第56話 新しい住人たちの魔国見学と新通貨
大変お待たせいたしました。
ドズーン!
魔王城の横、兵士訓練場の広場にワイバーンたちが次々到着する。
巨大な鉄の籠を地面に着地させながら。
「ウォォォォエ~~~」
鉄籠の扉を開けて飛び出てきたザグレブはいきなりゲロった。
他にも何名かが連れゲロしている。
「まったく人間は情けないのが多いのです!」
プンプンと怒っているのは魔法師団第二軍所属のリリアであった。
<異空間収納>の使い手であるリリアは、人間の兵士たちを魔国へ移動させるための鉄籠をソルテア国まで運ぶ役割を受けており、無事魔国まで兵士を運び終わったことで大役を完了できたとニコニコしていた。
「お疲れさん、リリアのおかげで一度に全員運んでこれたよ。助かった」
そう言ってリリアの頭を撫でる魔王新太。
内包魔力に優れるリリアだが、その姿はまるで中学生の少女のように小柄であった。ついつい庇護欲もかき立てられ、リリアがいい仕事をすると頭を撫でてしまう魔王様であった。
「にへへー」
にぱーっととてつもなくいい笑顔を見せるリリアに、ドロステラやセーラが「またライバルの出現ですわ!」「むむむ、由々しき問題だ!」などとぶつぶつ呟いているが魔王新太は華麗にスルーを決め込む。
ワイバーンの羽ばたきによる上下の揺れにダウンしている者たちもいるが、いつまでもここにいるわけにもいかない。
「よーし、これからの事について説明する。魔王城一階の大講堂に集まってくれ。今から案内するからついて来い」
そうして二千人もの人間を魔王城に案内する新太。
「・・・なんだありゃ?」
「なんで人間があんなに大勢?」
一般兵士たちや使用人たちが大勢の人間が歩いて行くのを不思議に見つめた。
そして、この後二千名の人間が兵士として魔国軍に加わるとの発表に驚くことになる。
「さて、兵士諸君。君たちはこれから魔国に雇われるわけであるが、我が国は味方である者たちの種族差別を禁じている」
集まった二千の兵士たちがざわつく。
とりあえず命は助かったらしいとホッとすれば、いきなり魔国に連れてこられ、兵士として働くことになると説明されていた。だが、戦場での活躍を期待されるとはいえ、魔国での扱いはもしかしたら凄惨を極め、最前線で使いつぶされるような使い方をさせるかもしれないと不安が広がっていた。
そんな折、魔王の一言目は種族差別の禁止であった。
「また、徹底が甘く、君たちの事を人間だからと甘く見る連中もいるかもしれない。だが、この魔王新太ここに誓おう。君たちの処遇は他の兵士たちと平等だと。君たちが手柄を上げればそれに必ず報いよう!」
シン。一瞬の静寂。そして―――――
「「「「「おおお―――――!!!」」」」」
兵士たちが雄たけびを上げて跪く。
魔王新太の期待に応えて自分たちの居場所を築く。そんな思いが兵士たちの心を熱くした。
説明が終わり、二百名単位で分かれて魔王城の施設見学や、魔国の案内を始めた新太。
新太自身でグランリスタ将軍やソードレイ、コルネリアス、ザグレブなどを率いて街へ繰り出した。案内にはドロステラも同行する。セーラが抜け駆けだ、横暴だと叫んでいた気もするが、得意のスルーを決め込む新太であった。
幹部クラスの連中には、まず魔国の繁栄ぶりをみて貰おうと街へ繰り出すことにした新太。
「この裏通りは屋台街でな。ちょっとしたおやつや食べ物、飲み物がたくさん売っているんだ」
通りを案内しながら、以前に比べて活気の出てきている街をドヤ顔で自慢する新太。
屋台で串焼きと酒を買い込みながら、「魔王様の戯れ」(いわゆるリバーシ)、「魔王様の嗜み」(いわゆるチェス)に熱中する人たちもいる。「魔王様の大戦略(いわゆる将棋)」はルールの壁が高いのか浸透率がイマイチのようだ。
「ほう・・・街中も人々の笑顔であふれているか・・・」
グランリスタは感嘆を禁じえなかった。
北の大地に押し込められて食料不足で人間国へ攻め入らなければ死ぬところまで追い込まれたと密偵のオークは語っていた。それがどうだ、この魔王新太が就任後、魔国はいい方にガラリと変わったという。まさにその象徴を見ているようでもあった。
「おっちゃん!いつものジャガーイモのフライドポテト頼むよ!ソルテア産の塩をちょいと多めに振りかけてくれよな!」
馴染みの店なのか、気軽にフライドポテトと書かれたのれんの奥の親父に声を掛ける新太。
「おお、魔王様じゃないですか!今揚げたてのうま~いアツアツフライドポテトを用意しますよ!」
「うん、二百個頂戴!」
「はっは、豪気ですな」
そう言って店の親父は笑ったのだが、魔王新太の後ろには見慣れぬ人間たちが大勢並んでいた。
「・・・あれ?まさか二百個って・・・マジですか?」
「そう、マジ」
屈託のない笑顔で本当だと告げる新たに店の親父は顔面蒼白となりかける。
「ちょ、ちょっとまってくだせーよ!一世一代の仕事見せてやりますよー!」
そう言って隣に用意してあったフライドポテトのイモを油に投入したかと思うと、後ろのケースから予備のイモを大量に取り出す。
「これで今日は売り切れになっても二百個揚げ切ってみせまさぁ!」
「うん、頼むよ。ここのフライドポテトは絶品だからね」
「かーっ!魔王様に惚れこまれちゃー嫌とは言えねーや!ジャンジャン揚げますよ!」
そう言ってできたフライドポテトをグランリスタをはじめとした連中に手渡していく。
「アツアツの内に食べてくれよ」
「なんだ、このイモ!ウ、ウマイ!」
「こんなホクホクのイモ食べたことがないぞ!」
「と、言うかあんなに油を大量に使う料理って、メチャクチャ贅沢じゃ・・・?」
大好評のフライドポテトにいろんな意見が飛び交っていた。
「おっと、支払いを・・・」
魔国での通貨は「古代銭」と呼ばれる、古い時代の人間の国が使っていた硬貨を集めたもので商売のやり取りを行っていた。
「魔王様、こちらでお支払いください」
そう言ってじゃらりと硬貨の詰まった袋を差し出してきたのはメイド長のメリッサであった。いつの間にかメリッサは魔王新太の背後を取っていた。
「うおうっ!メリッサか。脅かさないでくれ・・・、とはいえ、お金はありがとう。早速使わせてもら・・・」
革袋からじゃらりと硬貨を手のひらに出した新太はそこで停止した。
「・・・? 新太様、いかがなさいました?」
ドロステラは新太が見て固まっている手のひらに出した硬貨を見る。硬貨はきらびやかに輝く金貨であった。
ただし、その金貨には新太の顔が彫ってあった。それも非常に精密に。
「こ、これ・・・新太様のお顔が金貨に彫ってありますわ・・・」
ドロステラは金貨に感動していた。正確には金貨に彫られた新太の顔にであるが。
「先日通貨を改めまして。今までの銅貨一枚を一アーラと定めました。現在一アーラ銅貨、十アーラ大銅貨、百アーラ銀貨、千アーラ大銀貨、一万アーラ金貨と市場に出回っております。大商いを行う商家の連中には大金貨や白金貨を用意しております」
完全に表情が停止したままギギギッと首をメリッサの方に向ける新太。
「ほう!これは見事な金貨ですな。魔国の技術力の高さが伺える」
金貨を一枚つまみ上げると、しげしげと眺めるグランリスタ。
「・・・メリッサ。いつの間に通貨改定が? 後、通貨単位の『アーラ』って・・・」
眉毛をピクピクさせながら新太はメリッサに問いかける。
「もちろん、新太様のお名前からとらせて頂きました。ホントは『アラタ』が良かったのですが、下々のものまでアラタアラタとお名前を呼び捨てにするかの如く連呼されるのは我慢ならないことに気づきまして、折衷案で『アーラ』に決定いたしました」
(決定したって、俺の知らない間に何決定してんのっっっ!)
新太は理解に苦しんだ。
通貨改定なんて、相当大事なことだと思うんだけど、なんで俺が知らないところで行われてるの・・・と。
(大体、今日は百アラタでいいよ!持ってけドロボー!なんて丁々発止のやり取りされたら、俺は恥ずかしさで死ねる!)
魔王新太は頭を抱えた。
そんな新太を無視するかの如くメリッサが続ける。
「通貨改定の決裁を頂きたく、会議での草案を纏めましてお部屋に伺いましたが、新太様は帰ってきてはおらず・・・沈黙は可、と受け取らせて頂きました」
「沈黙も何も部屋にいなかったんですけどっ!?」
これはメリッサの仕組んだことだ。俺に伺いを立てれば、こんな恥ずかしい硬貨や通貨単位は絶対OKしなかった。俺が居ないうちに根回しして一気に施行してしまったんだ。
新太は冷や汗が出た。メリッサ、恐ろしい子!・・・と。
「こんな素敵な硬貨、わたくしも欲しいですのー!」
「貴女は次の給料からこの新硬貨で支払われますから、それまでお待ちなさい」
「やー!今!今欲しいですの!一枚!一枚だけでもー!」
俺がフリーズしていたせいか、革袋の財布を俺から奪い取り、フライドポテト屋の親父に代金を支払うメリッサにドロステラがまとわりつく。どうしても新しいアーラ金貨が欲しいようだ。
「くださいましー!」
ドロステラの絶叫はメリッサが根負けして一枚金貨を渡すまで続いた。
「うふふっ、うふふっ」
大事そうに両手で金貨を持ったまま歩くドロステラ。
ちゃんと前を見て歩かないと危ないのでは・・・と心配する新太であったが、ドロステラに声をかけてもあまり反応がないので放っておくことにした。
不思議なもので、隣に本物の新太がいるのに、なぜ新太の顔が彫ってあるとはいえアーラ金貨に夢中なのか。新太は不思議であったのだが、魔国に帰って来た時に、真正形態から魔王シルエット形態に戻ってしまっていたので、素顔が彫ってある金貨に夢中なのでは、とまで気を回すことはできなかった。
実際は顔がどうこうというよりも、いつも新太のそばにいたいと願うドロステラにとって、新太がたとえいない時でもより近くに感じることが出来るアイテムとして、金貨がとても大事な新太グッズに感じられたのであった。
街並みを一通り見て、魔王城へ戻ってきた新太一行。
兵士訓練場ではすでにワイバーンで運んできた鉄籠も片付けられ、兵士たちが訓練を再開していた。
「おおっ!アニキお帰りなさいませ!」
テンション高めで走ってきたのは魔国十二将軍の序列十二位、獅子王ダルカスであった。同じく序列九位のオーガキング・クーガーとともに一般兵の強化を担当していた。
「んんっ?なんですか、アニキの後ろにぞろぞろと続いている人間どもは?」
自分も魔王新太のそばにいたいのに、仕事があるからなかなかそれもままならないと思っているところへ、なぜか魔王新太と大勢の人間が一緒に歩いてきたのだ。獅子王ダルカスは少々剣呑な雰囲気を出した。
「ああ、彼らは人間族だが、我が国で働いてもらうことになった。約二千名の兵士たちだ。よろしく頼むぞ」
「よろしく頼む・・・って、ひ弱な人間の兵士なんざ役に立たねーんじゃねーですか?」
おおよそ魔王様にきく口のきき方ではないのだが、もともと獅子王ダルカスに礼儀は求められていなかった。
「なんだとっ!」
色めきだったのはやはりコルネリアスだった。
「ああ~ん、ひ弱な人間が何偉そうな口きいてんだよぉ」
睨みを利かす獅子王ダルカス。一般兵たちはジリッと押されるような感覚に襲われるが、幹部クラスは負けてはいないようだった。
「おいダルカス。俺はいつも種族差別をしないって言っているだろ・・・?」
ズオンッ!と魔王新太から濃密な魔力が漏れ出す。
「あああ、アニキの言葉なら覚えてるって!ちょっと気合を入れてやろうかと思って・・・」
あたふたしながら言い訳するダルカスを見ながら、新太はグランリスタに提案を出した。
「グランリスタ将軍、こいつは魔国十二将軍の序列十二位の獅子王ダルカスです。一応まがりなりにも最底辺ではありますが、これでも将軍職を務めておるのですよ」
「いや、アニキ、その言い方はちょっと・・・」
魔王新太の鬼説明にだいぶへこむダルカス。
「どうでしょう? 一つ模擬戦でもいかがですかな? 少し体を動かしておかれる方がいいでしょう」
にこやかに笑みを浮かべる魔王新太。だが、今のシルエット姿は結構邪悪な笑みを浮かべているように見えた。
「・・・そうですな、少し体を動かすとしましょうか」
そう言って背負った大剣、<竜の牙>を取り出す。鞘からは刃を外さないで片手に持った。ロックがかかっているのか、片手で持っても鞘が落ちることはなかった。
「ほーう、俺とやろうってのか、アニキの前でいいカッコして売り込もうって魂胆だろうが、そうはいかねぇなあ!」
両手をボキボキと鳴らしながら首を回す獅子王ダルカス。
いや、お前が魔王様の前でイイカッコしたいだけだろ・・・と周りの同僚たちは一斉に思った。
少し離れて対峙する二人。
先に動いたのは獅子王ダルカスだった。
「ガアアッ!」
その爪と牙で喉元に食らいつくかの如く突進した獅子王ダルカスだったが、真一文字に<竜の牙>を構えたグランリスタに止められる。
ガシイィィィン!
ズズズズズッ!
獅子王ダルカスの勢いは<竜の牙>を構えたグランリスタごと押し込んで吹っ飛ばすのかと思いきや、その突進がグランリスタの踏ん張りによって止まる。
「!?」
「はあっ!」
グランリスタの横なぎ一閃!
今度は獅子王ダルカスが吹き飛ばされる。
素早く空中で体勢を立て直し、地面にスタッと立つ獅子王ダルカス。
魔国兵からもグランリスタの部下たちからも「おおっ!」と歓声が上がる。
「ヘッ!ちったあやるじゃねーか。そうじゃなきゃ面白くもねえってもんだ!」
そう言って低い構えから突進の体勢を作る獅子王ダルカス。
グランリスタも無言で抜き身の位置に<竜の牙>を構える。まるで居合いの構えのようだ。
「いくぞぉらぁ! <牙狼襲爪拳>!!」
爪で襲うのに拳なんだ・・・と、どうでもいいことを考えながら見守る新太。
ギャンッ!
まるで一陣の疾風が如く、再びグランリスタの喉笛を狙う獅子王ダルカス。
コイツ、模擬戦の意味わかってんのか・・・と些か不安になりながらも、新太はグランリスタの実力に疑いを持ってはいなかった。
僅かに首を捻り、獅子王ダルカスの爪の一撃を躱すとともに、<竜の牙>を鞘ごと思いっきり振り抜き、獅子王ダルカスの胴を薙ぐ。
その己自身の突進力すら利用されて撃ち抜かれたダルカスは、
「うぼぉ!」
と出してはいけないものを口からまき散らしながらドウッと倒れた。
グランリスタの部下からは歓喜の声が、獅子王ダルカスの部下からは悲鳴が沸き上がる。
この一戦で人間ながら魔王新太に連れてこられたグランリスタと言う騎士は手練れである・・・と魔国兵たちに知れ渡ることになった。
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