第4話 片腕候補
魔国12将軍と宰相を集めた全体会議を終え、俺様は大会議室を後にしようとした。
直接指示を出していない将軍もいるが、個別に指示を出す場合は別途連絡すると伝えてある。そんな俺を呼び止める奴が・・・。
「魔王様、ワシには何か仕事がありませんかのぅ?」
魔国12将軍序列第3位、大魔道だ。
この男?声から判断するしかないが、薄クリーム色のローブを全身に纏い、顔の奥は怪しく光る目らしきものしか見えない。
資料も「大魔道」と序列しか書いてない。
大魔道ってどう見ても職業というかクラス、だよね?
まさか「大魔・道」さんではないよね?
この大魔道、先ほどの会議ではかなりまともな意見を言っていたな。
今後いろんな策を練ることになるが、ブレーンが欲しいと思っていたところだ。
うまくいけば俺の片腕になってくれるかもしれない。
気分的にはサキュバスお嬢様のドロステラにお願いしたいところだが、女性に言いづらい事などもあり得るかもしれない。
・・・もっとも大魔道が男かどうかは声でしか判断していないが。
「大魔道か。本名教えてくれたらいい仕事あるぞ?」
「はっはっは、まさか魔王様がワシのようなおいぼれの名前に興味があろうとは」
ゴツイ宝石のついたイカツイ杖をつきながら肩を揺らして笑う。
飄々としてつかみどころがない感じだな。
逆にこういう男の方がいろいろ喋れて面白いかな。・・・男だと思うけど。
「売り込みに来るくらいなんだから、いろいろと出来るんだろうな?」
俺は努めて邪悪な感じでニヤリと笑った。
「ほっほっほ、魔王様にはすでにご存じと思いますが、この大魔道、些か魔法には自信がございます。また、呪文を放つだけではなく、魔道具に精通しております。魔道具の解析はもちろん、製作も対応できますぞ」
やけに丁寧に教えてくれる大魔道。ありがたいが、まるで俺が魔国12将軍の情報をほとんど持ち合わせていないことが分かっていて話しているようだ。まさかな・・・。
「先の会議における発言も非常に常識を踏まえた上で大局を見ることのできるものだった。魔道だけでなく、軍師としても期待したいところだな」
俺は大魔道に目を向ける。
「ふぉ~ほっほっ! ワシに常識を期待するとは、魔王様も正気を疑われかねませんぞ!」
そう言って愉快に笑う大魔道。自分でそこまで言う?
「何だ、すでに対応したい内容があるのか。遠慮することはない、言ってみよ」
偉そうに言う俺。どうも、俺に最初から進言したいことがあるようだ。
「ほっほ! さすがは魔王様、お見通しでいらっしゃるか。実は、遠くを見通せる魔道具の開発を行いたいのですじゃ」
さらっととんでもないことを言う大魔道。それって、かなり有益だぞ。他国の情報が欲しくて仕方ない俺にとっては喉から手が出るほど欲しい魔道具だな。
「ほう!それは素晴らしい魔道具だな」
「わかりますか! さすが魔王様!」
たぶん破顔一笑しているであろう勢いで喜ぶ大魔道。最もその表情はローブの奥に隠れて伺い知ることは出来ない。
「誰に話しても『そんなものは使い魔で対応すればいい事だ』などと、情報を取得、共有することに大事を見出してくれませぬ」
んん? 聞き捨てならないぞ。
「待て、大魔道。使い魔を使えば遠くの情報を得ることが出来るのか?」
「もちろんでございますよ、魔王様。使い魔の視覚を共有することが出来ますからのう。だがそれではあくまで使い魔を使役する術者のみが情報を取得できるのみ。同時に複数で内容を確認したり、意見交換をしたりする分には不向きなのです」
確かにそうだ。術者しか見られない情報を説明だけで納得するのは限界がある。
出来ればプロジェクターを見るような感覚で情報を共有できるのが望ましい。
「実はすでに、スパイ・アイという目玉に翼が生えたような小型生物を魔道改良によって繁殖させることに成功しております。このスパイ・アイが見た映像を魔力変換して受信機へ送信することにより、水晶画面に映像を映す方法を考えております」
何と! 今思い描いたことがほぼ希望通りになるとは! 恐るべし大魔道。
「で、俺に何をさせたい?」
「差し当たって予算的なモノが厳しくなっております。また、メドが立つまで集中的に対応したいので、その他お役目の対応を控えて頂ければ・・・」
「ふむ、いいだろう。差し当たってお前に直接依頼せねばならない案件も無いしな。何よりその魔道具、かなり有用だ。出来る限り急いでくれ」
「ははっ!」
大魔道はニヤリと笑った・・・ように見える。たぶん。
「ちなみに、送られてきた映像だが、記録して保存したり、印刷して写真にしたり出来るか?」
「・・・なんですと? 今何とおっしゃいました?」
大魔道がずいっと近づいて俺を覗き込むように問いかける。ここまで近づいても大魔道の顔が真っ暗で目しか光って見えないのはある意味ファンタジーだな。
「だから、送られてきた映像を記録して保存できるようにしたり、印刷して写真に残したりだな・・・」
そう言って俺はハタと気づく。この世界の技術がどうなってるのか?
印刷や写真と言った言葉が通じない可能性もあるわけだ。
「映像の記録・・・なんと! 魔王様は神であらせられるか! 見ることばかりに気を取られておりましたが、見えた映像を記録として残せば、あらゆる情報を保管できるのと同じですな! その場にいない者にも後から映像を見せることが出来る。これは有用というレベルで片付けられるような技術ではありませんな! 画期的ですぞ、魔王様!」
大興奮で嬉しそうに語る大魔道。どうも遠隔から魔力変換したデータを映像受信することに精一杯で送られてきた映像データをどう活用するかまで考えが回らなかったようだ。
それにしても、魔王に神ってどーなの?
「して、印刷とか写真とか言ったものはどういう物なのですかな?」
「写真は見た映像のままの物を絵にしたものだな。絵描きが見たものを描くのと違い、映像のままの物を紙に映すようなイメージだ。映す技術の事を印刷と呼んだのだ」
「なるほど! 先の映像記録では、後から再度映像を見ることが出来るわけですが、大事な部分や決定的な部分を写真というものに印刷できれば、その部分を切り出して保管できるわけですな。これも画期的アイデアですな!」
「そうだな。写真も保管する一形態だが、写真は他の使い方もある。敵国の大事なシーンであれば同じ写真を何枚も印刷して、会議時に全員に資料として配ることもできる」
「ほほう! それは会議での理解度が深まるとともにより短時間でまとめることが出来るようになるでしょうな。何といっても言葉だけの説明ではない、まごうことなきそのものの映像が写真としてそこにあるわけですからな」
「それ以外だと、写真集という物もあるぞ。例えばサキュバスのドロステラをたくさん写真に撮って本にしたものを国民に販売する。きっと人気が出るだろうな。ああ、人間国にも写真を売るといいな。あまり魔族っぽくない格好で写真を取れば大人気間違いなしだ。これで人間国から大金を巻き上げて・・・」
ウハウハと取らぬ狸の皮算用をしていると、背後から何やら冷たい風が吹く。
「魔王様・・・?」
はっとして振り返ると、そこには凍てつくような視線のドロステラが。
「・・・一体何を企んでおられますので・・・?」
絶対零度まで引き下がったような温度を感じる。これはヤバイ。
「い、いや! ドロステラの美しさに感動するあまり、その美しさをどのように記録しておくべきか悩んでだな・・・。どうせならドロステラの美しさを万民に知らしめるのも良かろうかと・・・」
しどろもどろになる俺。下手するとブッ殺されかねない。
チラリと上目使いにドロステラを見てみれば・・・
「う、美しさを万民になんて・・・出来れば魔王様だけに留めておいていただけませんでしょうか・・・?」
両手を頬に当て、顔を赤らめながらクネクネと体を揺らすドロステラ。
・・・チョロイン・・・
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