第51話 到着した魔国の援軍は?
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「ハアッ!」
「リャア!」
ゲルリックが先制の槍を一突きするのとほぼ同時にゲルダーが右から戦斧を振るう。
だがグランリスタはその大剣で難なく槍も斧もはじき返す。
何度か打ち込みながらその様子を伺うゲルリックとゲルダーだが、グランリスタの隙どころか、その場から足すら動かせていないことに気づき、改めて将軍グランリスタの実力に戦慄を覚える。
ちらりとアイコンタクトで次の戦略を立てるゲルリックとゲルダー。
「はりゃあ!」
一呼吸で十は突こうかというゲルリックの高速連突きでグランリスタの正面に穂先の弾幕を張る。
その背後から右に回り込んだゲルダーがその巨躯に似合わず俊敏にしかも地表すれすれから斧の一撃を見舞う。狙いはグランリスタの足である。
だが、その大剣のわずかな操作で穂先を全弾いなすと、足を狩りに来た斧を大剣で十全に受け止める。
ガキィィィン!
大剣に斧がぶつかり、派手な音を立てる。
「なんともはや見事な剣さばきであるな。大剣をまるで手足のように扱うとは」
「だが、感心しているばかりにもいくまい」
感嘆するゲルリックに苦言を呈するゲルダー。
再度攻撃を仕掛けるが、槍も斧も自由自在に操られる大剣に悉く攻撃を撃ち落とされ、グランリスタに傷をつけることはかなわない。そしてそのうちにゲルリックとゲルダーの息が上がってくる。
「ぬうっ!これほど攻撃を仕掛けても大剣の防御を掻い潜れぬとは!」
「こうなれば、一撃の威力が高い戦技で攻撃するほかあるまい」
ゲルリックとゲルダーはそれぞれ再度アイコンタクトからどのように攻めるか瞬時に判断する。
「槍技:土竜旋風!」
「斧技:覇王両斬撃!」
ゲルリックが自身の槍を右下から地面を抉る様に振り抜く。
地面に穂先が当たり、爆発的な衝撃とともに土や石がグランリスタを襲う。しかも土を煙幕として槍での追撃を行うゲルリック。
そして正面の視界を塞がれた形になったグランリスタの頭上を狙うべく、大きく振りかぶった戦斧を振り下ろすゲルダー。
ドズゥゥゥゥゥン!
だが、斧が地面を叩き、土煙の中につき立てた槍は何物も捕らえることが出来なかった。
土煙立ち込めるその場にグランリスタの姿はなかったのである。
「き、消えた!?」
「バカなっ!?」
姿を見失い、一瞬のスキができるゲルリックとゲルダー。
グランリスタはすでに宙を舞っていた。
「ま、まさか空かっ!!」
「し、信じられん!!」
フルプレートの重装備でありながら、グランリスタは宙を舞っていた。
「剣技:飛閃衝波!!」
空中から振り抜かれた大剣が繰り出す圧倒的な衝撃波にゲルリックとゲルダーはなすすべもなく体を切り刻まれ吹き飛ばされる。
「ぐふっ!」
「ぐはっ!」
多くの傷は比較的浅いのだが、その衝撃と出血でふらつき、力が入らない二人。まだ武器を握りしめていること自体が奇跡である。
「どうかね、これで勝負はついたと思うが?」
「・・・異論はない」
ゲルリックが槍を杖代わりに地面を支えて片膝をつき、体を起こす。
ゲルダーも戦斧を離さぬまま上半身を起こそうとしていた。
「では、献上の塩を頂きたい」
「それは出来ぬ」
グランリスタ将軍の問いかけにきっぱりと否定の意を伝えるゲルリック。
「卑怯者が!魔物は約束すら守れないようだな!」
副将のコルネリアスが怒鳴る。
「もとより、一騎打ちの約定など決めてはおらぬよ」
ゲルリックの言葉にコルネリアスも気づく。
グランリスタ将軍の問いかけに二人は呼応したが、約定は決めていなかった。
「だがお前たちは負けたんだ!こちらの要求を飲んだらどうなんだ!」
コルネリアスは勝者の権利を主張した。
「確かに我らは負けた。将軍殿も手ぶらでは帰れぬとのこと、ならば我らの首を持って行け」
「な・・・なんだと?」
コルネリアスはこのオークが何を言っているのかわからなかった。
塩を差し出せばこの場は少なくとも誰も死なずに済むのである。それを拒否して首を持って行け、などと・・・。
「貴殿もそれでよいのか?」
やっと起き上がってきたゲルダーの方に視線を移し、グランリスタ将軍は問いかけた。
「もとより承知。我ら部隊は魔王様よりソルテア国を守護するよう命を受けている。我ら3000の兵全軍討ち死にしようと貴殿の国には塩の一粒も渡さぬ」
恐るべきゲルダーの威圧にコルネリアスたち騎士が怯む。
「此度の変則一騎打ちは将軍殿が手ぶらでは帰れぬと申されたのでその顔を立てたまでの事。我らの首はともかく、魔王様が決められし事を我らごときが曲げられようはずもない」
「く、首はともかくって・・・」
首が無くなれば死んでしまうじゃないかと思うコルネリアスだが、このオークたちは命より魔王の命令とやらの方が大事らしい。
「ゲルダーさん!死んじゃダメです!!!」
「ゲルリックさん死んじゃやだー!!」
城壁から女性たちの叫び声が聞こえる、見ればゲルダーを慕っているハンナとゲルリックに気に入られようといつも纏わりついているマーレが涙を流しながら声を上げている。
「生きて必ず帰って来るって約束したじゃないですか!」
「ゲルリックさん死んじゃやだー!!」
大声を上げて泣きながら今にも城壁を降りて外へ飛び出してきそうな勢いの二人だったが、かろうじて他の女性たちに抑えられている。
「貴殿たちは随分と女性に慕われているようだな、よいのか?」
大剣を振り上げ、グランリスタ将軍が再度問いかける。
「武人として魔王様より職責を賜った時より覚悟の上。是非に及ばず」
ゲルダーは心の中でハンナに謝罪するも、己の武人としての矜持を曲げることはなかった。
それはゲルリックも同じであった。
「見事なり。これ以上は貴殿らの矜持を傷つけることになる」
グランリスタ将軍は大剣を振りかぶった。
キィィィィィィィィン!!
「むうっ!!」
ドズゥゥゥゥ!!
ゲルリックとゲルダーは目の前にいた敵将軍が一瞬にして退いた理由を見た。
白く煌めき輝く大剣が地面に突き刺さっている。
空から凄まじい勢いでこの剣が降って来たのだ。
「なんとか・・・間に合ったか・・・」
「うむ・・・お咎めは覚悟せねばならんが・・・」
ゲルリックとゲルダーはお互いホッとしたように、それでも深い溜息を吐く。
随分と豪華な剣が降って来たが、一体誰が助っ人でやって来てくれたのか・・・。
「「!!」」
黒いマント、黒い鎧、その背には艶めく四翼が静かに揺らめいている。
頭には銀色に輝く角が鎮座する
「「ま、魔王様!!」」
血だらけのゲルリックとゲルダーだが、慌ててその姿勢を整える。
主力クラスが援軍に来てくれればと思ってはいたが、それでも魔国十二将軍の下位だろうと思っていたのだ。それがまさか魔王様自身が援軍に来られるとは・・・。
二人は信じられない思いで新太の背中を見つめた。
「・・・・・・」
グランリスタは一言も発することなく、目の前に現れた存在を見極めようとする。
「こ、これが魔王?」
コルネリアスは目の前に突然現れた細身の男が魔王だとは俄かに信じられなかった。
「本当にお前達は・・・お前達の命より重い命令などないと伝えただろうが」
深々と溜息を吐きながらぼやく魔王様。
「も、申し訳ございませぬ・・・」
ゲルリックとゲルダーが深々と頭を下げる。
姿を現した魔王新太の左右にはさらに魔国十二将軍序列五位、サキュバスのドロステラ・フル・レミントルグと序列七位、アークエンジェルのセーラ・ガルウイングがふわりと寄り添うように現れる。
「う、美しい・・・」
騎士団の誰かが、思わず心の声を漏らしてしまう。
「さて、自己紹介しようか? 私が魔国シャングリ・ラを統べる魔王新太である」
ドヤッという表情で自己紹介をする魔王様。
「魔国十二将軍序列五位、ドロステラ・フル・レミントルグですわ」
「同じく魔国十二将軍序列七位、セーラ・ガルウイングだ」
「さて、話の前に教育の足らない部下どもの傷を治すとしよう、セーラ頼む」
「ははっ! 深淵にありし神々の御手よ。御身の慈悲に縋りて、この者を癒し給う。<大いなる癒し>」
セーラの唱える<大いなる癒し>の強烈な光がゲルリックとゲルダーを包む。光が消え去ると二人の傷も完全に癒えていた。
「なんだとっ!」
コルネリアスが驚きの声を上げる。
あれほどの重傷を一瞬にして回復させる回復魔法の使い手がはたしてゲンプ帝国に何人いるだろうか?魔国の戦力の厚さを思いコルネリアスの背中には冷たい汗が流れた。
魔王新太は騎士たちの横にいたボーデックに近寄って行く。将軍グランリスタ、副将コルネリアス、千人隊長ソードレイの横を悠々と素通りし、百人隊長のザグレブの横にいたボーデックの肩に手を当てる。
「ボーデック、良い仕事であった」
「ま、魔王様・・・!」
ボーデックはその言葉だけで感動で胸がいっぱいになった。自分の仕事を魔王様に認めてもらえた。その一点に置いて、自分の人生に悔いがないと思えた。
「神の慈悲よ、我が願いを聞き届け、この者を癒し給え<癒し>」
ボーデックの折れた指を治す魔王様。
「ま、魔王様、このような傷まで・・・お手を煩わせてしまいました」
項垂れるボーデックの肩を叩き、陣地に戻る様に促す。
だれも勝手な事を、とツッコミを入れるものはいない。
そして隣にいたザグレブを見る。
「君がボーデックの指二本をへし折ったのかな?」
ニッコリしながら問いかける魔王様。
「あ、いや、まあ流れの中でそういう事に・・・」
しどろもどろになるザグレブに魔王様が握手を求めた。
「君たち人間とは仲良くやりたいと思っていてね。そういう意味でも借りは嫌いなんだ」
「はあ・・・」
何気なく差し出した右手を魔王新太は瞬時に握りつぶした。
グシャリ!と嫌な音が響く。
「ギャアアアアアアア!」
離した右手は骨が砕け皮膚から飛び出してめちゃめちゃになっていた。
「うぐぐ・・・」
脂汗を滝の様に流しながら右手首を左手で掴むザグレブ。
「貴様っ!」
腰にぶら下げた剣の柄に手を掛けてコルネリアスが魔王を睨む。
だが、コルネリアスは剣を抜くことが出来なかった。魔王の覇気に、抜けば瞬時に自分に死が訪れる事を体が理解してしまったのだ。
「だから、借りは嫌いなんだ」
「か、借りにしては随分とお返しが多いような気がしますわ・・・」
脂汗を流しながらも魔王様に軽口を返すザグレブ。
「借りた物には利子が付くのだろう?」
事も無げに魔王は語る。
だが、セーラにチラリとアイコンタクトを送る。
それだけでセーラには意図が伝わる。
「深淵にありし神々の御手よ。御身の慈悲に縋りて、この者を癒し給う。<大いなる癒し>」
光に包まれ瞬時に治るザグレブの右手。
「・・・ふう・・・、治してもらったのは感謝しますがね・・・」
「言ったろう?借りは嫌いなんだ」
ザグレブは魔王のセリフに苦笑する。
「どうして魔族が神の聖なる力を使えるんだ・・・」
コルネリアスが信じられないものを見るような目でセーラを見る。
「貴様、随分と視野が狭い様だな。この世界に神がただ一柱だけだとでも思っているのか?」
蔑むような目でコルネリアスを見るセーラ。
「ははっ、セーラの存在を知ったら度肝剥くだろうな、この小僧は」
「魔王様、余分な情報は不要にございます」
魔王の軽口に優雅に頭を下げて、それでも魔王にクギを刺すセーラ。
「さて、君たちと話し合いたいのだが、良いかね?」
あくまでものんびりとした雰囲気を崩さないまま魔王新太は話を進めようとする。
「何を話し合うつもりだ!ちょうどいい!貴様をここで倒せば憂慮は晴れる!」
今度こそコルネリアスが剣を抜き放つ。
「先ほど死の入口を垣間見た割に元気な坊やだな」
魔王新太は肩を竦めた。
「俺は元より、セーラだけでも、ドロステラだけでも、問題ないが、君たちはもっとはっきりと力の差を認識しやすい方がいいだろう」
そう言って魔王新太が自分の頭上を真っ直ぐ指さす。
「グギャ―――――!!」
そこにはワイバーンに乗った騎士たちが10人ほど空を飛んでいるのが見えた。そしてその中にひと際大きい竜に乗った黒い騎士が見える。その竜は明らかにワイバーンではない、本当の竜であった。
「ばっ、ばかなっ!」
ソードレイが初めて口を開いた。
「飛龍に乗った竜騎士の軍団だと!?」
「他の国ではどうか知らないが・・・」
話始めた魔王新太に注目が集まる。
「我が国では竜騎士は4名のみだ。それぞれが<古代竜>を従えている。ワイバーン程度を駆る騎士は竜騎士とは呼べんよ。飛竜隊とは呼んではいるがね」
「<古代竜>・・・」
コルネリアスに続いてソードレイすらも冷汗が止まらなくなる。伝説の<古代竜>が姿を現したのである。その竜の息吹一つで騎士団は壊滅しかねなかった。
ドズゥゥゥゥン!!
巨大な竜と10匹の飛竜が地面に降り立つ。
<古代竜>から降りて来たのは魔国十二将軍序列二位の竜騎士シェタッフガルドであった。
「さてと、改めて話し合いを行おうか?」
ニッコリと魔王新太は笑った。
「まおテン!」よろしくお願い致します。
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