第2話 論破
「・・・さて、とりあえず集まった資料を元に会議を進めよう」
俺は努めて偉そうに告げる。
先ほど俺をこの部屋に案内してくれたメイドさん、メリッサって言うみたい。
どうもメイドの中でも一番えらいメイド長みたいだった。
そのメリッサが山のような資料を持ってきてくれた。
メリッサすげーな。実はメイドが国内外の情報に一番詳しいとか?
「先ほど、この国の問題を上げてもらった。オーガ族族長クーガー、貴様の言った人間族の根絶やしによる魔族の楽園については、この国の問題ではなく、貴様自身の悲願、希望と言った類のものになる。よって現段階では問題点から外す事とする」
「む・・・」
顔を顰める。だが異論は無い様だ。
「さて、この国の最も大きな問題は『食料不足』による国民の飢えに対処せねばならないことだ」
「まあそうですなぁ。戦争にしろ、国内生産の増強にしろ、食わねばやっていけませんからなぁ」
灰色ローブ事、魔国12将軍、序列3位の大魔道さんが語ってくれる。この人、大魔道って職業だと思うけど名前の登録がないんだよね。大魔道って呼ぶの、変じゃね?
あ、ちなみに魔国12将軍の資料もこっそりもらっておいた。メイド長のメリッサ、マジ有能。軍部資料の中で、将軍の情報も再度確認したいと伝えておいたが、バッチリ分かりやすい資料を持ってきてくれた。てか、これメリッサがまとめたのかな? 字が他の資料と違ってきれいでかわいい感じだ。
「そのための戦争ではありませんか! 世界地図をご覧ください。この北の大地の入口に面しているラインハルト公国を攻め、我がものとするのです」
熱く竜頭が語る。この人、宰相のドラグロア・フォン・ドラゴンナイトって人だったんだね。戦闘力は魔国12将軍に及ばないものの、博識と経験から我々をまとめる役に付いているようだ。竜人族っていう種族みたいだけど、なんだかすごそうだ。フォンって貴族を表す言葉だっけ? ドラゴンナイト卿って事か。なんだかかっこいいなぁ。
「それで? クーガーよ、そなた達は人間どもを喰らって食料とでもするのか?」
「バカ言わねえでくれよ、魔王様。人間は喰えねぇこともねえが、さしてうまいもんでもねぇ。よっぽど牛や豚やイノシシの方がうまいぜ」
「で、あれば人間を食料とするために戦争を仕掛けるわけではないということだな?」
「当たり前ですよ!我々が欲しいのは食料と土地と労働力です」
宰相ドラグロアが甲高い声を張り上げる。
「ほう?」
キラリと目を輝かせ、俺は宰相を見る。
「食料と、土地と、労働力が欲しくて戦争を仕掛けるのだな?」
俺は繰り返し宰相に確認する。
「そうですとも。何かおかしなことがありますか?」
まっすぐ俺の目を見て答えるドラグロア。
「俺から見ればおかしなことだらけだな」
「何ですと!」
ドラグロアは驚愕の表情を浮かべる。
「まず食料が欲しくて戦争を仕掛ける。だが、食料がなければこちらの兵站も賄えまい」
「もちろんです!それだけ必要な食料も集めております」
自信満々に自分の胸を右手拳でドンッと叩くドラグロア。
確かにそうだ。メリッサの持ってきてくれた資料を見ても、戦争を仕掛ける兵たちの食糧はギリギリ賄えそうだ。仕掛けるだけなら、だが。
「では、その集めた貴重な食料を使って戦争を起こし、ラインハルト公国を打ち破ったとして、いったいどれだけの食糧が新たに手に入るのかね?」
「あ・・・」
サキュバスのお嬢さん、ドロステラが気づいたように声を漏らす。
このサキュバスのお嬢さんも、ドロステラ・フル・レミントルグという長い名前だ。家名っぽいのが付いてるし、由緒正しい家柄なのかなぁ。さすがに賢いのか、問題点に気づいたようだ。しかも魔国12将軍の中でも序列5位。高い!超美人なのにすごい実力者だ。
戦争資料にはラインハルト公国の軍事施設、拠点、食糧倉庫などの情報や兵数、国民数まで情報としてはそれなりにある。この兵数からただ単純に軍事力を計算すれば、こちらから戦争を仕掛けた時、単純計算としては勝つ確率が高いともいえる。
だが、この戦争は勝つことだけが最終目的ではない。食糧と土地、労働力を求めて戦争を仕掛けるのである以上、勝つだけではだめだ。
円卓上の将軍たちも口を開かない。
「少なくとも俺がラインハルト公国の公王であったなら、戦が不利になった時点で食料をまとめ、西のジークフリード王国へ逃げ込むな。その時食料や水がすぐ手に入らないよう食糧庫には火をかけ、井戸には石でもぶち込んでおく。そうして焦土と化したラインハルト公国を我々に占拠させ、四苦八苦しているところにジークフリード王国の軍隊と逃げて温存したラインハルト公国の残党を合わせて再び攻め込んでくればいい。我々は食料も労働力も手に入らずただ焼け焦げ焦土と化した土地だけが残された場所で、食料も水も十分に用意出来ないまま、新たな軍勢と戦争をせねばならなくなるだろう」
将軍たちの顔色も悪くなる。言葉も無い様だ。
最もこれほど人間国にうまく運ぶとも限らない。国民全員がジークフリード王国へ脱出できるわけでもないだろう。ただ、食料は何としても渡さないように対処してくるだろうな。戦争で食料が手に入る確率はかなり低いとみる。そんな賭けに出るような真似は出来ない。
何より戦争はしたくない。ここは断言的に伝え、戦争以外の道を模索する以外にないと思いこませねばならない。
「さらに言えば、昨今の世界情勢を見るに、魔国の国境付近での小競り合いもあまりなく、争い自体が少ない。これを魔国弱体と人間国が受け取っておればよいが、魔国が爪を研いでいると思われている可能性もある。その場合、戦争という引き金によって、魔族滅ぼすべしと人間国が一致団結する可能性もある」
「うっ・・・」
宰相ドラグロアが口を噤む。
我々魔国にとって一番まずいのは人間国が一致団結して打倒魔国に動くことだ。
そうなれば打つ手が無くなる。それに懸念事項はそれだけではない。
「資料によれば、すでに3年前に『勇者』なる者が出現し、各地を旅しているとの情報もあるな。この勇者が偽物、本物にかかわらず人間国家が一致団結となれば必ず我らの前に立ち塞がるだろう。この勇者が何者なのか? どのような戦力なのか? 人となりは? 剣は? 魔法は? ほとんど情報も無いまま人間と敵対するのは自殺行為に等しいとも思えるが?」
「それほどまでの者でしょうか・・・? その勇者とやらは」
メデューサが首を傾げる。
「たかだか人間だろう?勇者だかなんだか知らんが一捻りだろ」
獅子王ダルカスが吠える。この獅子王ダルカス、顔がどう見てもライオンなんだよな~。
体はかなりマッチョな感じなんだが。
「脳筋めが。相手の能力も知らずになぜ断言できるのか」
「脳・・・筋?」
ダルカスが何を言われているかわからないといった表情で俺を見る。
「相手の情報を得て、分析し、こちらの戦力を比較したうえで戦略を立てる。そういったことが出来ずにただ単に力押しで進むことだけしか考えぬものは脳みそまで筋肉で出来ていると揶揄する意味で「脳筋」と呼ぶのだ」
「ななっ・・・!」
馬鹿にされたと獅子王ダルカスが顔を真っ赤にする。
「ぷっ・・・」
サキュバスのお嬢さんも笑っちゃったから獅子の怒りはますますヒートアップだ。
「それで? 今ストレートにラインハルト公国に戦を仕掛けるのがまずいというのはわかりました。では魔王様はどうなさるおつもりか?」
序列第2位、ナイトメアという種族の黒衣の騎士、シェタッフガルド。2mを超えようかという大柄な騎士だ。背中にこれまた真っ黒な巨大剣を背負っている。鎧もマントも兜も真っ黒。職業ダークナイトってことだけど、二つ名が「黒衣の騎士」。そのまんまだな。
ここが勝負だ。現状の戦争案ではうまくいかないと論破することが出来るかどうかは、
この後の対策案とセットでなければ道を示すことは出来ない。
前世・・・というか、元居た世界の知識をフル回転して何とか対策を説明していこう。
他にも投稿しています。
転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?
https://ncode.syosetu.com/n2026ew/
ドラゴンリバース 竜・王・転・生
https://ncode.syosetu.com/n1684ew/
よろしければぜひご一読頂けましたら幸いです。