第48話 黒衣の騎士団が判断した事
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「将軍、本当にお一人で行かれるおつもりですか?」
「・・・うむ。皇帝ドムゲスタ様の勅命ゆえにな」
常勝将軍グランリスタ・フォン・ゴッセージは馬上から馬の歩みを止めることなく答えた。
「此度の勅命は常勝将軍であらせられますグランリスタ将軍を疎ましく思い、ソルテア国に殺させたうえでその復讐を大義名分にソルテア国に攻め入るのが目的かと・・・。そのような策でグランリスタ将軍を危険に晒すことなど、この副隊長のコルネリアス・フォンデュッタ見過ごすことなどできません!」
すでに常勝将軍と呼ばれるグランリスタはズアノーン子爵領まで約10日間、それからソルテア国に行くまでの山道約3日間を移動できるだけの食料などを積み込んだ荷物を持ち、愛馬ブラックウォールに跨って出発する直前だった。
そこへやって来たのは黒衣の騎士団、副団長のコルネリアス・フォンデュッタであった。同じように馬にまたがり、グランリスタの乗る馬に寄せてきていた。
「ふむ・・・そのような考え、お前の考えではあるまい。誰に聞いた? 大方、ザグレブ当たりの見当か?」
「うっ・・・」
ものの見事に言い当てられ、副団長のコルネリアスは二の句が継げなかった。
時は少し遡る。
「馬鹿なっ!将軍お一人でソルテア国に使者として発てだとっ! 皇帝陛下は将軍に死ねとおっしゃられるのかっ!」
騎士団宿舎。
黒衣の騎士団、副団長のコルネリアス・フォンデュッタは部下の報告を聞いて激高した。
「落ち着け」
「これが落ち着いていられるか!」
千人隊長、ソードレイの声にも噛みつくように答える副団長のコルネリアス。
「副団長のお前が騒いでいては話が進まん」
「むっ・・・」
ソードレイのツッコミにやっと黙るコルネリアス。
「だがな、コイツは相当匂うぜ?」
「ザグレブ? いつ戻った?」
コルネリアスはいきなり声がした方を見る。そこには今までこの部屋にいなかった百人隊長ザグレブの姿があった。
「たった今さ。それより、やばいぜこの話は」
「どういうことだ、ザグレブ」
千人隊長ソードレイが真剣な眼差しでザグレブを見る。
副団長のコルネリアス、千人隊長のソードレイは戦争と剣の実力で伸し上がった騎士である。だが、百人隊長ザグレブは違っていた。ザグレブは元々盗賊団の頭であり、黒衣の騎士団が遠征中に戦闘になり、隊長であったグランリスタ将軍と一騎打ちの末敗れた際に、見どころがあるので盗賊団を解散し、心を入れ替えて騎士団に入隊するなら許すとの将軍の温情があり、この黒衣の騎士団に入隊することになった男である。
「今回の勅命、間違いなくお頭を殺す算段だって話さ」
「グランリスタ将軍をお頭と呼ぶのは止めろっていつも言っているだろう!」
話よりもまず呼び方にツッコミを入れるコルネリアス。
「それより、どういうことだ? 将軍を殺す算段と言うのは?」
コルネリアスに任すと話が進まないと判断したソードレイはザグレブに話を進める様に促す。
「すでにソルテア国には三度兵団が派遣されている。最初は五百名、次に七百名、最後は千名の兵団に千人隊長のザボーンと「兇族」カバル兄妹が付いていたそうだ。だが、誰一人ソルテア国から戻っていないらしい」
「な、なんだとっ!!」
コルネリアスが叫ぶ。そんな国に一人で使者として発てという勅命を出した皇帝陛下に信じられない思いだった。
「つまり・・・、ソルテア国は現在二千を超える兵団を打ち破る戦力がある・・・と、いう事か?」
落ち着いた表情で分析するソードレイ。
「そうだ。そしてソルテア国にこの黒衣の騎士団を派遣せず、お頭だけを一人で派遣する理由・・・それは一つしかねぇよ」
「お頭じゃないって言っているだろっ!」
「それは、まさか・・・」
「ああ、正論をいつもぶちかましているグランリスタ将軍を殺させるつもりさ、皇帝陛下様はよぉ、ソルテア国にな!」
「なんて・・・ことだ・・・」
ソードレイは肩を震わせて呟く。軍人として、勅命の重さを理解はしている。だが、明らかにその言動が煩わしいからと言ってあえて死なせるような勅命を出す皇帝陛下を信じる事が出来なくなっていた。
「そんな勅命、許されるものではないっ! こうなれば皇帝陛下に勅命を撤回して頂くよう直訴しなければ!」
「あんさんの直訴なんか役にたちまっかいな。首が飛んで終わりでっしゃろ」
急に方言で喋り出すザグレブ。普段のたわいない会話と相手を馬鹿にする時、そして本気で喋る時は方言が出るのがこの男の特徴だった。
「と、なると・・・俺たちの取るべきは一つだな」
「ちょっと待った。行動は一つだが、先の判断はたぶん、世界を変えるほどの選択が必要になると思いますよ?」
ソードレイの行動は一つという言葉にザグレブが被せる。
ここにいる騎士団のメンバーはすでに心が決まっている。
皇帝陛下が勅命としてグランリスタ将軍に一人で行けと指示を出している。だが、それを破り、自分たちもグランリスタ将軍に追従して行く、それ以外にグランリスタ将軍の命を守る方法はない。
「世界を変えるほどの選択・・・? どういうことだ?」
コルネリアスが正気に戻ったようで話に加わる。
ソードレイも真剣にザグレブを見つめる。
「お頭・・・グランリスタ将軍の命を守るというミッションが大前提やけど、その後の対応をどうするかによって運命が大きく変わる、そう言っているんですわ」
ザグレブの言葉に方言が混じってくる。この男が本音を晒してきているせいでもある。
「そうか・・・」
ソードレイはザグレブが言わんとしたことの一端に気づき、考えを巡らす。
「おい、ソードレイ。どういう事なんだ?」
「いいか、考えみろ、コルネリアス。一人で行けという皇帝陛下の勅命を受けたグランリスタ将軍を守るため俺たちが出撃したら、無事にグランリスタ将軍をお守りできたとしても、戻ってきた後、俺たちは命令無視のお咎めを受けるという事さ」
「むっ! だが、そんな事を恐れてグランリスタ将軍を見捨てることなどできない!」
「だが、戻ってきたらその首は落ちるかもしれん」
「それでもグランリスタ将軍を見捨てることなどできん!」
コルネリアスが断言する。
「わいらの処分もさることながら、お頭・・・グランリスタ将軍の進む道を考える時だってことですわ」
ニヤリと悪党面で笑うザグレブ。
「・・・? どういうことだ?ザグレブ」
ソードレイが再度ザグレブに問う。
「選べる選択は二つに一つ。一つは黒衣の騎士団全員が一斉に休暇届を出してグランリスタ将軍にたまたまついて行く、という方法。この方法でも無事に帰って来た時に俺たち騎士団が処罰される可能性が無いわけじゃない。場合によっては反逆罪で首が飛ぶ可能性もある。その際のグランリスタ将軍がどのように対応するか、逆に心配になる所や」
「ふむ・・・、俺たちが全員処罰されるとなれば、ヘタをすればグランリスタ将軍がその身一つで減刑嘆願に出る可能性もある・・・」
「その通りや。目的は口うるさいグランリスタ将軍の処分。皇帝陛下はグランリスタ将軍がいなくなればそれでええんやろうしな」
「ぐっ・・・何てことだ!」
コルネリアスは拳をテーブルに叩きつけた。
「もう一つの選択は?」
ソードレイがザグレブに話の続きを促す。
「騎士団全員で退職届を書いてグランリスタ将軍に無理やりついて行き、そのまま明らかに国に変化が起きたソルテア国につくか・・・や」
「な、なんだとっ!?」
ソードレイが大声を出すが、それより早くコルネリアスが動いた。
「貴様ッ!我らに国を裏切れというか! やはり盗賊団のお頭だったということかっ!」
ザグレブの胸倉を掴むコルネリアス。
「考えてもみーや。国に順応だというなら、俺たちはグランリスタ将軍を見送って寄宿舎で待機や。それがわからん副隊長殿でもあるまい?」
胸倉を掴まれたまま肩を竦めるザグレブ。
「うっ・・・」
「それに、大人しく帰って来ても俺たち騎士団は命令無視の咎で最悪死刑や。騎士団の解体も免れん。それを唯々諾々と飲むお頭でもあるまい?」
「ぐむむ・・・」
黙り込むコルネリアス。
「大体、皇帝陛下は明らかにグランリスタ将軍を排除しようとしとる。すでに元帥から降格されとるのに、その態度を改めんグランリスタ将軍を鬱陶しいと思っとるやろうしなぁ」
「確かにな・・・」
ソードレイが宙を仰ぐ。
グランリスタ将軍の頑固さと実直さを考えれば帝国のために首を差し出す、というのは十分にあり得る事だった。
「だが、グランリスタ将軍に聞けば、必ず先帝陛下時代からの恩の話が出て、その首を差し出すとでも言うやろうなぁ・・・」
ザグレブがソードレイの考えたことと同じことを口にする。
「ばかなっ!」
「だが、お頭・・・グランリスタ将軍は帝国のため、とか言って従うと思うで?」
「それがどこの帝国のためなんだっ! あの越え太ったブタの単なる我儘だろうが!」
「それ、どー考えても不敬罪で死刑やで?」
おどける様にザグレブが言った。
「構うものか! どうせ将軍の命をお助けしたら俺たちの首は飛ぶのだろう!」
ドカンッ!
木のテーブルをその拳で叩き壊すコルネリアス。
「その意気やな。ならば、俺たちが取るべき道はただ一つだけや」
「そうだな。全員退職願を書いておけ。ついてきたくない奴もこの帝都は脱出したほうがいいだろう。あの皇帝陛下がどんな判断を下すかわからん」
ソードレイのセリフに、他の騎士たちも反応する。
「ソードレイさん、俺たちももちろん行きますよ!」
「そうそう、あの皇帝陛下にゃいい加減うんざりしてるんだ」
「ちょうどいい機会だぜ!」
騎士団に所属する他の騎士たちも呼応する。
「よし準備するぞ!目標はズアノーン子爵領、その北にあるソルテア国だ! 退職届書いておけよ!」
「「「おおお―――――っ!!」」」
黒衣の騎士団はあわただしく出立の準備を始めた。
「―――――そんなわけで、ソルテア国までお供致します」
「命令違反の咎を受けるぞ?」
グランリスタ将軍が厳しい目を向ける。
「元より、黒衣の騎士団二千。すでに退職届を提出しております」
「な、なんと・・・」
グランリスタは呆気に取られていた。
「さあ、参りましょう。ソルテア国に何が起きているのか・・・この目で確かめに行きましょう!」
副団長のコルネリアスは声を張り上げた。
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