第50話 武人としての矜持
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「・・・ほう、ボーデック殿はソルテア国と友好関係を築き、国交を結んだ友好国として、魔国シャングリ・ラより派遣された駐屯兵、と言う事になるのですかな?」
「ええ、そういう事になります」
ソルテア国へ向かう街道。山奥深く、幅はあまり取れず、片側は崖に近いところも多い。
騎士団には魔法を使える者がおらず、ボーデックの折れた指は応急処置で対応している。
現在はグランリスタ将軍を先頭に二千の騎士たちが馬に乗ってゆっくり足を進めている。
何故ならボーデックが徒歩でゆっくり歩いているため、それに合わせているのだ。
(このオーク、わざとゆっくり歩いて時間を稼いでるんじゃないのか?)
(そうかもしれへんけど、馬がないからはよ歩けや、とは言えまへんで)
(くっ・・・このままでは万全の態勢で敵が待ち受けていることになる!)
(まあ、それを食い破るのが俺らの仕事っちゃ仕事やけどもなぁ)
副将コルネリアスと百人隊長ザグレブが小声で話している。
その後ろから千人隊長ソードレイがジッと観察するように馬の脚を進めている。
「それで、今の魔国は魔王殿が国を纏めておられるのですかな?」
「ええ、その通りです。少し前まで、無秩序とまでは言いませんが、各々が勝手な判断をしていた時期もありましたし、人間国へ攻め込むと、戦争を決定する直前までいったこともありますよ」
「なんと!」
(マジかよっ!)
(こら、トンデモない情報ですわ)
「ですが、今の魔王様に代わられてから、魔国は、我々の生活は一変しました」
「・・・どのように?」
「我ら魔族は人間に今の北の大地に押し込められた、と言った感覚を強く持っている者達が多かったのです。北の大地は貧しく、我々は貧困に喘いでいました。
我々は人間国に戦争を仕掛け、食料を奪わないと生きて行けない、というところまで追いつめられていたのです」
「・・・・・・」
グランリスタ将軍は馬の脚をゆっくり進めながらも、顔を顰める。
人間が魔族を北の大地に追い詰め、抜き差しならないところまで来ていた事に気づけなかった。
「ところが、今の魔王様が魔国をまとめた時に、「人間は滅ぼさなくてもいい」と言ったんですよ」
「ほう!」
「人間とはうまく共存するべきだと・・・特に人間は優れた生活技術を持っており、経済を通じて取引を行い、信頼を得て国と国が付き合えることをめざす、と申されました」
「なんとっ! 国と国とが付き合えるように・・・ですか」
グランリスタ将軍は驚いていた。
長き戦場での生活の中で、魔物でも上位の者や魔族は普通に人間と同じ言葉を操り、コミュニケーション能力がある事を知っていた。
だが、魔王が人間の国と国で付き合う事を目指しているとは・・・。
「魔王とはどのような方なのですかな?」
「魔王様の深慮遠謀は我などお呼びもしないゆえ、何とも言えぬところではありますが・・・。痩せて作物も碌に取れぬこの北の大地でも栽培できる『ジャガーイモ』という芋を主食に据え、間引きした魔獣の肉なども加工し、実際に食糧難を乗り切ってみせたのです。おかげで今は魔国に餓死者は出ていないのですよ」
「それは素晴らしい英断ですな」
グランリスタ将軍は素晴らしいと思う反面、自国の改革を進め、結果を出すことによって国を纏めている魔王の手腕に危機感を抱いていた。
本当に人間国を攻めずに、共存を望む存在なのか・・・。
「ああ、そういうわけですので、ソルテア国は魔国シャングリ・ラにとって初めて国交を結んだ友好国になります。グランリスタ将軍殿の人柄は疑う余地も無いところでしょうが、その前までのゲンプ帝国使者がどう考えても盗賊やならず者の集団であり、国同士の話を行えるような状況になく、またこちらの警告を無視して城へ攻め入って来ましたのでな、これまでは迎撃をせざるを得なかったのが実情です。
余りに傍若無人で、女を連れ去っては犯すなど無法を繰り返していたとのことで、我らが駐屯を始めてからは厳しく対応させて頂いております」
「その件につきましては我が帝国の非礼を詫びねばなりません。末端の兵まで教育が行き届かず恥じ入るばかりです」
「グランリスタ将軍が恥じ入る必要などないとは存じますが・・・。ただ、使者として来られたとのことですので、先に伝えますが、すでにソルテア国、国王シュヴァルツ・ガルム・ソルテア殿はゲンプ帝国からの圧政ともいうべき干渉を断ち切り、国交を断絶し、魔国との国交を樹立した経緯がございます」
「なんだとっ!」
大きな声を上げたのは副将コルネリアスであった。
「ならば、貴様らはゲンプ帝国への塩の献上を行わないということかっ!」
激高に近い反応を見せるコルネリアス。
「献上・・・という言葉がそちらのお立場になるのですかな? ソルテア国国王であるシュヴァルツ殿の話では、元々ゲンプ帝国側が塩を買い上げ、野菜や肉など、食料をソルテア国がゲンプ帝国から購入するという関係だったとお聞きしております。それがここ二年で、戦える男衆たちは徴兵協力との名目でほとんどが連れ去られ、戦力の落ちたソルテア国はゲンプ帝国の傍若無人な要求に抗えなくなっていったと」
「小国が大国に呑まれるのは世の常であろうよ」
副将コルネリアスが吐き捨てる様に言う。
「その呑まれる小国の女性たちがひどい目にあったり、小さな子供たちが飢えても、世の常であると?」
「むっ!」
オークであるボーデックにジロリと睨まれるコルネリアス。
「よさぬか、コルネリアス」
「しかしっ!」
(しっかし、副将殿は、うまくいきそうならソルテア国に亡命するって話、忘れとるんやないやろうなぁ?)
ザグレブはコルネリアスの反応に不安が募る一方だった。
「報告します!」
ザグレブが先行して偵察に出していた斥候が戻って来た。
「どんなもんや?」
「ソルテア国城門前に一団となってオークの兵が集結しております。全てのオーク兵が槍と盾を装備しており、その数は約三千!」
「な、なんやとお!?」
「馬鹿なっ!こちらよりも数が多いのか!」
ザグレブとコルネリアスが揃って大声を上げる。
「ふむ、ボーデック殿の指示がきちんと伝わっているという事ですかな?」
「いやいや、私からの情報は将軍の率いられている騎士団の規模のみです。ですが、将軍は元より、部下の騎士たちの方々も一騎当千の猛者ばかり。だいぶ過剰な反応をしている事は否めませんな。よろしければ先に声を掛ける様に致しますが?」
「それで、そのまま陣地に逃げ込もうってか?」
ボーデックの言葉にグランリスタではなく、コルネリアスが先に反応する。
「貴殿らは自分たちを率いる将軍の力を信じぬのか?」
ボーデックがやれやれと言った感じでコルネリアスに告げる。
「なんだとっ! 誰よりもグランリスタ将軍を俺は信じているぞ!」
「なら、俺ごときが走って逃げようと、何をしようと将軍殿には蚊ほども影響がない事ぐらいわかるだろう」
「うぐっ・・・」
そう言われれば二の句が継げないコルネリアス。
間違いなく走って逃げようとグランリスタ将軍なら追撃の一撃で仕留められるだろう。
だが、敵を後ろから打たないのもまた将軍だ。
その将軍の気質を見抜いているのでは・・・とまたもボーデックを睨む。
「うむ・・・、なかなか堅固な布陣だな。明らかにこちらの騎兵としての突破力を意識しての陣立てだな」
グランリスタ将軍は目の前に広がる密集したオーク兵の堅固な布陣を見て感嘆の声を上げる。
「無事か! ボーデック!」
密集体型の布陣から二人のオークが歩いて出てきた。
一人は槍を、一人は斧を持っている。二人ともフルアーマーを装備した、一目でこの軍の指揮官だと分かる男たちだ。
「うむ、心配をかけた。一応捕虜と言う立場になっている」
「・・・そうか。まあ、生きているならばよい。して、そちらはどなたであろうか? 何用でこのソルテア国へ軍を進められた?」
槍を持つ方のオークが声を掛けてきた。
「我はゲンプ帝国にて将軍の座を預かっている、グランリスタ・フォン・ゴッセージと申す。此度はゲンプ帝国皇帝ドムゲスタ様より勅命を受け、ソルテア国へ使者として参った。ゲンプ帝国への塩の献上が滞っている件について確認をされたい」
「塩の献上?」
「我らはゲンプ帝国から金も払わず強制的に塩を詐取されていると聞いているが?」
「それは見解の相違があるかもしれませんな」
馬上から降りずに、腕を組みながらグランリスタは視線を空に彷徨わせた。
「見解の相違で済むような問題ではない!」
いきなりの怒声が上がり、何事かとゲルリックとゲルダーが振り返れば、そこには城から一人で出て来ていたソルテア国、国王シュヴァルツ・ガルム・ソルテアがいた。
「国王殿!最前線に出て来られては危険ですぞ!」
「そうです。御身に何かあればソルテア国が立ち行かなくなりますぞ!」
ゲルリックとゲルダーは国王シュヴァルツの軽率な行動を注意するが、当の国王様は意に介さない。
「なんのなんの、こんな枯れた王の身など何の役にも立ちますまい!魔王新太様がおられれば何の心配もしておりませぬぞ」
そう言って豪快に笑う国王シュヴァルツ。
(なんとっ! そこまで魔王の存在を信用しているというのか・・・)
グランリスタは正直驚いていた。魔国との国交などと言ってはいたが、実際は力づくでの支配ではと勘繰っていた部分もあったからだ。だが、それは間違いだと思い知らされた。
「グランリスタ将軍、二年前の先代から代わり、ゲンプ帝国は悪い方に大きく変わってしまった。ソルテア国はゲンプ帝国の盗賊のような先兵に蹂躙され、男は戦争の先兵として無理やり連れて行かれ、女はゲンプ帝国の兵士に何人も酷い事をされて来た。だが、そんな我らを魔国シャングリ・ラの人々が救ってくれたのだよ。これ以上将軍に何か言う事があるかね?」
辛く踏みにじられて来た日々を思ってか、ボルテージを上げて言葉を紡ぐ国王シュヴァルツ・ガルム・ソルテア。
「そうか・・・、ソルテア国側の状況は分かった。だが、ワシもはいそうですかと自国へ戻るわけにもいかぬ。子供の使いではないのでな」
そう言って馬から降りるグランリスタ将軍。
「無駄に血を流すのは本意ではない。私が相手をしよう。そちらは指揮官が二名であれば二人がかりでもかまわぬ」
そう言いながら背中の黒い大剣を抜く。
(二人がかりでも正直相手になるかどうか・・・)
(それでも、時間を稼がねばならぬ)
悲壮な決意で武器を握り締めるゲルリックとゲルダー。
お互い、魔王新太に見い出された者として、部隊を任された武人としての矜持が、圧倒的強者に武器を向けさせる。
「『戦槍のゲルリック』参る!」
「『戦斧のゲルダー』参る!」
話し合いも碌にないまま、まずは一当て。いかにも武人らしい判断で事態は動き始めた。
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(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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