第5話 謀反
今回、魔王様がマジ切れします。
私のつたない文章では大したことないと思いますが、マジ切れした魔王様はちょっと乱暴です。
チンピラ系言葉遣いと暴力描写が苦手な方はお気を付けください。
「よう、魔王さんよ」
大魔道との打ち合わせを終え、会議室から出て来た俺を待ち受けていたかのように声をかけるものがいた。
振り返ると、そこには獅子王ダルカスとオーガ族族長のクーガーが居た。
獅子王ダルカスは腕を組み仁王立ちしている。
明らかにこちらに不満があって待ち構えていた感じだよね。
「何だ?」
俺は努めて偉そうに聞く。
ちなみに俺の隣にはなぜか一緒に出て来たサキュバスのドロステラさんがおられます。
嬉しいけど。
「随分といきなり方針変更しちまったじゃねーか、魔王様よ。何かあったのかい?」
獅子王ダルカスが何かを疑うかの如く問いかけてくる。
さっきまでお前スーパー脳筋だったじゃねーかよ!
何で急に鼻が利くようなキャラになってんの?
「落ち着いて考え直せば、無理無茶無駄の3拍子揃った侵攻作戦だったからな。大事な部下のお前たちをそんな戦で危険に晒すわけにはいかん」
「おお、魔王様・・・」
あれ? オーガ族のクーガーさんちょっと感動してない?
かなり単純なお方でしょうか。
あ、ドロステラさんも胸の前で両手を組んでニコニコこっちを見てくれているな。
ムギュってなってます!ムギュって。
「でもよー、魔王様。人間どもをボテくり回したるって意気込んでたじゃねーか。180°方向転換ってそりゃねーんじゃねーの?」
ボデくり回しなんて、俺どんだけ野蛮な野郎だったんだよ!?
ダルカスと意気投合して人間の国へ攻め込もうとか話してたって、かなりヤベー奴だな、魔王。宰相ドラグロアもこんな脳筋だったら、ホントヤベー通り越してこの国終わってんぞ。
「時に立ち止まり振り返ることも重要だ。初志貫徹も大事だが、俺の双肩には魔国のみんなの生活がかかっているわけだしな。常に何が最も効果があるか、検討しながら戦略を練って行くことにするよ」
努めて平静に話をしてみる。
「あー、よくわかんねーが、いろいろ考えまくって日和っているようにしか見えねーな」
ダルカスが馬鹿にしたように言い放つ。
「何ですって! 言っていい事と悪い事があるわよ、ダルカス!」
ドロステラさんがダルカスにすごんでくれる。ちょっとうれしい。
「はっ! 腰抜けの魔王様よ。まさか忘れたわけじゃあるめーな?」
ドロステラを無視して俺に話しかけるダルカス。
忘れたって・・・何を?
「何をだ?」
「魔王の立場は実力を持って決めるって話だよ」
ニヤリと口角を上げるダルカス。ライオン顔がニヤつくと悪い顔になるねー。
「そうだったか?」
惚けたように答える。だって、知らねーし、俺。
「おいおい、まさか尻尾撒いて逃げるってのか? 魔王様もヤキが回ったんじゃねーか?」
さらに馬鹿にしたように挑発を続けるダルカス。あまり相手にしない方がいいか。
「まあ、好きにしてくれよ」
と言って手を振り、背を向けてこの場から去ろうと歩き出す。
ドズゥッッッ!
気づくと、俺の胸から手が生えていた。
ブシューッっと黒い血が噴き出る。
大丈夫か!俺。黒い血って!
しかも俺のと思われる、黒い心臓を握りしめている。
「キャアアアア! 魔王様!」
「ダルカス、お前・・・」
ドロステラが悲壮な叫び声をあげ、クーガーが呆然となるのを横目に見ながら、ゆっくりと背後のダルカスに顔を向ける。
「ク~ックック! 油断しすぎじゃねーか魔王様よぉ! この先は俺様が魔王になって人間どもを駆逐してやるから、安心して逝ってくれや!」
抜き手で俺の胸を後ろから貫通した上で、俺の心臓を握りつぶす。
あ、すっげーイラついてきた。
何でこんなめんどくせー脳筋に絡まれなきゃならないんだ?
言うことを聞かない駄犬は躾が必要だってことか・・・。
「逝くって、どこ逝かせるつもりだ、あぁ?」
「「「えっ・・・?」」」
そこにいた3名が全員言葉を揃えて疑問符を打つ。
明らかにダルカスが魔王様の背後から抜き手を貫通させ、心臓を握りつぶしたのを目の前で見たのだ。それなのに魔王様はなんら変わることなくダルカスに振り返る。
「人の言うことを聞かねーめんどくせぇ駄犬がよお! 俺に偉そうにケンカ売ってんじゃねーよ!」
急にマジ切れした魔王様は右手でダルカスの顔を掴む。アイアンクローである。
メキメキメキィ!
「ぐわわわわ!」
すさまじい音がして魔王様の指がダルカスの顔に食い込む。
そのまま大きく振りかぶり、床にダルカスの顔を叩きつける。
勢いよく振り回されてダルカスの抜き手が魔王様から抜ける。
ドカン!ドカン!ゴカン!
アイアンクローを決めたまま、何度も床に叩きつけては持ち上げ再度叩きつける。
床の石材がひび割れ砕け始めてもお構いなしだ。
修理費はダルカスの給料から賄おう。
「ゲフゥ!グフゥ!」
何だかよくわからないうめき声をあげるダルカス。
「駄犬が! 反省したら態度で示さねーとわからねぇだろうがよ!」
呆然と見つめるクーガーとはらはらしながら見守るドロステラ。
「な、なぜ・・・。心臓を握りつぶしたのに・・・」
息も絶え絶えにゼハーゼハーとダルカスが呟く。
「あぁ? 魔王ともあろうものが、心臓の1つや2つ潰されたって死ぬわきゃねーだろーがよ!」
ガバァ!っと右足を上げながら言い切る。
「「ええっ?」」
ドロステラとクーガーは存外に「本当かよ!?」って反応を示している。
俺はズトン!っと踵落としの要領でダルカスの横顔に踵を落とし、踏みつける。
「グガッ!」
ダルカスの歯が折れ飛び散る。
獅子王だけあって犬歯みたいな鋭い牙が散らかった。
そのままダルカスの顔を踏みつけながら会話を続ける。
「で、お前が魔王になるってか?」
踵でグリグリしながら聞く。
「お前が魔国12将軍を纏めて人間の国へ攻め込むってか?」
さらにグリグリを強めて聞く。
「アガガ・・・、俺が間違ってました! すんませんしたー!」
ほぼ絶叫に近い形で謝るダルカス。
「よく聞け駄犬! 俺に二度目はねぇ! 絶対にな。次俺に歯向かってみろ、てめぇ、ケツから串ブッ刺して丸焼きにしてやるからなぁ。俺は喰わねーけど」
劇的に下げずんだ目で足元のダルカスを睨みつける。
「ら、ラジャー!!」
踏まれたまま敬礼を返すダルカス。お前、そんな面白キャラだったのな。
「わかればいい」
来るっと踵を返し、その場を去る俺。
ちょっと怖い雰囲気出しすぎたかなぁ・・・。反省せにゃ。
後で驚かせちゃったドロステラさんには差し入れでも持っていくか。
・・・・・・
「大丈夫ですか?」
いつの間にか現れたメイド長のメリッサは懐からポーションの瓶を取り出したかと思うと、地面にひれ伏したままのダルカスに無造作にバシャバシャとかける。
「ウググググ・・・」
やっと起き上がるダルカス。
「死ぬかと思った・・・」
顎を擦りながらぼやく。
「馬鹿ですか?あなたは。覚醒した魔王様にケンカを売るなど、自殺行為にも等しいですよ」
メリッサの言葉にその場の3人が目を剥く。
「か、覚醒したって・・・?」
ドロステラがその言葉の意味を捉えようとメリッサに詰め寄る。
「今日の魔王様、明らかに今までと違っていたではないですか。気が付きませんでしたか?」
「いえ・・・明らかに何か違うと・・・、でも、急に優しくなって思慮深い感じで、なんだかカッコ良くて・・・」
クネクネし出すドロステラに「んんっ!」と咳払いをして突っ込むメリッサ。
「その通りです、完全に!完璧に!究極に! 魔王様はその隠された潜在能力を100%開放されたのです!」
胸の前で両手をグーにして力を入れたかと思ったら、全力で両手を広げて全開をアピールするメリッサ。
その勢いに押され、3名とも「「「おおっ!」」」などと納得し出している。
「とにかく、魔王様が潜在能力を全開で解放されたのですから、我々は魔王様に全力で付いていかねばならないのです。いいですか駄犬! 飼い犬が手を噛むような真似は今後許しません。わかりましたね」
「お、お前まで駄犬言うな!」
ポーションで回復してもらった恩はあるが、駄犬はねーだろ!と思うダルカスだが、
メリッサを見るとマジ切れ寸前で睨みを聞かせていたので二の句が継げない。
「次魔王様に楯突いたら、永遠に食事抜きにしますからね・・・」
「ハ、ハイッ!」
メリッサのハイライトの消えた目で睨まれたダルカスは背筋を伸ばして裏返った声で返事した。
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