い美人ママの子宮から、また産まれ直すというのもやってみたい物なのだが……。爺さんにその事について、一応お伺いを立ててみた。
「そういうコースもあるにはあるが、手続きがまた面倒臭いしなぁ……。後、転生した時に記憶を持ち越せるのが、そのコースの特典になるから、別の世界へ特殊なスキルを得てから渡る方が、オススメじゃぞ?」
ん~……。いまいち決めきれない部分もあるが、オススメじゃない方を選ぶのもなんだか怖いので、『転移コース』を選んでおく事にした。
……というか、一応ちゃんと転移する前に、特殊なスキルを与えてくれる予定だったみたいだ。マークシートの項目に、『特殊スキルの選択』のような物がなかったので、このままの状態で送られるんじゃないかと不安だったのだが、ちゃんと貰えると聞いて安心した。転移物に特殊なチートスキルは当たり前の物だ。(「そういう事は先に言っとけよ、ハゲ」と、心の中で悪態をついた)。
「よし!では、お前に特別なスキルを授けてやろう!どんなのがいいか言ってみろ!ただし、『その世界の仕組み自体を壊しかねないようなとんでもない能力』を与える事は不可能だからな!」
『その世界の仕組み自体を壊しかねないようなとんでもない能力』、というのについて具体的に伺ってみた。例えば大きさや質量に関係なく、どんな物でも作りだせたりする能力や、生き物を何度でも簡単に甦らせたりできる能力、気候や天候などを瞬時に何度でも変えられる能力などといった、神の如きチートスキルの事らしい。
俺は異世界において、神の如き力で無双してやりたいと考えていたのだが、それは少し都合が良過ぎるようだった。
それから、相当じっくりだいぶ長い間考えてから、俺はハゲにお願いをした。
「もももももも物凄く、モモモモモモモモテモテになる能力とかでもいいですか……?(文字が重なっているのは、ただドモっているだけだ)」
学生時代からキモオタ豚野郎と蔑まれ、女子からはトイレの便器の黄ばみを見るような目をされてきた俺。だが、異世界ではモテまくりのヤリまくり、稀代のジゴロ王として君臨してやりたいと思っている。快楽の頂点を極めた己の姿を想像し、俺は軽く勃起をしていた。
急に鼻息を荒くし始めた俺を見てハゲは、岩に腰を擦り続ける哀れなオ○ニー猿を見るような目付きをしたが、特に何も言わなかった。面倒臭くなったんだろう。
「──よし、わかった!では、さっそく貴様の望むような能力を与え、貴様の望むような世界へと送り込んでやろう!では、さらばじゃ!」
ハゲはそう言って、左手に持っている杖を上に掲げた。
『えっ?もう別の世界に飛ばされちゃうの?もっと具体的な説明とか、色々聞いておきたかったのに』と思ったのだが、俺の身体はいつの間にか眩い光に包まれていた。そして、その中で意識も次第にと遠退いていった……。
薄れゆく意識の中で最後に目にしたモノは、座って漫画(○撃の〇人)の続きを読み始めるハゲの姿だった……。




