第35話 誰が為に歌は歌われるのか?
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営業は非常に順調に件数を伸ばしている。
ついには大手商会のグループであるレストランからも営業依頼が来るようになった。
モンスター娘たちとリーンハートで別々の営業を受けさせることにより、より数をこなせるようになっている。
彼女たち見たさに食事に来るようになるため、極めて効果が高い戦略として認識され始めた。
また、公演自体も好調を維持している。
この前は演劇の部でモグラ叩きをイメージした演出が受けた。
モンスター娘たちがもぐらとなり、リーンハートが巨大ハンマーを振り回して追いかけまわすと言うコントじみた流れで好評だった。
おかげで売り上げも好調で、ゼブルとの分配を行ったあとでも、新太の取り分はかなり増えていた。
そして、忙しく公演を続けているある日、公演後のグッズ販売と握手会を行っていた。
その日、ついにリーンハートの列が途絶え、モンスター娘のグッズ販売の列だけになった。
「何故なんですの・・・」
そしてリーンハートはその場に倒れた。
「リーンハートちゃん!?」
ハーピィのハーちゃんがリーンハートが倒れた事に気が付いたが、その対応は商会のスタッフが対応した。
お客様もリーンハートが倒れた事に気づいた。
「担架を持ってこい!」
慌てたスタッフが担架を用意してリーンハートを寝かせて裏の休憩室へ運んで行った。
「・・・・・」
目覚めたリーンハートは自分がどこにいるのかわからなかった。
「私は・・・一体・・・」
そして、握手会の途中で倒れたことに気が付く。
「い、いけない! 会場に戻らないと・・・」
起き上がろうとしたリーンハートを制する声が聞こえる。
「待つんだ、リーンハート」
「あ・・・新太様・・・」
人間の姿をしていたが、その顔は間違いなく戸隠新太であった。
「君が疲労の極致にいることは知っていた。だが、倒れたのは疲労だけが原因かな?」
リーンハートは根幹を掴まれた気がして心が苦しくなった。
疲労の極致にいたリーンハートはモンスター娘たちだけが人気になり、自分が飽きられてしまったという認めたくない現状が目の前で広がったことにより、張り詰めていた気持ちが切れてしまったのであった。
「ううっ・・・」
リーンハートの目から涙が流れる。
「なぜ、モンスター娘たちの人気が衰えないのかわかるか?」
「何故なんですの・・・」
涙を拭うことなく、顔を上げるリーンハート。
「リーンハートよ。お前は誰のために歌を歌う?」
「誰のため・・・?」
「面接時に聞いたな。自分の歌を届けたい。命ある限り。そうお前は言った。だがそれは誰のためだ?」
「・・・・・・」
答えられないリーンハートに新太は魔法を掛ける。
「<リフレッシュ>!」
リーンハートの体が光に包まれる。
「少しは楽になっただろう。俺について来るといい」
そう言って新太が部屋を出ていく。リーンハートは慌てて起き上がり後をついて行った。
「不思議か? リーンハート」
会場の袖口からそっと様子を見る二人。
途切れることの無い握手を求める人の列。
だが、モンスター娘たちと握手をし終わった人の中の一部はリーンハートが先ほどまで立っていた場所の前に並んでいた。
「どうして・・・」
「お前の体調が落ち着けば、戻って来れるとアナウンスしている」
「えっ!?」
「今並んでいる人たちを見て見るんだリーンハート。あの小さな男の子も、お前の事を孫にそっくりと喜んでいた爺さんも、みんなお前に歌を続けさせたくて来てるのさ。なけなしのお金を握りしめてな」
そう言って新太は公演会場の入口に貼ってあるポスターをリーンハートに見せる。
「・・・・・・!」
そこにはこう書かれていた。
【彼女が歌を続けられるよう、みんなで応援しよう!】
「こ、これは・・・」
「皆が知っているんだよ。君の公演をファンはお金を出して見ることにより、そして君の姿絵などのグッズを買うことにより、君が活動を続けていけるって事をね」
「そ、そんな・・・」
リーンハートはわなわなと震えていた。何の苦労も無く育った伯爵令嬢には想像がつかなかったことだろう。
「君は家に帰ればおいしい食事も、暖かい寝具もあるだろう。だが、彼らは全員がそうではないと思う。ある者は食べるものを我慢して、ある者はお酒の量を減らして、ある者は今日泊まる宿代を節約して、君が歌を歌い続けられるように応援に来ているんだ」
「・・・・・・!」
リーンハートは涙を流していた。
見ればモンスター娘の3人は子供には腰を落として、目線を合わせる様に話しかけている。
「あの3人は君のような恵まれた環境で育ってきたわけではない。だから知っているんだ。彼らのような応援をしてくれる人たちがどのような生活をしているのか。そしてどんな気持ちで自分たちを応援してくれるのか」
リーンハートは新太の横顔を見つめた。
新太はリーンハートの方を向かずに、会場を見ながら続ける。
「だから、彼女たちは応援に来ている人たちのために歌う。自分のためではない、お客さんのために歌うんだ。お客さんのために握手をするんだ」
リーンハートは涙を流したまま、会場を見つめた。
伯爵令嬢として、何不自由なく育てられてきた。
そんな自分が歌う機会を頂けたと言うのに、お客様に寄り添えていなかった。
握手する時に、「握手してあげる」という上からの態度ではなかったか?
グッズを買ってくれるファンが、握手を求めてくるファンがどのような気持ちでお金を持って応援しに来てくれるのか、考えたことも無かった。
リーンハートは駆け出していた。
「皆さん! お待たせ致しました!」
涙を拭い、笑顔を作る。
誰のためでもない、自分を待ってくれていたファンのために。
「リーンハートちゃん大丈夫!」
「無理しないで!」
「でも待ってたぞー!」
「皆さんありがとう! 本当にありがとう!」
溢れる涙を拭いながら、待ち続けたたくさんのファンに心を込めて握手をしていく。
その輝く笑顔を袖から見ていた新太は、リーンハートが本当の意味でファンのために歌を歌えるようになるであろうことを確信した。
「もう、俺無しでも運営できるな」
「それでは、お戻りに?」
新太の独り言にドロステラが反応する。
「そうだな、出来ればせっかく冒険者ギルドに登録したんだから、何か依頼でも受けてみたいけどな」
「あ、それ良いですわね!」
二人でウキウキと話をしている時だった。
バサバサッ!
二人の前に一匹のフクロウが現れる。
「・・・使い魔ですわね」
そのフクロウは翼の内側から手紙を取り出し、新太に渡してくる。
「・・・?」
新太は手紙を受け取ると中を開いて読んでみる。
『新太様
魔王城を旅立ってからだいぶ時間が経っておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
一度ご報告にお戻りになられた様ですが、経過報告書のみの提出で私に挨拶も無しに再び魔王城を出立されましたのは如何なる事情があってのことでしょうか?
また、新太様は定例会議にまだ一度もご参加いただいておりません。魔王様という立場上、魔国十二将軍のとりまとめもあるため、あまり放置されますと求心力に影響を与えかねませんのでご留意頂きます様お願い申し上げます。
追伸
お土産楽しみにお待ちしております
メリッサ』
「・・・・・・」
「・・・・・・」
新太とドーラは顔を見合わせた。
「ヤ、ヤバイ! メリッサが怒ってる!」
「バクハツ寸前って感じですわ!」
「ドーラ! 大至急帰る準備をするんだ! 俺はゼブルに今後の指示をして挨拶してくる! 夜通し飛んで明日朝からの会議にしれっと出るぞ!」
「了解ですわ!」
こうして新太とドロステラは慌てて魔王城に帰還することになったのであった。
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